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【Gibson The59 J-45 History アーカイブ】クロサワオリジナルモデル開発秘話、そして次なる構想~Road to 65th~

2012年にクロサワオリジナルモデルとして発表以来、その後も大好評を博し、もはやクロサワ楽器ギブソンアコースティックの顔ともいえる存在になった「The59 J-45」は300本以上の販売実績を作る超人気モデルとなっています。2020年年末には最新バージョンの「The59 J-45 Genesis2」が20本限定で再登場したものの即完売状態。この記事を書いている2021年2月時点で既に次はいつ作るの?というお問い合わせをいただいており、本当にありがたいことです。毎年変わるGibson社のオーダーシステムや全世界的なアコースティックブームによりモンタナ工場の受注モデルの生産が追い付いていない状況を考えますと、次のオリジナル品オーダーは簡単ではありません。

そんな中でも2021年中には新たなThe59 J-45をお届けできるよう交渉を続けていきますよ。うん。

今回はこの「The59 J-45」が初めてリリースされた2012年当時の特集記事に加筆修正を加えたアーカイブです。当時の記事の為、若干わかりにくい点がありますので現在と異なるオーダーシステムや状況には(*)で解説も追加しています。

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"1959"という数字に反応される方はアコースティックギターユーザよりも寧ろ、エレキギターユーザ、とりわけGibson Les Paulファンの方なのかもしれない。リアルな"59 Les Paul Standard Model"は希少であり、垂涎の的であり、神格化されたまさにLegend。
現在、そのリイシューモデルは高額にも関わらず、Les Paulファンの心を揺さぶり、魅了し、オーナーになる喜びを与え続けている。
パーツ等の外観は勿論のこと、特に評価されているのは"59ネック”と呼ばれるレギュラー品と比較して厚みのある、この時代特有のプロファイルを持つネックである事は間違いない。
(*1)現在、Gibson Acoustic(Montana)よりリリースされている完全リイシューモデルは"Legend Series"と呼ばれる "1942 J-45""1937 L-00"の2機種に限られる。これらのギターはネックプロファイルは基より、ブレイシング構造、ニカワ接着、材質まで当時の仕様にとことん拘ったモデルである。

(*1)当時生産していたLegend Seriesは、J-45、L-00が生産を開始する初年度の完全復刻版と謳っており現在では生産終了。シリーズ名こそなくなったものの、2021年現在は同コンセプトで歴史的意味合いを持つ年式を復刻した「Custom Shop Historic Reissue Collection 」1942 Banner J-45が生産されている。

Gibson Japan担当者との綿密な打合せを幾度も重ね、「こだわりポイント」の洗い出し、Gibson Montana工場内における実現の可否等の確認作業が数ヶ月続いた。

我々が求めたポイントは…
(*2)1959年製 J-45のネックプロファイルの再現

(*2)当時、エレキギター担当者と飲みに行った時にですね、59年製バーストのネックシェイプがいかに良いか、その凄さについてご指南を受けてたんですね。その話の流れで、そういえば59年頃はギブソン社は今のように工場を分けずに一か所で作ってたんだから意外とアコも同じシェイプなんでは?一回測ってみっか?てな事がありました。1959年J-45を所有するスタッフがいたこともあり、実際に計測してみた所、やはりほとんど一緒!手元にはネックシェイプのCADデータがある。これをモンタナ工場に持ち込んで再現したら熱いかも!なんて盛り上がったものです。The59プロジェクトが立ち上がったばかりの時の話。

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「Montana工場まで本物の1959年製J-45を持っていこう!」

当該モデルは指板とブリッジにハカランダ(ブラジリアンローズウッド)を採用している為、米国に持ち込むにはCITESを取得しなくてはならないし、機内持ち込みが可能であれば問題はないが、「預かり手荷物」として荷物置き場に放り込まれたら気圧や気温の影響でバラバラになってしまう危険性がある。Gibsonジャパンとの交渉の後、実機をモンタナに送ってもらう事に成

