2020年4月18日雨。この非常事態は植物にとっては関係ないんでしょうか?
山本ムーグ様
ムーグさん、昨日は電話でどうも。さっそくですが、交換日記? 往復書簡? ネット時代なのに適切な言葉がないけれど、とりあえずふたりでnote始めましょう。
実はちょうど僕も誰かと文章を交わしたいと思っていたところでした。なんとなく今考えていることを言葉にして記しておきたい。やはり毎日家の中にいると日常に起伏がなくなって日にちの感覚がどんどんなくなっていくので日記をつけたほうがいいだろうと。
そんななか先週ムーグさんがFacebookで配信した山根淳史さんとのライブは面白かった。レコジャケをアートパフォーマンスみたいに無駄に格好つけて見せながらヴァイナルを回しておしゃべりしてて、みんなリアルタイムでニコ動みたいにコメントでリアクションつけていくのがオーディエンスとして楽しかった。あ、これライブハウスみたいだなって。で、知らない人のコメントにも自然にいいねを付けあってそのあとなんか名刺交換するみたいにFBの友人申請したり。出会いの場所としても機能してた。昔からよく知っている人も集まってて、久しぶりに再会したみたいに嬉しかったり。リアル空間で禁じられているフィジカルな接触とは違うけど、なんというかアブストラクトな濃厚接触みたいなものをコンセプチュアルに受容できた感触が残ったんですよ、あの日。
結局、本を読んだり音楽を聴いたりすることってそういう脳内濃厚接触なんだなあと。言葉や音を通じて作者の意識に触れること。実体のないものを実体化させるのがアートなんだけど、それを読んだり見たり聴いたり、要は媒介にして僕たちはもう一度形のない作者の魂に触れる。それは魂だから、作者の死後(つまりは肉体喪失後)も触れることができる。
あらためてこういうふうにアートにありがたみを感じるのは、やっぱり新型コロナウイルスの影響かな。なんか内省的にならざるをえない。だって、感染防止のためにみんな外出を控えて家の中で暮らしてる。これってコロナ騒ぎ以前は「引きこもり」って言われて社会問題にもなっていたこと。それがいまやみんながしている。国家レベルでいえば150年前まで日本がしてた「鎖国」のようなことをいま世界各国がしている。これまで少数派で異常扱いされていたことが一躍メジャーでノーマルな状況になっちゃった。
僕はもともと一人で誰とも話をせずに数日過ごすことはそんなに苦痛じゃないんですけど、今回何がいちばん堪えているかというと、一人で過ごすときによく行く美術館と図書館が閉まってしまったこと。新しい展覧会や古い本が探せないと僕は毎日が平坦すぎて日々の実感がなくなっちゃう。インターネットのおかげで世の中のデスクワークはリモートとクラウドでなんとでもなるし(でもそれ以外の仕事は本当に壊滅的な苦境に立たされてる)、サブスクで好きな音楽や映画にはそれなりに(というのは本当に見たい肝心な映画がなかったりするから、まあレンタル屋もそんなもんだったけど)アクセスできる一方で、濃厚接触の原因となるライブハウスは営業停止、コンサートもスポーツの試合も演劇公演も中止に。ラジオやテレビもスポーツ中継や番組収録ができなくなってこれからどんどんかけ流しや再放送が増えていくでしょう。いやはや、これまで文化や芸術や娯楽を支えてきた集客システムやメディアってこんなにも脆かったのかと愕然、呆然としてるんです。
切り株の断面の形を木自身は知らない
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ムーグさんが東京のウェストエンドに引っ越してからすっかりご無沙汰してるんですが、いつの間にか生花活けてたのが植木仕事にヴォリュームアップしてるのをFacebookの写真を見ながら興味津々だったんですよ。だって、植木ってグラフィティと似てないですか? 散歩をしていて住宅地の中にふっと突然格好のいい生垣が現れると「おっ!」てなるんです。街路に沿った緑の壁の連なりを眺めていると、大きな植木ハサミを手にした植木職人が空間を移動しながら面を作っていったフローが感じられる。エアロゾル(スプレー缶)を手にしたグラフィティ・ライターが長大な壁面を這うように駆け抜けていった痕跡のように。そもそも植木職人って粋でいなせなはずでしょ。都市空間に一発ボムる感じも、高いところ好きなのも、そしてアノニマスなところもグラフィティ・ライターと共通してるんじゃないかと僕の周りのアーティスト仲間では植木が再発見されたりしています。
日めくりカレンダーの企画の話をするためにいっそ往復ダイヤリーでということだったかと思いますが、僕はムーグさんに植物のことをたくさん聞きたかったんです。だって、植物は新型コロナウイルスに感染しない。地球上の人類や哺乳類がすべて感染しても植物は平気だなんて、植物ってなんだかすごい! それから都市封鎖中のフランスでのジョークに、急増する患者の対応に追われる精神科医師会のコメントとして「自宅隔離が続いた結果、壁や植物に向かって話しかける行為は異常ではありません。しかし、もし壁や植物が話しかけてきたらすぐに連絡してください」というのがあると知りました。まさに壁や植物と対話をしているのはグラフィティ・ライターと植木職人で、壁や植木から声を聞き取ろうとしているのは僕なんですから!
というわけで、医者に行く前にムーグ先生にこのことを相談したいと思います。
楠見清
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