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『ズルした人が得をする世の中が許せない』怒り新党 名問答 #2


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読者の方にまず申し上げたいのは、この投稿は『マツコ&有吉の怒り新党』で繰り広げられた名問答を令和の時代に再び取り上げ、番組マニアの私自身の経験も交えながら、好き勝手に振り返るということであります。===================

本日の怒りメール

#2 2015年2月18日放送回より 投稿者:19歳 アルバイト 男性

私は「ズル」が出来ません。ズルをしようとするとそこに意識が集中して緊張してしまうし、罪悪感などで結局疲れてしまうので良くも悪くも本来の正直者の性格で生きています。

先日同じような性格の母親が「ズルをした人が得をする世の中がイヤになっちゃうな…」と珍しく弱音を吐きました。「そういう人はいつか自分に返ってくるよ」とありきたりな励まししか出来ませんでしたが、自分も30年後モヤモヤと付き合っていくことになるんだと実感しました。

出来ればお2人にスッと気持ちが楽になるお言葉を頂けたらと思います。

正直者かよ!親子2代に渡って!
それがこの怒りメールを聞いた私の第一印象です。

私自身は「自分が場当たり的にずる賢く立ち回れてしまうこと」に対して罪悪感を覚えることの方が多い。例えば学生時代の立ち振る舞い。部活、受験、就活、仕事など苦しんだ経験よりもなんとかなった経験の方が遥かに多かったな。毎度「今回もクリアできた」と安堵する一方で「いつまで自分の幸運は続くんだろう」と挫折を待ち望んでいるような感覚の自分がいます。

逆にこの投稿者の方は、邪道を行かずに人生のあらゆる局面を正攻法で突破しようとしてきたのでしょうね。脇道をすり抜けていくずるい人を横目で見ながら、自分はそれになびかない。考えれば考えるほどなんだか尊敬の気持ちが生まれてきました。確かに情報化が進み、生活のあらゆる場面でコスパを求めてしまいがちな現代においては、生きづらい性分かもしれません。


邪道を抜けてメインに立つ二人の反応

さあ、唯一無二の邪道をくぐり抜けて芸能界で地位を獲得してきたマツコと有吉の二人がこのメールにどう答えるのか。二人はメールを読み上げ終わるや否やすぐに語り始めます。

マ「でもほとんどの人がズルはしてないよ」
有「そうなんだよ。だからズルしてる奴が勝つんだもん」
マ「そう、得すんだよ」
夏(無言で大きく頷く)

マツコ有吉の「言われてみたら当たり前な事実」を瞬時に見抜く洞察力にも驚かされます。ですが、それよりも夏目三久のリアクションが気になりました。

個人的な番組の楽しみポイントの一つが、二人の発言に対する夏目ちゃんのリアクションです。この回では、二人の第一声を受けた後の夏目ちゃんの大きな頷きが印象的でした。『怒り新党』では国民から寄せられる怒りメールを総裁秘書である夏目ちゃんが代読します。彼女はどんなメールに対しても真摯に向き合い、感情をこめて読み上げます。もちろん投稿者の考える不満や怒りに対して、夏目ちゃん自身が共感できなかったり腑に落ちない場合も多くあるでしょう。ですが進行役である彼女が自分の意見を述べ始めることは基本的にありません。

そんな時に参考になるのが、マツコ有吉の言動に対する夏目ちゃんのリアクション。彼女の豊かな表情は、言葉がなくともその心の内を視聴者に対して雄弁に伝えます。この力に長けているからこそ出演者三人の中で圧倒的に発言量は少ないにもかかわらず、トライアングルの一角としての存在感が保てていると感じます。


「ズルする人にはバチが当たる」のか?

すぐさま有吉がこう続けます。

有「で、ズルしてる奴は別にバチ当たんないよ」
マ「当たんない、当たんない」
有「圧倒的な金があるからね」
マ「あとそれで後悔するような人はズルしないのよ。どんな手を使ってでもって人がズルするんだから」

そうなんだよな。ズルしてもバチは当たらない。悪人が絶対に分かりやすく裁かれるのはフィクションの勧善懲悪の世界だけです。

「バチが当たる」とはとどのつまり、誰にでも一定の確率で降りかかる不幸を、勝手に本人が過去の自身のやましい出来事と結びつけているだけのことなんだと思います。


「清廉潔白のズルさ」

ここでマツコが少し間を置いて話し始めます。

マ「だから私、多分今ある人から見れば、ズルをしている人だと思うのよ」
有「そうそう」
マ「でも自分はズルしないで生きてる、って思っているのよ。でおそらくある人から見れば、あいつは馬鹿正直に生きてて損してるなって思われているわけよ。だから多分そのお母さんは本当にズルをしていない人なんだろうけど、でもその「ズルをしていない」ってことがズルに見える時だってあるのよ」

「ズルをしていない」ことがズルに見える時だってある。んー痺れるぅ。

ここで議論が一気に別方向へ展開しましたね。投稿者の方はここまでの二人の話を聞いてどう思っているのでしょうか。「ズルをする人にはバチが当たる」という自身の前提を壊されて、ズルをしないことを標榜する己らがズルく見える場合もあると諭される。少なくとも当初の予定通り気持ちがスッと軽くなったとは思えませんよね。

