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2023 年間ベストアルバム 25選

自分の好みの新譜を記録しておく意味合いが強くジャンルもバラバラなセレクトですが、TL上の諸氏による年ベスが私の趣味時間を豊かにしてくれているのと同じように、少しでも誰かの豊かさの助けとなれたら幸いと思いながら25枚に薄味の感想を付しました。年末年始の暇つぶしに読んでもらえたら嬉しいです。
順位はなくアーティスト名の昇順です。

1.Aidan Baker > Engenderine

ベルリン在住のカナダ人アーティストのソロ作。ポストハードコア、インダストリアル、ドローンといったキーワードを想起する内容で、耳鳴り的な持続音や規則的なマシンノイズ風のウワモノとポストハードコア的なサウンドテクスチャで即興的な演奏するベース&ドラムのアンサンブル。ウワモノとベードラの毛色の違う音が荒涼とした雰囲気を共通項に接合している。


2.Ana Frango Elétrico > Me Chama de Gato que Eu Sou Sua

ブラジル気鋭のアーティストの3rdフル。ブラジル風味のディスコファンクっぽい感じがベースにありながらバリエーション豊かな楽曲にハスキーなボーカルが映える。リズム隊のソリッドな演奏も印象的。特に1曲目のキラーチューンを流すと我が家のこどもらも踊っていた。

色々なプロジェクトに参加することで、私は多くのことを学びました。並行して自身の作品を作ることは大変でしたけど、それらをフィードバックして活用することができたんです。今作は、なんだかんだで2年ほど計画していました。自作曲だけで構成されているわけではないのですが、『Me Chama de Gato que Eu Sou Sua』は自分の人生においては非常に大事な作品で、ある意味で集大成的なものでもあるのかなと感じています。というのも、例えばファースト・アルバム『Morma​ç​o Queima』(2018年)は実験的な部分が多くて、自分が何をしてるのかよくわからないまま、「なんとか頑張ってやろう」みたいな部分がありました。そしてセカンド・アルバム『Little Electric Chicken Heart』は、50年代から70年代の雰囲気を持ってこようとして、ノスタルジーをなんとか突き詰めていくことを目指したんです。

https://turntokyo.com/features/ana-frango-eletrico-interview/

3.bar italia > Tracey Denim

ロンドンを拠点に活動するバンドの1stフル。3ピース特有の余白のあるアンサンブルで鳴らすローファイサウンドから醸される退廃的な雰囲気はマジカル。ダウナーなんだけどジメジメしすぎずむしろカラッとしてる感じすらあり、Ataxiaやってた頃のジョンフルシアンテのソロ作を通じるものを感じた。去年Vegynのレーベルから出てたDouble Virgoはbar italiaのメンバーの別プロジェクトらしい。


4.Bendik Giske > s/t

ノルウェーのサックス奏者の3rd、セルフタイトルは自信の表れか。ミニマルというより簡素で抽象的なビートにドライな音のサックスのフレーズが反復するヒプノティックな内容。プロデューサーはBeatrice Dillon。サックスはフレーズ録りしたサンプルをポスプロでループしてるのではなくて、ハナから最後まで一発録りしてるっぽくかなりスリリングで、メカニカルなリフレインが時折熱を帯びる感じにゾクゾクする。


5.betcover!! > 馬

天然物のクリエイターであるがゆえなのか臆する様子もなくリファレンスを強く感じさせながらも唯一無二のオリジナリティに溢れた良盤をハイペースでリリースしていく日本のオルタナ/アートロックバンドの5thフル。直近の時間や卵と比べての差異として、昭和歌謡的なセンスとL'Arc~en~Ciel的なセンスを感じる部分だったりライブで披露されているアグレッシブな演奏だったりがより強く感じられた。ただ最も印象的な点が柳瀬氏による歌の圧倒的な存在感であることは不変。


6.Brendan Eder Ensemble > Therapy

LAベースのコンポーザーによる引用のとおりスピリチュアル雰囲気のコンセプト作。音楽的には「Richard D.Jamesなら室内アンサンブルと教会オルガンを使って何をするだろうか?」というコンセプトらしく、実際にアンビエントワークスのカバーを2曲収録している。木管楽器中心のアンサンブルによる音色が醸す天上感は真に迫ったものがあり、タイトル回収を通り越してちょっと怖いくらい。

