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盛夏火『ウィッチ・キャスティング』を観ました。

行ったこともない駅から歩いて十分。集合団地の小さな一部屋が会場でした。

そこでは集会が開かれていて、その参加者として僕も部屋の隅っこに座りました。
窓からは温かい陽光が差していて、咲きはじめた桜がゆらゆら揺れているのが見えるのどかな部屋。

その集合団地で様々な怪奇現象が起きるのを団地に暮らす友人達が魔女と秘密を解き明かしていくみたいなお話だったと思います。もっと色々あるけどとにかくザックリ言うとこんな感じでした。もっとおもしろいお話です。

最初にというかずっと思ったのはこれが普通の劇場だったらこんなに面白く観られなかったかもな。ってことでした。

もう劇場に行くために乗った電車の景色から、向かいに座っているマスクのお姉さんから何か演劇を観ているような感覚でした。

団地に行くまでの商店街はやたら狭くて人通りも結構あるのにトラックやバスみたいな重量重めの車両がぎゅうぎゅうになりながら、すぐわきを通りぬけていって、作品もまだ何も観てないのになんかの隠喩みたいだった。

劇中って書くのも違和感があるくらい現実の世界と地続きで、開く窓から入ってくる本当の風とか、示される本当にさっきそこにあった、今もそこにある公園の話とかしてて、でもこの今自分がいる区切られた空間は雑多に見えるように凝らされた嘘が凝縮していて。

そこは大きな世界の中の小さな部屋なのに、手が届く宇宙から、小さな地球を覗き込むみたいに足元に海が広がって、山があって、谷があって、灯台の光が小さく眉をかすめていった。

見えないものを「信じられる」とかちょと超えたすごく面白い体験だった。
本当かどうかわからないけど、数年後にその団地は取り壊しが決まっているらしくて、それも含めて“自分の人生体験を共有体験にしていく”作品体系の“場所”版みたいでずっと切なさがプカプカ漂っていもいた。

終演後、団地の階段を下りて外に出たとき僕が見た限りでは全てのお客さんがさっきまで自分がいた部屋のあるところを振り返っていて魔法にかけられたみたいな時間だったんだなと思いました。

(トップの画像はnoto利用者がnoto内で自由に使える画像から引用しているので、実際の会場のものではありません。)

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