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2022私的年間ベストアルバム 25選

今年は仕事が忙しかったりしたため落ち着いて音楽を聴く時間が近年で最も少なかったですが、それでもたくさんの好盤に出会えたのはひとえにTLのおかげであり、イーロンマスクによる買収後迷走しているTwitterが今後も廃れないといいなと願う年の瀬です。
自分の好みの新譜を記録しておく意味合いが強くジャンルもバラバラなセレクトですが、TL上の諸氏による年ベスが私の趣味時間を豊かにしてくれているのと同じように、少しでも誰かの豊かさの助けとなれたら幸いと思いながら25枚に薄味の感想を付したので、年末年始の暇つぶしにでも消費してもらえたら嬉しいです。

今年の25枚

今年出たアルバム(EP含む)で特に好きだったものを25枚選びました
便宜上数字をふっていますが、順位ではなくアーティスト名昇順でならべています

1. (((さらうんど))) > After Hours

シティポップ味のあるテクノポップ
四つ打ちをベースに少ない音数でソリッドさと内省的な雰囲気を兼ねたトラックは練度の高さを感じる
全体的に音の立体感とテクスチャがやばいのだが特に初っ端で鳴ってるスネア的な音の奥行き感がめちゃんこいい
青空の写真をコラージュしたジャケのアートワークとリンクするような爽やかさと切なさを感じる内容
過去作と異なる音楽性と”日本人訛り”の英語詩をうたうボーカルが印象的だが、制作のやりとりをあえて英語でおこなうことで出会い直すことを疑似再現し、新鮮な気持ちで制作したとのこと
https://tokion.jp/2022/10/03/interview-surrounddd-xtal/

2. Alex G > God Save the Animals

フォーキーなインディーロックを土台に牧歌的な雰囲気と不気味さが同居する内容
SSW感を残しながら高解像度のサウンドテクスチャ、細部までこだわりを感じるアレンジ、適所で目立つオートチューン以外にも細かく制御されてるボーカルの音響処理が印象的

3. betcover!! > 卵

音楽性についてはs.h.i.先生のツイートの参照をおすすめしますが、ダウナーで独特な場末感は前作そのままにキングクリムゾン的なアグレッションは凄みを増してるような印象をうけた
個人的には前作のほうが馴染むけど今作もすごい

4. BFTT > Redefines

アンビエントな曲も挟みつつの硬質なテクノ〜ベースミュージック
全体的にソリッドで金属的な雰囲気がツボでめちゃくちゃ聴いた

5. Cole Pulice > Scry

USのSax/Wind Synth奏者によるソフトなインプロが主体の暖かみのある前衛ジャズ
アンビエントジャズならぬニューエイジジャズ的な雰囲気で、有機的なサウンドによってニューエイジ的異世界感を高解像度で表現してるところがアンビバレントで好きすぎる

6. deathcrash > Return

ポストロック的ではあるけどMogwaiみたいなシアトリカルな雰囲気というより、パーソナルな雰囲気 サッドコアというには暖かみもあるしスロウコアというには荒涼としている
静動のうつろいに合わせて変化するサウンドテクスチャはどこにフォーカスしても心地よさがある

7. Dalibor Cruz > 21 De Agosto, Macaruya

インダストリアルでミニマルなテクノ
不気味さとユーモラスさが同居しているというか、重心低めながらもポップさもあるのがよい
記事書いてる時点ではBandcampにしかなさそう

8. Ellen Arkbro & Johan Graden > I get along without you very well

チェンバードゥーム歌謡とでもいうべきか、吐息多めのボーカルとベース、オルガンとのハーモニーが完全に"音楽"だし、どっしりとしたBPMとシンバルワークがドゥーミーでよい
アナログ、マニュアルであるからこその間と揺らぎというか、異なる楽器のランダムな揺らぎを伴ったハーモニーが最高に気持ちいい
知るきっかけになったよろすずさんのレビュー記事↓
https://note.com/yorosz/n/ndbe34429d18d

9. Gustavo Infante > Pássaros

リバーブの効いたナイロンギターと歌は幽玄な雰囲気のアンビエンスを湛えている
音楽性は全然違うがマックミラーの遺作と同じような"あの世"感がある
原雅明さんによるインタビュー記事↓
https://www.oto-tsu.jp/interview/archives/7360

