群像インソムニア 感想[Seraph M3-2024春新譜]

どうも、黒助です。初めましての方はどうぞお見知りおきを。
今回も、M3-2024春で購入した新譜の感想を書いていこうと思います。

レイアウト等についてはまだ手探りの段階なので、前回、前々回と比べて書き方にブレがある点はご容赦ください。


初めに

まず紹介し始める前に、この作品のXFDを貼っておきます。(一応初見の方向け)

さて、もうXFD初見の方はいませんよね?
タイトルにもありますが、今回紹介する作品は同人サークル「Seraph」のM3-2024春新譜「群像インソムニア」です。参加アーティストはいつものメンツ。そしてジャケ絵がもはや魔女というより邪神に成りかかっている!
どの程度気づいている人がいるか分からないけど、旧作の「ヴァニタスの肖像」、「DEEP DOWN」ではハート型の瞳孔が描かれていたのに対し、今作ではダイヤ型に似た形状の瞳孔が描かれているのも特徴。

1. インソムニア

今作は開幕から表題曲が飛んでくるスタイル。英語でのスペルだと「insomnia」で、端的に言うと不眠症のこと。ちなみに、アルバム名にある「群像」は多くの人々が集合している状態を示す。
そのままだとイマイチ意味が分からないが、まず普通に夜間に就寝できる人はその時間帯、身の周りに大勢の人を認知しているはずがない。と考えると、幻覚症状や悪夢の影響でありもしない集団の存在を認識してしまい、そのせいで安眠ができないという一部の人にはモロに当てはまる生々しいテーマとなっている。
話を戻すが、「Reflection」からSeraph作品には必ずIroriさんが参加しており、この人が作曲を担当した曲を聴けばそれがどんなアルバムか概ね予想できるケースがほとんどである。(葉月ゆらコラボ作品やもっと古い作品にはそこまで通用しない法則であるが…)
で、今回の場合はどうなのかというと、甲高いサウンドを使用するなど珍しく不穏さ全開な印象。いきなり楽しませてくれる!歌詞カードにも「毒」や「枯れた躯」など明らかに危険な単語が飛び交っており、開幕から引きずり込む気満々に感じる。ラスサビ前の妙に色気のある歌声で不意打ちしてくるのもいいセンスしている。

2. 毒の花

「Ambivalence」から楽曲提供開始と、海紅さんの現行コンポーザー製楽曲としては若手制作の部類に入る曲。(当人のサークルはAriabl'eyeS、-LostFairy-の同期にあたるため同人アーティストとしてはどう見てもベテランだが…)
提供曲の内容的にも「夙夜」が治安良い扱いされる程度にはヤバい曲の投下犯であり、今回も例にもれず相当やってる曲って印象。ストーリー的には恐らく不眠症に夜の営みや自傷、自殺系の願望と幻覚、妄想といった非実在性の情報が混じったものだと踏んでいる(正直理解しきれている自信はないが…)。歌詞としては「死者の怨恨」のようなちょっと違ってる程度から「純潔も喘ぎも」のように完全に異なるものまで意図的な不一致が見られ、かなり隠喩的な世界観表現をしているように感じる。
楽曲提供者のサークル作品と比べると「Messiah」収録の「約束のアミュレット」と同様のパートが一部採用されていたりとエミル側の最新技術も惜しみなく投入されており、楽曲提供者の特色も最大限活かすサークルコンセプトがはっきりと出ている曲とも言える。が、それにしてもこんな凶悪な曲を当然のように許容できる海紅さんとSeraphのキャパの大きさは他サークルでは真似できない芸当である。

03. Ominous Dream

本作の中では比較的平和(当社比)な部類の曲。ちなみに曲名は和訳すると「不吉な夢」となる。楽曲提供者はヒノデさんだが、なぜか出現するサークルごとにカタカナ表記だったりローマ字表記だったりと名義ブレが見られるため調査する際は要注意。
本作の収録曲の中では終始ゆっくりめでゴシック感も強めに感じるサウンドで進行し、海紅さんの歌い方も結構高めなトーンで非常に聴きやすい。旧作を例に挙げるなら「NIGHT QUEEN」の「Midnight Shadow」を意識すると理解しやすいかもしれない。されど歌詞の方はよくよく見返すと大概な内容で、官能的な印象を受ける独特の歌唱表現も相まって危ない感じの曲に仕上がっている。(Seraphやエミルの旧作も聴いてる人ならこんなぼかした言い回しでもなんとなく察せるはず…)