Therapyについての探求は、深い精神的な好奇心があった時期に生まれました。Ederは、臨死体験の生存者の証言を熱心に観察し、神智学の芸術作品や哲学の本を読み漁り、悲しみ、不安、霊性の経験を処理していました。

https://brendaneder.bandcamp.com/album/therapy

7.Colleen > Le jour et la nuit du réel

キャリア20年のフランス人電子音楽家によるダブルアルバムで「現実の昼と夜」というタイトルのとおり前後半の2部構成。デジタルプロダクションを廃してアナログシンセ1台とアナログディレイ2台だけのミニマムなセットアップでつくったとのことで、縛りプレイから生まれた創意工夫を"human-machine hybrid style"と命名して気に入っている様子。ディープなサウンドテクスチャとプリミティヴな旋律が印象的で、ほろ酔いで暗い風呂で聴くのが気に入っている。

サウンドを彫刻する芸術におけるコリーンの熟練は、アルバム『Le jour et la nuit du réel』で最大限に発揮されており、そのツールはミニマルであると同時に、多様性のゴージャスな源泉を生み出しています。

https://colleencolleen.bandcamp.com/album/le-jour-et-la-nuit-du-r-el

8.Cornelius > 夢中夢

それぞれの曲についてはMellow Wavesからの歌オリエンテッドというか構造よりもソングライティングが中心にあるような作風が継続されててよりキャッチーになっている印象。一方でインタールード的なインスト曲含めてアルバム全体の流れが整頓されているところには構造的な美学を感じる。これまでの作品も血肉にしつつ純粋な好奇心に従って歩みを進めていってる印象を受けていてファンとしてとても好感が持てる(謎のウエメセすみません)


9.Cut Worms > s/t

"pop essentialism"を掲げるブルックリンのSSWによる3rdフルとなるセルフタイトル作。60〜70年代リスペクトなフォーク〜ソフトサイケな雰囲気でめちゃくちゃオーソドックスなんだが嫌味のないキャッチーさでめちゃくちゃ聴いてしまう。曲もよければ録音も最高だがそれ以上に言葉にできないくらいグッドバイブスに溢れていてヤバい。ダニエルジョンストンのトリビュートに参加してるので知ってユルく追いかけてたけどこれは本当に好き。


10.Domenico Lancellotti > sramba.

"Tom Zé, Faust and João Gilberto collide" by BC。モジュラーシンセを使ってサンバを演奏した作品でリズムやコード感などはあくまで南米的な音楽なんだけどモジュラーシンセのサウンドククスチャが絶妙な異物感を醸していてめちゃくちゃ面白い。マッシュアップというより普段用いてる楽器の一部をモジュラーシンセに持ち替えてサンバ的な音楽をやっている感じというか。実際にシンセの音がサンバの伝統打楽器に似ているところに着想を得ているそう。コラボ相手のRicardo Dias Gomesのアルバムも進歩的なMPBでよかった。

Domenico and Ricardo instantly saw how the synthesisers were not at odds with the sambas they were playing, instead they had a similar sound to its typical percussion instruments (ganza, repinique, surdo, tarol).

https://domenico2.bandcamp.com/album/sramba

11.Eddie Chacon > Sundown

Jonh Carroll Kirbyトータルプロデュースの2nd。レイドバック感のある極上のモダンメロウソウル。シングル曲のHoly Hellはリキッドファンクっぽいのに目がない自分にとっては今年もっともハマった曲のひとつ。知らなかったけど90年代にソウルデュオで一発当てたあと相方を病気で亡くして長らく音楽活動休止?してた人らしく50代でJohn Carroll Kirbyと出会ってリリースした前作で反響を得て今作に至るとのこと。

Eddieは、59歳という年齢になって初めて、『Sundown』を作るための人生経験と静かな自信を得ることができたと語る。「『Sundown』は、まさか自分が作ることになるとは思ってもいなかった続編です。」

https://eddiechaconofficial.bandcamp.com/album/sundown

12.Febueder > Follow The Colonnade

イングランドのアヴァンインディーデュオの3rdフル。アニマルコレクティブ的サイケデリアとQuanticみたいな旅情というか異国情緒のようなものを感じる。QuanticはDJ的なのに対してFebuederのほうはSSW的というか歌指向で、有機的な楽器の響きと奥行き感のあるエフェクトのバランスが絶妙。知らなかったけどめちゃよかったので追いかけたいのだが情報少ない…


13.George Clanton > Ooh Rap I Ya

こういうの待ってましたというか、ディケイド級の名盤Slideのリプライズ的な印象を受けた。Slideよりもレイドバックして歌が中心にあるような雰囲気。

http://turntokyo.com/reviews/ooh-rap-i-ya-george-clanton/


14.Jonah Yano > portrait of a dog

広島生まれモントリオールベースのSSWが盟友バンドのBADBADNOTGOODと制作した2ndフル。パーソナルな響きのボーカルとそれを支えるほどよくストリート感のあるメロウなジャジーヒップホップなバンドアンサンブルは若さと燻銀のハイブリッドで、叙情的な雰囲気のアルバムをとおしての抑揚の満ち引きに惹き込まれる。熱さを帯びたチル。Slauson Maloneの客演曲も収録。


