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春の落語三昧-不二庵落語会「弁財亭和泉独演会」・白鳥の巣・三遊亭白鳥一門会~天神亭日乗15

四月二日(日)
 阿佐ヶ谷不二庵 弁財亭和泉独演会
 不二庵は阿佐ヶ谷にある個人宅のお茶室。お席亭ご夫妻がこちらを開放し、定期的に落語会を開催してくださっている。このご夫妻は寄席通いを始めた頃から私にとって、いわゆる「憧れのカップル」的な存在だった。ひょんなことから面識を得て(またこれも一つのドラマがあるのであるが)お二人は今、私の「落語ファン道」の師匠である。どの噺家を聞くべきか、どの会を見るべきか、ご意見を伺い、御指南を仰いでいる。
 そんなお二人が席亭の落語会。それが不二庵落語会なのだ。
 今月は大好きな弁財亭和泉師匠である。ご自身が創る落語も本当に良質の、楽しいものだ。この師匠の視点もいつも優しいところがあって、和泉師匠がネタの裏側にいる、ちょっと苦しい思いや、つらい立場にある人を、そっと応援している思いが感じられて、笑いながら胸が熱くなる思いがする。また和泉師匠が凄いのは、その演出の才と演技の力だ。とくに白鳥師匠作の「落語の仮面」シリーズと「任侠 流れの豚次伝」第一話「豚次誕生 秩父でブー!」の口演はその演技と演出により、本家とはまた違う、和泉師匠の世界が大きく展開する。「豚次」はいろんな演者が演じるのを見たが、この第一話は和泉師匠の口演が抜きん出ていると思う。豚次とその母の別れの場面など、私は嗚咽するくらい泣いてしまうのだ。
 不二庵の至近距離での和泉師匠。お肌も輝き、美しい。そして二席目だ。師匠がマクラを語り始めた時、「やった!」と思った。聞きたかった「プロフェッショナル」だ!
 このネタはいわゆる和泉噺のお仕事モノ。新しい作品だが、もう名作と言っていいだろう。食品会社勤務の新入社員をめぐる、お仕事スタートの物語だが、私もこれまでのいろんな仕事の場面や同僚たち、とくにこのネタでは、やめていった後輩たちを思い出して切なくなった。ああ、こんなセリフ言ってた子いたな、でもこんなふうに私も、働く姿を見せられてなかったのかも、などと思ってしまう。でも和泉師匠の噺は明るく強いのだ。働くことが美しいと思わせてくれるのだ。うちの人事やキャリアセンターにも推薦したい。学生や若いスタッフにもぜひ聞かせたい一席である。
 
 
四月二十三日(日)
 巣鴨 スタジオ・フォー 第31回「白鳥の巣」
 毎月開催の三遊亭白鳥師匠の独演会。師匠が勉強会としていろんな試みをされる場でもある。本日のネタ出しは久しぶりにかけられるという「牛丼晴れ舞台」と3月下旬のSWAでネタおろしをしたばかりの最新作「彼女は幽霊」。今回の試みは「牛丼晴れ舞台」でご自身の作詞作曲の歌を客席とコラボするというもの。配られた楽譜を見ながら師匠とお客さん全員で声をあわせて歌った。「歌声落語」の誕生だ。コロナ禍では出来なかったこの声を出しての参加型落語。この3年間の日々を思い、じんと来る。そして二席めの「彼女は幽霊」。馬石師匠の「安兵衛狐」を聞いたのが創作のきっかけというこの噺。白鳥師匠が新しく生み出したニューヒロインしのぶちゃんが可愛くて、また新たなシリーズ開始の予感もする。また今日はふと、21歳で亡くなった従姉のことを思い出してしまった。Mちゃんも、したかったこと沢山あったよね。しのぶちゃんが繰り広げるドタバタ劇に爆笑しながら、ちょっと泣いてしまう。
 久しぶりに巣鴨の居酒屋へ。友人JとH先生とAさんとで打ち上げ。ビールが美味しい。
 
 
四月二十五日(火)
 渋谷伝承ホール 「三遊亭白鳥一門会」
 これも楽しみにしていた会。一番弟子の三遊亭青森さんをトリにする、と白鳥師匠も、青森さんご本人も前々から予告されていた。
 冒頭の白鳥師匠のオープニングトークで驚きの場面。青森さんの前に在籍していた、幻の一番弟子、三遊亭あひるさんを師匠が高座に招いたのだ!事情があって廃業した、とのことであるが、最近連絡がとれて、この一門会に白鳥師匠が声をかけたとのことだ。かしこまって高座に座るあひるさん。「これをお前にあげる」と白鳥紋が縫い取られた着物を彼の肩にかけた。あひるさんは今も芸人をされているとのこと。当時、白鳥師匠から教わったという「からぬけ」のさわりを披露してくれた。
 いろいろ師弟の関係で揉めている落語界だが、この場面を見て何だか救われた。いろんな人生がある。でもやはりひとときでも、師と仰いだ人と、子と同然に思った間柄の二人である。何とも言えぬ、弟子からの敬いの表情、師からの優しさといたわりの空気を感じたのだ。
白鳥師匠は弟子たちの育成は「放任主義」だというが、師匠に続いて高座にあがった弟子3人がそれぞれに自作の落語で客を沸かせ、感動させている。しっかりした師弟の信頼の絆があるように思えた。
 トリにあがった三遊亭青森さんのネタ、彼の来し方を描いたこの作品、そして本当に今日はこのタイトルがぴったりの流れだった。「ライフイズビューティフル」本当に、人生は美しい。

*歌誌「月光」79号(2023年6月発行)掲載

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