10. Kazufumi Kodama & Undefined > 2 Years / 2 Years in Silence

ダブをベースに前衛テクノをクロスオーバーしてSF的過剰サウンドエフェクトを施したようなドープなトラックにこだまさんのトランペットが鳴っているのだがそのトランペットがめちゃくちゃいい
トラックのエフェクトは強烈だけど音数は非常に少なくて、全体的な印象としてはミニマルな雰囲気
A面(1~4曲)がオリジナルサイドでB面(5〜8)がアンビエントサイドになっていてA面の曲をアンビエント的に再解釈したのがB面らしい
よかったインタビュー記事↓
https://www.oto-tsu.jp/interview/archives/7679

11. Makaya McCraven > In These Times

ジャズ〜ヒップホップに加わったシンフォニックな要素が特徴的
太いベースと表現力豊かなドラムによるジャズな土台の上で、ストリングスやフルートの他、特にハープが随所でいいアクセントに
7年かけて素材を録音して編集したらしいが、一つ一つの音のテクスチャは最高なうえにダイナミックで独創的なアンサンブルに編み上げられている
エレガントで静謐な雰囲気とグルーヴが融合してるし、クラフト感に満ちながら突き抜けたスケール感がある
The Knew Untitledのギターソロ、起承転結があるし曲の中のピークでありながらアルバム全体のハイライトのひとつでもある

過去、現在、未来を、ジャズに根ざしたポストジャンルの 21 世紀フォーク ミュージックのエレガントでポリテクスチャーなアレンジに融合させます

https://intlanthem.bandcamp.com/album/in-these-times

安心品質の柳樂さんのインタビュー記事
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/38451/1/1/1

12. Manuel Linhares > Suspenso

アントニオ・ロウレイロがプロデュースするポルトガルのジャズシンガーの3rd
伸びやかな歌声の存在感がすごいが、現代ミナス・サウンド×ラージアンサンブルの"伴奏"も負けていない
オペラか?というくらい聴きごたえがすごい

13. Marina Herlop > Pripyat

ユニークさではこれがダントツかもしれない ミュータントでありつつもキャッチーさもあるという

インドの伝統音楽であるカーナティック音楽、そして口ドラムとも呼ばれるリズムカウント「コナッコル」を出産の儀式と異質なメロディーに重ね合わせた

https://avyss-magazine.com/2021/09/10/29998/

14. Mitch Davis > The Haunt

ややファンクなノリのグッドインディーでベースがいい味出している
インディー+ソウルでこの絶妙なバランスってありそうでなかったやつなのでは

15. Moor Mother > Jazz Codes

Moor Mother関連作で一番すき
アンビエントジャズなマナーのトラックとエクスペリメンタルヒップホップの融合

16. Oren Ambarchi > Shebang

ジャズ寄りのクラウトロックのような雰囲気で、近年蔵出しされたCANのライブ音源に少し抑制効かせて空間系の演出が加わったようなジャムが続く、シームレスな35分
ミニマルっぽさもあるけど完全にデザインされたものじゃなくインプロぽかったり人力感強めなところがスリリングでよい

17. Reginald Omas Mamode Ⅳ > Stand Strong

肩の力抜けた感じのヒップホップビート集で、BGM的に聞き流せる気軽さがありながらもフックが効いていてついついリピートしてしまう
ほどよくソウルな感じのエレピがいい味出しているのがとても好き(エレピに弱い)
マスターピース的な風格はないがBGMとしての機能性が高く、生活の中の様々なシーンで長く聴いていけそう

18. Sam Gendel > blueblue

ガットギターが軸のアンビエントなジャズ/フォーク
Bandcampのキャプション曰くのヴァイヴの魔術師とは言い得て妙というかギターのアンビエンスからもシグネチャを感じる
曲名は日本の刺繍模様が由来とのことだけど、どことなく曲からも侘び寂びのようかものを感じるのは気のせいだろうか
折坂悠太のkoheyに近いムードというか、折坂悠太のほうがSam Gendelの影響うけてるのもあると思うけど

19. Shovel Dance Collective > The Water is the Shovel of the Shore

めちゃくちゃ雑な形容すると無印良品のBGMとGY!BEの混淆のような雰囲気
牧歌的な感じとシリアスさが同居しつつシアトリカルというか

水をテーマに活動する9人組フォークグループShovel Dance Collectiveの最新作。 伝統的な歌、フォーク チューン、フィールド レコーディングのオンサイト ドキュメントを組み合わせて、長い形式のサウンド コラージュを作成します。 その結果は、フォーク ミュージック、ミュージック コンクリート、アコースティック エコロジーの間のどこかにあります。  Memorials of Distinction と Double Dare の共同リリース。

https://shoveldancecollective.bandcamp.com/album/the-water-is-the-shovel-of-the-shore