04. 流星のセレナーデ

本作で恐らく一番怖い曲。もう少し正確に表現するなら強い弱いという普通の感想が出るより早く、作品コンセプトに沿った恐怖心が襲ってくるタイプの曲。
個人的意見ではあるが、私はLifeRubatoさんのことを相当高く買っており、単純な作曲センスだけなら自分が知る限りほとんど比肩する者がいない最強の人物だと思っている。正直、半年に1曲程度の楽曲展開速度だから目につきにくいだけで、一歩間違えたら同人音楽界隈全体のパワーバランスを歪めかねないパワーと異質さを持っていると思う。
曲としては「ヴァニタスの肖像」収録の「Atheism」に近い構成を持つ印象で、美醜併せのむ狂気性が強く、根源的な恐怖を刺激してくるやべーやつ。流石に神の子合唱団は入ってなさそうだが、代わりにサビ前部分の「捧げて 誘われて」周辺の不思議で不気味な表現へと昇華されているように感じる。他にも、サビでは恐らく海紅さんの高音パート、低音パートを重ね掛けするいつものLifeRubato製楽曲の特徴もしっかり入っていてパワフルさの面でも強い。
また、作品コンセプト的に入っても不思議じゃないとはいえ、「どうかこの想いが あなたに届きませんように」と歌詞に載せる形でメッセージを伝えるという音楽の本質と対極のフレーズを平然と採用するなど、作曲面だけでなく作詞面も一切躊躇や容赦がない点も魅力の一つ。

05. Last Breath

本作の最終トラック。葉月ゆらコラボを除いては初となる作詞作曲Paspalさんの楽曲がラストを飾る格好である。(向こうと違って狛茉璃奈さんボイスが入ってる違いはあるが)
今までの曲と比較して幻覚、幻聴を伴う不眠症の症状が比較的明瞭になっていて、狂った行動を取っている目的などがアルバム終盤で明かされるストーリーアルバムらしい展開も担えている印象。
Aメロでは寝れない夜に耳に障ることが多い時計の音が鳴ってる、サビの「死の果実に滴る蜜 真紅に沈む毒が」に該当するエリアのエフェクトがかかっている箇所のトーンが番数を重ねるごとに高くなっている、1番サビが終わるとイントロに戻って文字通りの再上映みたいな感じになる、ラスサビ直前に「さよなら…」とボイスパートが増設されている、と小ネタの数が相当多い。(これだけ見抜いても尚サビに入ると起動する仕掛けが把握できていないため、まだ隠れてる要素がありそう)
サウンドの流れ自体はSymholicでもよく見られる美旋律が主体というイメージで、素の状態だとシンプルに親しみやすいが歌詞や小ネタに気づくにつれて狂気性の解像度が上がっていく、リスナー側の深度に応じた表情変化が激しい1曲という印象を受ける。

総評

今回の作品は全体的に見て前回までと狂気性の踏み込みがさらに一段深くなっているほか、官能的な成分の配合比が多い、幻覚や幻聴と現実とを混同させて境界線を認識困難にしていたりとだいぶ変貌している印象。特に境目を認識させない作風が非常に面白い曲者で、第三者目線で聴いてるこちらを狂った世界観へ文字通り引き摺り込んでくる作用を大幅に増幅している。
最後に、収録曲の中で個人的に特に気に入っている曲を1つ挙げると、十分な闇属性、狂気性を持ちながらもサウンド目線、ボーカル目線双方で非常に聴きやすく仕上がっている「インソムニア」が筆頭である。この曲はサークルコンセプトの闇属性、扱いやすさの双方で優れているため初心者の方にもおすすめである。

今回は以上です。長々とお付き合いいただきありがとうございました。

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