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手にしたとき、感情を揺さぶるデザインを。Make a Mark 2022 小玉 文さんインタビュー

こんにちは。クルツジャパンのタナカです。

2022年10月、モナコで開催されたLUXE PACKでお披露目となったMake a Mark 2022。サステナビリティ、ラグジュアリー、コンセプトデザインをテーマとしアルコール&スピリッツなどの飲料のデザインを発表するMake a Markは、ESTAL(エスタル)、Avery Dennison(エイブリィ・デニソン)、Leonhard KURZ(レオナルドクルツ)によるイノベーションプロジェクトです。

Vol. 2となるMake a Mark 2022には、日本からBULLET Inc.の小玉 文さんが選出・参加されました。今回のインタビューでは、小玉さんがデザインしたボトル 【Urban Geeks Tokio】 に込めた想いを語ってくださいました。

小玉 文(コダマ アヤ)1983年大阪生まれ。
東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域卒業。株式会社粟辻デザインへの7年間の在籍を経て、2013年株式会社BULLETを設立。東京造形大学 助教。https://bullet-inc.jp/

多様な文化を受け入れる街、東京

ーーお披露目した作品について教えて下さい。作品のコンセプトは何ですか?

Make a Markチームとのミーティングで、「何をやってもいいのですか?」とお聞きすると、「自由です」という回答をいただいたので「私なりに自由な発想でやらせていただこう」と思いました。

この企画は、Leonhard KURZの箔、Avery Dennisonのラベル用紙、そしてESTALのボトルを使用することが前提条件です。「自分が思う東京を、3社の素材を活かしながら組み合わせて形にすること」をコンセプトに作品を作ろうと考え、ボトルそのものを小型の機械のような物体として表現するアイデアが生まれました。

Avery Dennisonのラベル用紙には、エンボス加工に適したシルバー紙があります。その素材に立体的な版を使って箔押し加工を施すことで、本物の電子基盤の金属パーツのような立体感を表現できないかと考えました。

ESTALには、既存ボトルの一部を四角く切り取ったかのように、5mm凹ませることができないか打診しました。その窓部分に電子基盤を模したラベルを貼ることで、まるでボトルの内側に電子部品がぎっしりと詰まっているように見せたかったのです。

ーー電子基盤のデザインには、どのようにたどり着いたのですか?

世界各国からデザイナーが参加する今回のプロジェクトにおいて、私は日本代表としてなにか「日本らしい」魅力のあるアイデアを提案したいと思いました。そこで、自分にとっての日本らしさとはなんだろうと考えるところから始めました。一般的に日本らしいものといえば京都の町並みや歌舞伎などの伝統芸能、焼き物などの伝統工芸を思い浮かべるかもしれませんが、私が感じる日本の魅力とは、「色々な文化を受け入れて混じり合いながらも、それぞれが共存している」こと。八百万の神の存在を認める包容力が、日本ならではの魅力だと考えています。

多種多様な看板がごちゃごちゃと集まった新宿の街並みは、文化のサラダボウルのような景色です。ひとつひとつが異なる役割を持ち、隣り合うものと関係を持ったり、あるいは干渉を避けたりしながらひとつの様相を形成していくその様子は、様々な部品で構成される電子基板のようだと感じました。

日本の秋葉原に代表される「日本人らしい感情」のひとつとして、電子機器的なものに対して抱く「萌え」の感情があります。そんな「日本らしさ」も、この電子基板のアイデアで表現できないかと考えました。

今回の作品のタイトルは、【Urban Geeks Tokio】。東京という街が内包する多様性を表現しています。電子基板のゴールドの線は「東」「京」の漢字2文字を抽象化したタイポグラフィです。様々な文化が世界から東京に集まってきて、東京からまた世界に新しい文化が発信されていく。そんな「文化の回路」のような東京を表現しています。

必要ないと思われるものに、意味と愛着を生み出す

ーーMake a Markについて、最初どのように受け止めていましたか?

普段はグラフィックデザインを軸に活動していますが、立体物のデザイン・パッケージ・プロダクト・インダストリアルにも興味を持っていて、パッケージはグラフィックと立体の中間に位置すると考えています。

Make a Markプロジェクトは、ボトルをテーマに「立体物としての魅力的なアイデア」を追求する企画なので、私が常日頃やりたいと考えていることと合致しており、とても嬉しい依頼でした。

ーーMake a Markには、サステナビリティ、ラグジュアリー、コンセプトデザインというテーマがありました。小玉さんが作品に込めたテーマは?

