俺とビッグバーンコースター@那須ハイランドパーク
初乗車:2022年9月3日
好きなセクション:ファーストドロップ
憧れのコースターといえば、何を思い浮かべるだろうか? 海外に目を向けると、自分はCedar Pointにある”Millennium Force"とSix Flags Over Texasにある”New Texas Giant"になるのだが、国内に絞ると今回のテーマであるビッグバーンコースターが長年憧れていたコースターにあたる。
その存在を知ったのは2009年、ちょうど中学校に上がる時期だった。その当時、覚えたてのインターネットで様々なコースターマニアのサイト見ていた俺は、ある日、どのHPでも”ヤバい”だの”強烈”だの”設計ミス”だの物騒な書き込みでレビューされているマシンがある事に気が付いた。その名はビッグバーンコースター。百戦錬磨のマニアたちが口を揃えてヤバいと言うそのマシン、高度や速度に至ってはタイタンVやFUJIYAMA、スチールドラゴンといった大型コースターに劣るスペックではあるものの、落下角度だけはウルトラツイスターの85度に次ぐ75度という驚異の角度を誇っていた(※1)。素人目にしても明らかにヤバいビジュアルのファーストドロップ、いつか乗ってやるぞと幼心に誓ったのだった(※2)。
2022年9月、憧れのコースターに乗るべく俺は那須塩原駅に居た。遂に乗れる…そう考えると、那須ハイランドパークまでの道中、心なしか興奮で体が少し震えていたように思える。その日は少し小雨がパラついており、那須ハイ到着直後、ビッグバーンは運休中だった(※3)。再開を信じパニックドライブや、地味に初乗車だったザンぺルラ社製自走式コースター(ウーピーコースター)など、他のコースターでお茶を濁す。
園内放送でビッグバーンとキャメルコースター悟空の再開を告げるアナウンスが聞こえ、急いでコースタープラザに向かう。複数のコースターが絡み合うように設置されるその中に、ひと際目立つ垂直ループが見えた。
インターネットでしか見たことはなかったあの駅舎が目の前にある。高まる興奮を抑えつつ、待機列に並んだ。もちろん狙う座席は最後尾。幸運なことにこの日は自由座席でのオペレーションだったようで、無事最後尾を確保することが出来た。
車両は6両編成の24人乗り。きちんと整備されているのか比較的小綺麗だ。安全装置はU字ハーネスと膝のラップバーというかなり厳重な装備。旧式のコースターということで前の座席との距離が近く、また、シートの高さに余裕が無いためラップバーを降ろすと足が胡坐をかいたような状態となる。ハンズアップするための余裕もなく、ハーネスの窮屈さも相まって座席と一体化してしまったかのような感覚だ。
安全確認も済み、ついに発車ベルが鳴った。車両はゆっくりと地上38mまで巻き上げられる。左側には今から突き落とされる断崖絶壁、右側には那須の広大な森林が見えるのだが、眼下に森しか見当たらず高さの比較対象がないため、スペック以上に高度なところに居るのではないかと錯覚を起こす。
長い巻き上げを終えると(※4)、車両は助走を付けファーストドロップへと向かう。そこまで助走の速度付けてないんだなあ、と下から見る分には思っていたのだが、いざ乗ってみるとその考えが浅はかなものだと分かった。これから75度のドロップを落ちますよ、とは到底考えられない速度まで加速しているではないか!
これは怖い、本当に怖い。様々な全国の大型コースターに乗ってきたが、この助走でこの角度は身の危険を感じる。例えばナガシマの白鯨なんかも助走を付け80度の角度を落下をするワケだが、アレは開放感のあるラップバーと最新のI-BOXレールを搭載した非常にスムーズなコースターなのに対し、ビッグバーンは体の踏ん張りのきかない窮屈な車両に少々ぎこちない動きを伴う旧式のレール。根本的に安心感が違う。これほど対照的なことがあるだろうか。
散々焦らした挙句、遂にドロップする車両。恐怖がピークに達する瞬間だ。ドロップ開始コンマ数秒は、こんなもんなのかな?といった落下感だったのだが、急に床が無くなった。シートから体が浮き、胡坐をかいた足が地面から離れる。なんだこれは。ハンズアップも出来ないためひたすらハーネスに掴まるしかない。人間は時に無力だ。
何が起こったのか、などと考える余裕を与えるまでもなく車両は大きなキャメルバックを上って行く。高度があり過ぎてまっっったくと言っていい程浮かないのだが、キャメル後のドロップも十分な角度があるため迫力がある。
キャメル後は大きな垂直ループに突入する。ギィィイイ…と、まるで”稲川淳二の怪談に出てくる立て付けの悪いドア”のような鈍い音を立てながら360度回転(※5)。やや正円に近いクロソイド曲線を描くため、乱暴に体が押さえつけられる。
ループ後、上昇し180度ほど方向転換したかと思うと、タイヤブレーキ地帯に突入し駅舎へと帰還。キュルキュルキュルと、独特の摩擦音を響かせる。もう一つくらい中型のキャメルバックを作っても超えれそうな速度を保ってるにも関わらず、そのまま終了というのは少々勿体ない気もするが…。
ずっと心の奥底で乗りたいと思っていただけに、いざ乗ってみると大したことがないコースターだったらどうしようかと思っていたのだが、その考えは杞憂に終わった。高飛車の121度はなんだったのか? そう思える程、文句無しに日本で一番恐ろしい落下だと言える。“ファーストドロップだけの一発屋”と言ってしまったらそれまでなのだが、ビッグバーンのように何か誇れる一発を持つコースターが日本にどれだけあるだろうか。
この日は最後尾と4両目を体験した後、再び雨で運行中止になってしまった。2回しか乗れなかったが、憧れのコースターに乗るという経験が1回でも出来たことに感謝し、那須の地を後にした。
注釈
※1 ギネス記録にも登録された富士急の高飛車は121度もの角度を持つが、その高飛車が登場するまで、旧ドドンパの90度が国内最大角度であった
※2 富士急やナガスパ、パルケエスパーニャにある”マニアなら押さえておくべき主要なコースター”は2009~2012年の期間、乗車することが出来たのだが、受験シーズンの到来と同時にコースター愛好家から一度フェードアウトしたのだった。那須ハイは流石に高知から行くには遠すぎる
※3 タイヤ摩擦によるブレーキシステムを使っているからか、雨に濡れてしまうと制動力が落ちてしまう。そのため、小雨であっても運行中止になりがちのようだ。一方で一般的なブロックブレーキを採用したF2なんかは普通に運行していた
※4 巻き上げがあまりにも遅い理由は諸説あるが、自分は”これ以上巻き上げが速くなるとファーストドロップが危険だから”という説を提唱したい。巻き上げのスピードが速くなると必然的にドロップ突入時の速度が増し、車輪にも乗客にも今以上に負担が増えてしまう。なので、あえてクッソ遅いチンタラした巻き上げを行うことで、あらゆるダメージを最小限にしているのではないだろうか
※5 イナジュンがよくやる効果音。ビッグバーンのブレーキみたいな音が効果的に恐怖を煽ってくる”あなたキュルキュルキュルキュル・・、でしょ?”という怪談がお気に入り。そんな淳二も80歳近くなってきたが、これからも末永く怪談を語って欲しい
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