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功。あとで我々もギブソンモンタナ工場に乗り込み、実機を交えてのカスタムオーダーミーティングは開催された。

つつがなくGibson Montanaスタッフとの打合せは終わった…終わったのだが、GMのDennis O'brien氏 、Sales & Marketing Manager のRobi Johns氏との緊迫した数時間、普段は人懐こい彼らではあるが"Business"の話になると眼光鋭く、当然ながら"Businessman"の顔となる。今回持ち込んだ他のカスタムモデルにおいては予定時間内の打合せで決着がついたのだが、メインとなる"J-45 The 59"に関しては別枠で打合せの時間を更に設けられる事となり、明朝再びデスクを囲む事となった。
"Very Very Exciting!"
Robi氏が真っ直ぐな瞳で切り出した。
今回、我々が持ち込んだ本企画に賛同し、興味を抱いてくれたのはひとつの光明が射したような気がした。
「独りよがり」ではなく、Gibsonが面白がってくれているのだ!(*3)

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(*3)1959年J-45実機を所有し採寸に協力してくれたのが、通称アニマルこと当社名物スタッフの池森氏。当時GMだったDennis O'brien氏 、Sales & Marketing Manager のRobi Johns氏が来日、G-CLUB TOKYOに来店。たまたまお客様ご対応中だった池森氏の、Gibson愛に溢れ熱く語りつくす様子がまるで「お客様の首元にかみつく猛獣」のような勢いだったことから、GMだったDennis O'brien氏が大歓喜。彼を「アニマル」と命名。その後、伝票にもAnimalと記載されるというオフィシャル感満載の事態にまでになった。


【スタッドについて】

出来上がったネックプロファイルデータをGibsonに託し、次に我々が追い求めたのはアジャスタブルサドル用のスタッド(ネジ)。
1956年より「オプション」としてアジャスタブルサドルが登場し、1960年代に入るとこれが主流となる。現在Japan Limited Modelとして1960 J-45 / B-25 / Hummingbirdに搭載され、独特の歯切れ良いSoundが好評を博している。(*4)

(*4)2021年現在はリミテッドモデルというラインは廃止されているが、ORIGINAL COLLECTIONという名称で50~60年代の復刻版が継続生産されている。


1960年代および現行の復刻版に採用されているスタッド(ネジ)は頭の径が小さいのに対し、1956年からのオプション時代にはひと回り大きなサイズのものがあった。勿論、Gibson社では現在用意していないパーツである。

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左がラージスタッド(大) 右が現行モデルについているスタッド(小)


スタッド(ネジ)は可動する部品である。我々の関連業者に仲介してもらいコストも考慮した上で幾つか工場を紹介してもらう。近隣アジア諸国の工場から格安の見積も出た。しかし、ここは「精度」を重視し、国内の工場にて生産を依頼。スペースシャトルのネジを作っているのは日本の町工場なのだ!59年製の再現に拘るからにはスタッドも新品状態では面白くない!当社熟練リペアマンによりさも経年したかのようなエイジド加工も施す。

エイジド加工前

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エイジド加工後

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「ここまでやるのか?…」

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【フィンガーボードエンドについて】


ラウンドショルダーモデルは1954年まで14Fでボディにジョイントされ、フレット数は19。1955年よりフレット数は20Fとなる。
現行品においてはジョイント部も変わらないし、フレット数も20Fで同じなのだが何か違和感を感じていた…
「フィンガーボードエンドがサウンドホールリングに被っている!」

・現行Japan Limited 1950 J-45

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・1959 J-45

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計測してみると現行品は昔と比べてサウンドホールの位置が2~3mm上がっていることが判明。「この際、下げてしまいましょう!サウンドホール」

