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武富健治先生『古代戦士ハニワット』勝手に応援企画(1)

 武富健治先生に『古代戦士ハニワット』の連載を続けていただくために、現在『ハニワット小事典(仮)』を作成しています。素晴らしいマンガをより楽しめることが出来るように(願望)、ストーリー篇、キャラクター篇、用語集、年表、コラムなどをまとめています。要望があれば無料でPDF配布をしたいと思ってますが、何せ時間がかかります。そこで、その一部を公開してゆくことにきめました。絵もつけたいのですが、自分で描くとなると時間もかかるし、手書きしかできないし、下手だし(笑)。どなたかいい案ください(本気)。

 今回はコラム①「伝奇とその周辺」の草稿を公開します。よかったら『ハニワット』の単行本第7巻が、8月末に発売するのでご購入ください。また『漫画アクション』に『古代戦士ハニワット』は連載中です。迫力のある武富先生の絵を雑誌サイズで読んでください。『漫画アクション』はコンビニにでは入手難しいですが、大手書店のマンガ雑誌のコーナーにはあります。是非、最寄に。ネット版もあります!


コラム①:伝奇とその周辺(草稿)

1 伝奇について

 本書(現在作成中の『ハニワット小事典(仮)』を指す)では、『ハニワット』を「伝奇」と紹介してきましたが、「伝奇」とその周辺について解説したいと思います。私の個人的な経験の範囲では、「伝奇」というジャンルは一部のSF小説を紹介する際に使われ始めた言葉だと思います。1980年代から1990年代頃は、夢枕獏氏、荒俣宏氏の小説に対して使われていたと記憶しています(正確には忘れてしまったのですが、夢枕獏『大帝の剣』の何巻かの帯で初めてみたような)。その直接的な起源は、半村良氏『石の血脈』(1971、早川書房)、『産霊山秘録』(1973、早川書房)、『妖星伝』1~7(1975~1995、講談社)などの作品。ぼくは『妖星伝』の第7巻の刊行を心待ちにしたくちです。
 「伝奇」というジャンルの特徴は、「史実」に一応沿いながらも、超人的な能力をもつ架空の人物が活躍する物語です。「伝奇」の最初期の作品では、「超人的な能力を持つ架空の登場人物」は、忍者であることが多かったと思います。これは、真田十勇士の物語で人気を博した立川文庫の教養を受け継いでいるのではないでしょうか。
 戦後を代表する忍者小説は山田風太郎氏の忍法帖シリーズですが、山田氏は推理小説作家としてデヴューしたこともあって、山田氏の小説を指して「伝奇」と呼ぶことは余り無かったと思われます。また呼ばれたとしても、「伝奇」というジャンルが認知された90年代以降ではないかと思います。忍者小説は大衆文学の一ジャンルとして人気分野なので、わざわざ「伝奇」と括る必要はないはずです。
 また「伝奇」には、「不可思議な生命体」が登場する場合もありますが、ここだけ着目すると、怪異譚や神話と区別がつかなくなります。これについてはいずれふれます。
 『ハニワット』もこのような特徴をもつマンガであり、埴輪土(はにわど)や埴輪徒(はにわと)は超人的な能力をもつ人物たちであり、ドグーンは「怪物」です。さらに、これらは埴輪や土偶をモデル(あるいはその逆)にしている以上、現実の埴輪や土偶に対する解釈を変容させますし、ハニワットとドグーンの戦闘が、日本史を舞台に断続的に繰り返していたのであれば、日本史解釈にも変容をもたらします。例えば、ハニワットの技術を伝承してきた神社の歴史はどうなるでしょうか?

2 伝奇と偽史

「伝奇」は「史実」の背後には、超人的な能力をもつ人々が活躍(たいてい善玉)・暗躍(たいてい悪玉)していたとことを主軸とするので、「史実」の解釈に大きな変容をもたらします。その結果「偽史」と近接する部分が出てきます。ただし偽史とは異なります。というのも、偽史は「真実の歴史」を語るという建前にもとに、出所のあやしい資料を持ち出したり、一般に知られている資料に無理な解釈をほどこすことによって「史実」を捻じ曲げる作業です。しかし「伝奇」は最初から小説やマンガ、つまり虚構が約束事になっている物語です。小説家や漫画家が、自分の構想した物語が「真実の歴史」だと考えることはまずないはずですし、読者も同じだと思います。
 ただし古代史は厄介です。古代史は史料も乏しく、その範囲も長期にわたり、日本史における古代という歴史区分には明確な合意も無いからです。古墳時代、飛鳥時代、奈良時代、平安時代を指す場合もあれば、縄文時代、弥生時代を含む場合もあります。史料の問題でいえば、古墳時代を遡ると文字史料がなくなり、考古学的な遺物が史料となります(中国史書は使えます)。大雑把にいえば、文字史料のある時代を扱うのが歴史学、文字史料が無い時代を扱うのが考古学です。そもそも文字史料が無いところでは「史実」の確定は困難です。「史実」と「偽史」を区別するための基準となる文字史料がないのです。
 『古代戦士ハニワット』の場合は、「古代」に縄文時代、弥生時代を含めているような印象を与えます。というのも、土偶は縄文時代に起源を持つと考えられており、埴輪は古墳時代の遺物とされているからです。

3 『日本書紀』及び神武天皇

 古代史の基礎史料は『日本書紀』と『古事記』、そして中国史書中の「倭」伝のたぐい、韓国史書の『三国遺事』です。『ハニワット』第1巻・第1部第6話「出陣」にも、『日本書紀』巻第三「神武天皇」の「即位前紀」の一節が一部省略した形で引用されています。内容は神武天皇も「埴輪土(ハニワド)」をまとっていたという根拠として(ユリさんが語る)。つまり『ハニワット』では、神武天皇が史書に記錄された最初の「埴輪徒(はにわと)」ということが語られているわけです。これは伝奇というジャンルの典型的な歴史解釈ですね。引用文のあるコマには、洞窟の中に祀られている神武天皇の「埴輪土」と思しき「鎧」と「兜」が描かれています。武富先生が『ハニワット』「神武天皇篇」のようなものが描くならば、『日本書紀』に対する本格的な新解釈が始まるわけですが、これは伝奇的解釈であっても、偽史とは言えないと思います。ただ、神武天皇の意味をづけ次第では偽史に限りなく接近する可能性ありえます。現在多くの歴史学者は神武天皇を神話的人物としているので、偽史に接近するのか、新しい神話なのか、ものすごく複雑な問題が生じるのではないでしょうか。
 ちなみに、神武天皇の即位年はいわゆる皇紀元年であり、『東洋史年表』(平楽寺書店)によれば紀元前660年です。この時代、中国は周の恵王、韓国には王朝はありません。日本は一般に縄文時代に当たります。埴輪よりも「埴輪土」は古いのでしょうか?このあたりも含めて「神武天皇篇」を読みたいですね。


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