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質問が未来を変えます

車椅子の相談を頂く時に、必ず質問することがあります。①車椅子で何をしたいのか? と、②今、一番何に困っているか? です。

①車椅子ユーザーの多くは、一日のあらゆる場面で車椅子を使っています。ですから、したいことは1つではないことが多いです。車椅子で出かけて、食事して、タクシーに乗って。ですから、この質問をナンセンスと感じる方もいるかもしれません。施設の職員にこの質問をすると「全部」という答えが返ってくることが少なくありません。しかし、本人が一番大切に思っていることを知ることはとても大切なのです。

在宅で介護を受けている方のケースです。体力がなく、座っていると体幹が横に傾いていく方でした。背中の痛みもあるため、一日に何度も座り直しをしたり、ベッドに横になったりしていました。その方に聞きました。「車椅子で一番したいことは、何ですか?」と。すると「本を読みたい」とおっしゃいました。本が大好きなのですが、病気になってから何年も読んでいないそうです。「どうして読まなかったんですか?」。私の質問に、その方は、こう答えました。

「だって、私にそんなことを聞いてくれる人は誰もいなかったから」

そうですか。では、新しい車椅子を試してみますか? そう確認すると、その方は涙を浮かべて何度も頷きました。

本をずっと持ち続ける腕の筋力はありませんし、車椅子に座っているのも痛みもあるし、疲れてしまう。そこで、家用の車椅子としてティルト機能のある車椅子と、車椅子に取り付けるタイプのテーブルを提案しました。座位時間を伸ばすために、褥瘡リスクを考えてクッションはエアタイプ。不安定感からくる背中への負担は、ティルトを倒すことで抑えられると判断しました。食卓には車椅子で入るスペースはありませんでしたが、食事の時は食卓の椅子に座っているということなので、あえて目的を絞り込みました。

1週間後に伺うと、体調が悪くてほとんど車椅子に座っていませんでした。しかし、この車椅子をレンタルすると決めていました。本人は本が読めるという希望を手放したくなかったのでしょう。体調が不安定なこともあり、その方が実際に本を読み始めたのは車椅子を変えてから1か月後でした。本を読めるようになってから、車椅子に座る時間も長くなりました。背中の痛みはなくなりはしませんでしたが、読書の楽しみが勝っていたようです。

誰かがあの質問をしなければ、その方から「本を読みたい」と言い出すことはなかったかもしれません。そして、二度と本を読むことはなかったかもしれません。

車椅子選びは、どんな質問をするかで変わります。本を読みたいとの希望がなければ、背中の痛い方に不安定なエアクッションを選ばなかったかもしれません。テーブルをすすめなかったかもしれません。

そして、それは車椅子選びに限らないと最近思うのです。

質問が未来を変えるのは、車椅子ユーザーや要支援者だけでもありません。私たちすべての人の人生を変えると思っています。自分にどんな問いを立てるか? 

「一番、したいことは何ですか?」

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