20. Taylor Deupree & Marcus Fischer > Februarys

1.5h弱とたっぷりボリュームのミニマルアンビエント
イーノのMusic for Airportsをより抽象化したような雰囲気でよい(鏡面界ぽさもあるかも)
秋の夜長にぼんやり聴きたいし入眠音楽にもいい

21. Whatever The Weather > s/t

Lorain Jamesの別名義
全体的にアンビエント寄りというか、しんみり聴ける雰囲気ながらも3曲目とかエッジの効いたビートもあってよい
ジャケットのアートワークとリンクしたひんやりした質感のサウンドテクスチャーが心地いい

22. Yuta Matsumura > Red Ribbon

ドゥルッティカラムや大和那南と近いムードを感じるDIYでダビーなアヴァンポップ
ハードコアパンクをやっていた作者がそれまでのギターによる曲作りではなくピアノで作曲し、ヴォーカル、ベース、キーボード、フルート、ヴァイオリン/チェロ、ドラムボックスのリズムを重ねていったとのこと
Craft Spellsも似たようなこと言ってたのを思い出すが、一定のバックボーンを持った人がこれまでと明示的に異なるアプローチで制作に望む時、突然変異的にいいものが生まれがちな気がする(さらうんどの新譜もそうだし)

23. 岡田拓郎 > Betsu No Jikan

コラージュ感やSE遣いが印象的な劇伴チックなジャズ
時間に対する視点の多様性みたいなものをテーマにしている点はマカヤマクレイブンの新譜と重なる部分があるなと思った
焦点が複数になるようにアレンジされていて多面的な捉え方ができるというか、大学の授業で聞いたニーチェのパースペクティブの話を思い出した
門脇さんによるインタビュー記事が面白かった
https://tokion.jp/2022/09/26/takuro-okada-betsu-no-jikan/

24. 大石晴子 > 脈光

暖かみのあるジャパニーズアンビエントR&B
あえてジャパニーズ〜とつけたくなるようなドメスティックな雰囲気がある
4曲目のサビはCoccoっぽい

音楽を摂取する解像度の高さがえぐい吸い雲さんのレビュー記事↓
http://turntokyo.com/reviews/ooishi-haruko-myakko/

25. マッチャポテトサラダ > アニメーション・トリッピング

初恋カバーのインパクトがすごいが他の曲もすごくよくて繰り返し聴いちゃう
記事書いてる時点ではBandcampにしかなさそう

Bandcampのキャプション↓

構想一年、制作二年。三年(=高校生活全て)を費やし完成させたマッチャポテトサラダの五作目のアルバム。文脈と切り抜き消費。現代の過去。ポスト平成サブカルチャーの現在。二千二十年代の渋谷系。繰り返す懐古主義。さよならインターネット。そして、アニメーション・トリッピング。全ての更新されなくなったサイトに捧ぐ。
渋谷系やvaporwaveやhyperpopといった懐古主義音楽を折衷させ、高校生活三年間を捧げ制作したスウィート・モラトリアム・スペクタクル。
※ すいません二曲目の長さミスってました。色々他にもミスあるかもなので発見したらご連絡ください。(2022.12.8)

https://otochfto.bandcamp.com/album/--4

筆者の名前が伏せられていても誰が書いたかわかる勢いでシグネチャー感が詰まった李氏さんによるレビュー↓

広義のサウンドコラージュに分類されるだろう今作は、ポスト渋谷系からヴェイパーウェイヴに至る一本の線を、「この国には何でもある。だが、希望だけがない」と村上龍が小説「希望の国のエクソダス」にて登場人物に語らせたとおりのアンニュイさで駆け抜けていく。昔この場所には明日ってやつがあったらしいよ。そう言いたげにCM音源からオールドポップまで等しくジャンクとしてかき集めフラットに並べていく所作には、もはやサンプリングアート的な新奇性を見出すことすら難しい。ベック『Odelay』やCornelius『FANTASMA』といった90年代の名盤と異なるのはこの点で、むしろ今作にあるのはどんな新しさも次の瞬間には陳腐化していく時の残酷さと、それに対する諦念の感覚だ。だれよりも鋭敏な速度=才能を生きるマッチャポテトサラダにはどうやら果てが見えてしまっているらしい。

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/33119

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