特にコンセプチュアルな面を意識しました。

もちろんパッケージデザインでは使いやすさを追求していくことも、サステナビリティも大切です。一方で私は、無駄かもしれない「装飾」に大きな意味を感じています。

ESTALは酒のボトルを多く作っていますが、飲酒という行為自体、必要無いといえば無く、デザインも同様です。でもやはり意味はあるんです。「1日の中でお酒を飲んで気持ちよくなる時間」もそうですし、そっけない無地のボトルで飲むより手に取ったボトルやラベルから何かを感じ取ることで、人はとても充実した時間を過ごすことができます。

私は「物質的な魅力のあるデザイン」が好きです。SNSなどを駆使すればデザインの画像を簡単に大量に見ることができますが、実際にひとつのものを手に取って感じることとそれとは、体験としての価値がまったく違うと考えています。Make a Markを主宰する3社(ESTAL、Avery Dennison、Leonhard KURZ)は、いずれも「物質の魅力」の価値を信じている会社です。そのため私も、今回「いかに物質感を追求するか」を考えていました。

オーダーメイドと大量生産の間

ーーMake a Markを通じ、世界のクリエイターとの交流で感じたことは?

世界共通の意識として、サステナビリティが根幹にあると感じました。ただし、単に装飾を少なくするのではなく、いかにして感覚的・感情的に感じられるパッケージができるか?を皆が模索していました。各デザイナーそれぞれ異なる工夫を凝らしており、とてもおもしろいです。デザインとは各自が持っている哲学と同じです。それぞれの人の哲学に納得したり、意外性を感じたりしました。

個人的に特にグッときたのは、フランスのクリエイターによる「炭の塊をボトルの栓にするアイデア」です。

通常大量生産されるパッケージデザインでは、安定製造のために、形が不揃いな自然素材はあまり使用しません。しかしこの作品では、自然のままの多種多様な炭の形を活かしているところに大きな可能性を感じました。

モノが溢れている現代社会において、個人は何を大切にしていくのだろうか。私はモノの「独自の価値」が大切になると考えています。自然の炭の形には、世界にひとつしかない、オリジナルの魅力があります。またこのデザインアイデアのもうひとつ優れた点として、ボトルは全て同じ形状のものを用いているので、完全なオーダーメイドではなく、実現が比較的容易な実用的なアイデアだと思いました。

ーープロジェクトに参加したことで、この先のパッケージデザインについて改めて感じたことはありますか?

世間的にパッケージを削減していく動きが強まる中で、ESTAL、Avery Dennison、Leonhard KURZは、装飾性を重視している3社です。装飾を施すことは、そのパッケージを見たり触れたりすることによって感じる、「人の感情」をデザインするということです。

ESTALのボトルはただ液体を入れるための容器ではなく、その形状や重み・質感・色などから感じられる「印象」を大切に設計されていると感じます。

Avery Dennisonは、様々な質感や印刷加工適正を持つラベル素材を開発しています。これらも人の感覚に訴えるためのものです。

KURZの箔は、例えばゴールドだけでも数十種類のラインナップがあります。輝き方や色味が異なることで、見る者の受ける印象が変わります。

各企業がこのような意匠的な素材を開発されていることに、人間の文化の面白さを感じます。パッケージ不要論が提唱される現代において、要不要を超える価値、パッケージの可能性を感じられるプロジェクトでした。

人と自然への想像力が、唯一無二のプロダクトを生み出す

ーー小玉さんが生み出すデザインの源泉はどんなところにありますか?

私が10代の頃にロス・ラブグローブ氏がデザインしたミネラルウォーターのボトルを見て受けた衝撃が、源泉かもしれません。それは水の流動的な曲線のイメージをそのまま形にしたようなボトルでした。「このようなものを作り出すのは、何という職業の人なのか?」デザイナーの仕事に興味を持った瞬間でした。

私はいまグラフィックを軸に活動していますが、根底には「立体物への興味」があります。そのためか、平面をデザインする際にも、インキの盛り方や質感など「物質感・立体感」を求めることが多いです。

ーーMake a Markの会場では、ボトルをカットしたデザインが見る人を驚かせました。プロダクトをデザインする際に、人の感情、気持ち、価値観を丁寧に洞察されているように感じます。

そうですね。色々な価値観を持つ人々が、それぞれ何を重視しているのかを感じ取ったり考えることが好きですね。

現在大学で教鞭を取っているのですが、そこで多くの学生を相手にすることで鍛えられているように思います。学生たちが大事にしているものは一人一人異なります。例えば似た作品を作っている学生が2人いたとして、その根底にある考えが異なるなら、それぞれに異なるアドバイスをする必要があります。

相手の気持ちを100%理解することはできませんが、一人一人を見て考えることが、自分の思考の幅を広げてくれていると感じます。

ーーこれから先、小玉さんが描くデザインの展望について教えてください。

今回のプロジェクトを経て、自分の創作の興味はグラフィックを超えて、立体物やプロダクトにあるのだと改めて認識しました。

また木炭の作品からは、意のままにならない素材、不揃いの自然の形に自分が惹かれることや、愛着を感じられるものにするために「一点物としての魅力」を取り入れていくことの重要性に気づきました。サステナビリティを意識したデザインが増えてくる世の中においても、「凝ったものを作りたい時には小玉さんにお願いしたい!」と言われる存在を目指したいですね。

ーー小玉さん、ありがとうございました。


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