ズルとは一体なんなのか。マツコの意見を自分なりに言い換えると、「両者の関係性、つまり立場や見方の違いから生まれる羨望の言い換え」でしょうか。

以前マツコがテレビ番組内で引用していた「綺麗は汚い、汚いは綺麗」という言葉に惹かれて、過去のnoteで自分なりに意味を咀嚼したことがありました。その考えはおそらくマツコ自身が社会の日陰を生きてきた長い時間に蓄積されたもので、お天道様を堂々と歩いている人への羨望から来ているようにも見えます。

清廉潔白であること、フェアプレーであることの汚さ。この言葉の意味がすんなりと受け入れられる人は、もしかするとマツコ的な感性で世の中を見ているのかもしれません。

マツコは『怒り新党』内でよく、分かりやすい二元論を疑い出して、議論を蒸し返す場面が見受けられます。そんなマツコの分かりやすく世間で正しいとされがちな価値観とそれに乗っかって生きる人たちへの嫉妬と羨望の狭間で揺れ動く様が共感を呼び、共演者や視聴者の価値観の許容範囲さえ拡げていたと思います。


怒り新党名物「無常観」

そして更にマツコは続けます。

マ「私は清廉潔白です!私は真っ正直に生きています!って言っていることが、「ずるいよね、ああいうこと言っちゃう人ずるいよね」みたいな風に思われてズルだと思われることだってあるのよ。だからお互い様」
有「そうだね、お互い様」
マ「そして誰も幸せにならないの。誰も幸せにならない。ズルをして億万長者になった人も、これは違うって思って死んでいくの。ズルをしないで貧しいまま死んでいく人も、なんでズルしなかったんだろうと思って死んでいくの。

出ました!『マツコ&有吉の怒り新党』名物の無常観!笑

怒り新党を長年見ていた人なら、何度も聞いたことのある終着点。二人の議論は、議論が深まった後半に進めば進むほど、二人の根底に流れる無常観的な概念に落ち着く印象があります。

二人は食べ物や生活ルールなどの好みや性格は大きく異なる部分もあり(有吉の待ち合わせ観や、マツコのしめじ嫌い等)それで話がヒートアップする回もめちゃくちゃあって面白いんです。

ただ、いざ今回のような概念的な話になると、二人とも同じ方向を向き始めますよね。そしてその感覚が時代に合致しているから、多くの人の心に刺さり受け入れられる。その感覚が次の時代のムードになる。時代の寵児とはまさにこのお二人だと思ってしまいます。


自分の弱みに論理的に辿り着くマツコ

人をずるいと思う気持ちが嫉妬からくると考えだした二人。少し間を置いてからマツコが話し出します。

有「嫉妬もあるよね、ズルだっていうのは」
マ「分かる。もう悲しい話だけどさ。いいお父さんがいて、いいお母さんがいて、子供はいい小中学校に入ってて、犬がいて、でそこそこの家に住んでて、なんとなく型に収まった中で一番上手いことやってね、田園都市線に住んで、多摩プラザからバスで10分行ったところに住んでさ、俺は田園都市線に住んでいるんだっていうのでさ、逃げる人っているじゃない」
有「それズルい?」
マ「でもあんな暮らししたいもん」
一同笑顔
マ「なんかズルいわよね、なんかそういう中の上狙って生きてるんだって言いながら。幸せそうだもん。多分幸せなんだと思うそういう人たち」
有「幸せなんだと思うよ」
マ「どう頑張っても自分はなれない姿であるものに対して噛み付くのよ人間ってのわ。だから私が田園都市線とか横浜の人たちに噛み付くってのは、どっかで幸せそうだなって思っているのよ」

マツコ有吉の、特にマツコの自分の情けない部分を正直に話す部分が大好きです。普通は自分の弱みをテレビの大勢の前で話したくないじゃないですか。でもそれをマツコはやってみせる。もちろん立場的にやっている部分もあるでしょうが、一番は本人の資質がそうさせていると思います。マツコが人間の心の機微に敏感で、そして誰よりも論理的に思考を詰めていく人間であるから。そんな彼女が論理を展開していくからこそ、どうしても論理の根っこで自分の弱い部分や情けない部分に辿り着く場合がある。そしたらもうそこから目を逸らすわけにはいかないのではと思います。


夏目三久にとってズルい人

マ「なんか言ってみなさいよ、ズルい人、どういう人よ」
夏「えっ」
マ「夏目三久にとってのズルい人ってどういう人よ」

ここまで聞き役に徹していた夏目ちゃんにマツコが話を振ります。

夏「マツコさんのおっしゃったこととてもよく分かります。私も会社に入って27歳ぐらいでいい人見つけて結婚して寿退社でもして、と思っていたんですけどもうそんな生活は手に入らなくなったので、いいなって気持ちが」
マ「じゃあうまいことやった女子アナは浮かぶわけね、ズルいことやったわっていう」
夏「いいなーと思いますけど、でもそれがもう自分の発奮材料になるから仕方ないなとも思います」
マ「なんだか綺麗な言葉でまとめたわねアンタ」

有「そりゃそうだよ、だってtheズルい人だから」
マ「ハッハッハッハッハー!!!」

話を振られた時の夏目ちゃんが本音を交えながらのらりくらりと話す様、それに噛み付くマツコ、最後に綺麗にオチをつける有吉。三人の見事な連携が決まったところで、今回の問答は終了とさせていただきます。

最後は番組テーマに使用されていた『(JUST LIKE) STARTING OVER』でお別れしたいと思います。ご静聴ありがとうございました!

好きなら、好きって言ってください!