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君の勇姿は絶対に忘れない ありがとう 出井敏博

本日10月4日(水)、公文克彦投手、佐々木健投手、森脇亮介投手、井上広輝投手、張奕投手、齊藤誠人選手、中山誠吾選手、育成選手の齊藤大将投手、粟津凱士投手、伊藤翔投手、上間永遠投手、出井敏博投手、牧野翔矢選手、ジョセフ選手、の計14名に来季の契約を結ばないことを通告しましたのでお知らせいたします。

なお、ヘレラ投手、コドラド選手についても9月23日(土)に来季の契約を結ばず帰国したことも併せてお知らせいたします。

埼玉西武ライオンズHPより

新型コロナウイルスが猛威を奮った2022年。この年の埼玉西武ライオンズのファームは怪我人や感染拡大などで深刻な投手不足に陥った。春季教育リーグでは約3分の1の試合を豆田泰志が先発登板。イースタン・リーグ開幕直後には本田圭佑が延長11回を154球完投という現代プロ野球とは思えない事態も。ローテーションは帯同表がなくても誰が先発か予想することができ(選択肢がその1人しかいない)、誰も投げれない試合は内海哲也投手兼任コーチが登板。5月には帯同する中継ぎが3人のみの試合もあった。今や三軍制を敷くほどの頭数からは考えられない火の車っぷり。「勝つことを諦め、試合成立のために戦う」そんなファームを救った投手がいた。

誰よりも投げた2022年

出井敏博。2019年ドラフトチーム唯一の育成指名となった男。2020年、2021年シーズンでは支配下登録されることなく迎えた勝負の育成三年目の4月。チームは投手を欠いた。

4月24日の巨人戦

カード初日から中継ぎが足らない中での3連戦。初戦は佐野泰雄が先発登板して試合を作るも、延長に突入。翌日一軍昇格する森脇亮介が1イニング、與座海人が12回までの5イニングを投げた。翌日の2戦目は豆田泰志が先発。前日5イニング投げている與座を含む4人の中継ぎ陣に見守られながら7回129球を投げた。そんな状況の中で回ってきた3戦目。ベンチ入り投手は與座、松岡、公文。前日までいた大曲錬がベンチ入りを外れ、松岡洸希も前日に打ち込まれ球数が嵩んでいた。残された選択肢は1つ。出井が頑張るしかなかった。どんなに打ち込まれても誰もいないプルペンを横目に雨の中投げ続け7回138球5失点。ここから壮絶な日々が始まる。

雨の中での先発登板

5月3日の楽天戦

翌週の5月3日。前回登板からチームは先発投手のコマ足りず6試合中3試合が中止になっていた。この日はゴールデンウィークということで楽天生命パーク(当時)での試合。この年のライオンズファームはとことんイーグルスに弱く開幕11連敗を喫している。無論この3連戦も主導権を握れず、カード頭を任された出井も打線に掴まり6回126球5失点という内容だった。翌日復帰登板の浜屋将太と高卒ルーキー黒田将矢が登板ということもありなかなか中継ぎを使うことが出来なかった。

5月11日の日本ハム戦

次の登板予定だった翌週火曜日の試合は雨天中止。よって翌日の5月11日水曜日のゲームのブルペンに入った。先発浜屋が打ち込まれ5回で降板するも打線の奮起で試合は同点に。出井は7回から登板。7、8、9回と0に抑え味方のサヨナラを待つも試合を決める一打が出ずに延長へ。そして延長10回相手打線に掴まり勝ち越しを許してしまう。打線の勢いを止められずにいるが無論ブルペンは静観。鎮火までに球数を擁しリリーフながら83球を投じて負け投手となった。

途中までは完璧だったのに。。。

5月17日の楽天戦

前回登板から中5日。翌週は森林どり泉でのまた楽天戦。序盤から打ち込まれ6回を投げて134球。

5月24日のロッテ戦

火曜日ローテを任された5月。ベルーナドーム開催となったこの日は先発登板ではなかった。先日コロンビアからジャシエル・ヘレラを育成で獲得しておりそのヘレラが来日初登板となったからだ。2イニングを0で抑えるとここで降板。いつものように火曜のマウンドを出井に託した。出井は3回からマウンドに上がると9回まで投げ切る熱投。今季最多の141球を投げた。ロッテファンからは「期待されているなぁ」と声が上がっていたが期待なんてものではない。投げるべくして投げているのだ。

そして試合後ヒーローに選ばれベルーナドームで初のヒーローインタビュー。『野球人生全てを懸ける』というコメントには嬉しさと申し訳なさがファンの胸で交錯した。余談だが翌日のゲームでは浜屋が139球完投。翌々日では中継ぎ4人しかいない中でまさかのブルペンデーと出井が141球を投げる必要性が言わずもがな分かる台所事情だった。

2023シーズン

育成4年目。一度自由契約になったものの球団は1年再契約することに決めた。元々首脳陣からの評価は高く誕生日が同じである内海哲也投手コーチからは「出井は何も直す必要がない」と言われたこともあり前年の申し訳なさからか、1年の「猶予」をもらったのかもしれない。

2月の高知キャンプ。出井の『一富士、二鷹、三茄子からの四ギャツビー』の一発ギャグで今度こそ勝負の一年がスタートした。そしてキャンプ終了後高知で行われるA班の練習試合に登板した。


忘れられない試合

前年の非情な投手事情からは想像出来ないが、2023の埼玉西武ライオンズには三軍が出来た。育成の出井は二軍と三軍を行き来する日々。そんな中で忘れられない試合がある。

7月16日、カーミニークで行われたBC武蔵との一戦。8回のマウンドに出井があがる。カーミニークでは慣れ親しんだ光景だが、スタンドの一塁側が大いに沸いた。『あの出井か!?』『え!出井さん!頑張れ!!!』相手チーム埼玉武蔵ヒートベアーズのファンが相手投手のコールに大声援を送った。

時を遡ること2021年。チームの育成の名目で数ヶ月だけ埼玉武蔵ヒートベアーズに派遣された。ヒートベアーズではひたすら登板し、翌年の登板過多に負けない体づくりを作り上げた。たった数ヶ月の派遣だったが、派遣終了時には『君の勇姿は絶対に忘れない 出井敏博』の横断幕を作られるほど愛された。この年ヒートベアーズは地区優勝。ファンからしてみるとかけがえのない優勝メンバーの1人だった。

引退、そして。

シーズンも佳境の9月。突如最後の2週間出井が先発登板をした。今年は二軍でも三軍でもほぼ中継ぎ登板だった。何かを悟るのが得意なファームオタクはその嫌な予感を抱えながらマウンドで投げる右腕を見守った。

最後の3連戦先発登板

そして自由契約。規則上必ず自由契約になる身だが、フェニックス・リーグ帯同メンバーに名前は無かった。そして。

2022年シーズンファームを救った誰よりも強く屈強な右腕にまたお世話になる。

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