15.Langendorf United > Yeahno Yowouw Land

スウェーデンのサックス奏者によるエチオジャズと北欧ジャズの融合。少ない音数とシンプルなアンサンブルながらグルーヴは濃密で、ひとつひとつのフレーズはトライバルで強烈なフックが効いていながらも全体の構成としては北欧ジャズっぽくパキッとまとめあげられてる印象。

「官能的で、遊び心があり、そして名人芸。 ある部分では、フェラ・クティとティナリウェンがクラシックなブルーノート・セッションのために集められ、ニューオーリンズの葬儀バンドが賛美歌で締めくくったような感じだ。」
- Philip Selway,Radiohead

https://singasongfighter.bandcamp.com/album/yeahno-yowouw-land

16.Laurel Halo > Atlas

荘厳かつ幽玄な雰囲気のクラシカルなサウンドコラージュ。ひとつひとつの素材の輪郭がアートワークみたいに霞んでるからか、コラージュ特有の切り貼り感はなく境界が曖昧で、いろんな音が浮かんでは消える感覚が印象的。静かなところで目を瞑りながら音の重なりや変化に耳を凝らして鑑賞したい。


17.Meshell Ndegeocello > The Omnichord Real Book

豪華ゲストを迎えてのブルーノート移籍作。ゲストが目立ってフィーチャーされる部分は意外やあまりなく、ジャズ〜ソウル〜アフロな雰囲気の中、各プレイヤーが抑制効きつつ熱の籠ったアンサンブルを繰り広げるのがかっこよすぎて長めのトータルタイムが気にならない。


18.ML Buch > Suntub

オープンチューニングの7弦ストラトキャスターと空間系とフィルター系の音響効果がばっちりハマってか全編スペーシーなムードで、スペースエイジ風インディーSSWといった趣きで非常によい。エフェクトのかけっぷりが絶妙で"自然なSF感"が醸されてるというか素朴な感じすらあってしみじみ聴いてしまう。


19.Normal Nada the Krakmaxter > Tribal Progressive Heavy Metal

ギニアビサウ出身リスボンベースのビジュアルアーティスト兼コンポーザーの1stフル。クドゥロを取り入れたアグレッシブなトラップ〜ベースミュージックで、正直展開はそこまでないがそれが気にならないくらいのバイブス一点突破。タイトルからして格好がよろし過ぎるしアートワークもミュータント感ある音像とリンクしててよい(ヘビメタではない)


20.Slauson Malone 1 > EXCELSIOR

altopaloとKing Kruleの中間。曲数が多くジャンル的にも多様なので雑多な感じはあるが、そんなアルバムを通しで聴いていると帰納法的に彼の作家性のコアな部分が見えてくるような気がする。


21.Tara Clerkin Trio > On The Turning Ground - EP

UKブリストルのアヴァンポップトリオの2年ぶりのEP。トリップホップ、トラッド、ダブ、フォーク、バロックetc.のエッセンスを前衛的ながらポップさも感じさせる室内楽風の小曲にまとめてしまうセンスが天才でしかない。手数の少ないオーガニックな楽器の音と最低限の音響効果でこの雰囲気作れちゃうのすごい。


22.Unknown Mortal Orchstra > Ⅴ

ウェストコーストAORインスパイアな曲調にコーラス系のモジュレーションのかかった涼な音像のギターとゲイン強めで"チープ"に脚色されたドラムが印象的。ボーカルのエフェクトも相まってのリラクシングかつストレンジな雰囲気が非常に好き。Mac MilllerのCirclesとかWeekndのDawn FMとかと通ずるあの世感が印象的。


23.5kai > 行

ヒリヒリ冷たくソリッドなテクスチャのポストハードコア〜サッドコア的な音楽をミニマルでアブストラクトな構成でアレンジしてる感じなんだけど、ギターがアコースティックだったりクリーン寄りのクランチだったりするところに侘び寂びを感じる。wool & the pantsに感じるのと近い湿度があるようにも思う。


24.北里彰久 > 砂の時間 水の街

Alfred Beach Sandal名義含め5作目のフル。ルーツミュージックを消化して本邦特有の哀愁に落とし込んでるところにフィッシュマンズと通しるところを感じた。(こちらはボサノバベースっぽい感じで素材に違いはあるが方法論としては近いというか)


25.高山燦基 > 掬ぶ

君島大空、大石晴子、岡田拓郎、寺尾紗穂とかと近いバイブスを感じる。1stとは思えない洗練された音響デザインと絶妙に遅めのBPMとその隙間に埋めるようにしっとり響くボーカルが印象的。グラフィックデザイナーとしても活動されているそうでそっちの作品もめっちゃいい。https://www.instagram.com/cha_cha_819/

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