【モンタナ工場の両氏、実機を確認】

2012.6.7 当社イベントの為にMontana工場よりGMのDennis O'brien氏、マーケティング/開発/営業MGRのRobi Johns氏が来日。
「滞在中に今回のプロジェクトのベースになる1959年製J-45を触りたい」

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ネックを握りシェイプを確認、ノギスで採寸。サウンドホールに手を入れブレイシングを直接確認したり、LEDライトと鏡で細かく内部をチェックしメモされていました。勿論、弾きまくり! この後、細かく仕様の再確認をしましたが、ひとつRobi氏より提案が。

当初はオリジナルに拘りノンスキャロップドブレイシングでオーダーをしていたのですが、現在Gibson社は採用しておらず、また1959年製のJ-45の音色を確認された結果、スキャロップドブレイシングの採用によりビンテージサウンドに近付けるチャレンジをしたいと。

我々の答えは…YES!

このようにThe59 J-45初号機はスキャロップドブレイシングでしたが、我々の再三にわたる熱い熱意によりその後、ノンスキャロップドブレイシングも実現することになります。

【ついに完成】

待ちに待った J-45 "The 59"のプロトタイプが完成。Gibson Japan担当者が手持ちで当店に持ち込むと事前に連絡が入り、関係者は朝からソワソワ。ギターが到着し、蓋を開けた瞬間に、「オォーッ!」「リングが全部見えてるっ!」1959年製J-45を持ち込み、当社Gibsonアコースティックチームが集合し細部まで比較検証。

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一番我々がこだわり、追求したのはネックプロファイル…これはしっかりと再現されていました!現状のGibsonアコースティックLine-Upにはないネックプロファイル。1959のネックプロファイル!
フレットもLegendシリーズに採用されている太いタイプ。
現状、サンバーストの一番濃い部分が太すぎますが、あくまでプロトですから…製品化の際にはオリジナルに近付けるよう再要請。
ネックプロファイル、フレット、サウンドホールの位置など、我々が追求した重要ポイントは見事に具現化されていた。

さて、Soundは…ギターである。高級ギターである。勿論1959年製ビンテージと同じ音がする訳もなければ同じ土俵に上げて比較すべきものでもない。
しかし、値段に見合う、エンドユーザに納得していただけるSoundであって欲しい…いや!そうでなくてはいけない!今回のプロジェクト、長時間をかけて仕様を確認し、かなりのディテイルにまで拘ってオーダーをしたが「音」についてはイメージはするも製品として出来上がってくるまで全く未知の世界であった。

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強く、そして優しく弾き、しっかりと確かめさせていただきました。

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感涙

とまあ、当時の特集記事はここまで。長文のため、私や他の担当者が持ち回りで記事を追加していったので途中で明らかに文体が変わっています。
特集記事ではただただ感涙とだけで締めており、サウンド感、レビュー的なものは書かなかったのですが、正直、「感動しすぎて書くの忘れました」現行のレギュラーモデルと比較し太くて武骨な鳴りが59年製のヴィンテージに共通するものがあり、この子が育ったらいったいどうなっていくのか楽しみ、という感想でしたね。初号機リリースから9年が経過しましたので弾きこんだ個体をお持ちの方いたら是非一度お聞かせ願いたいものです。
下は完成品の画像です。プロトタイプはトップのサンバーストのボトム側を縁取るように塗装されている一番濃い部分(こげ茶)の幅が太すぎたので、もう少し細いものにしてほしい、と依頼したわけですが、今度は逆に細すぎた気もします。これは第2弾、第3弾とリリースを進めるにつれ改善されていきました。

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以上が「The59 J-45」が初めてリリースされた2012年当時の特集記事、今明かされる製作秘話でした。マイナーチェンジを繰り返すたびにリアル59年製に近づいていくオリジナルモデルですので今後もさらに追及を続けていきますし、2021年も再リリース目指しています。もちろんこだわりのカスタムモデルはGibsonアコースティックだけではありません!他のブランドでも展開していきます!

特に2022年はクロサワ楽器創業65周年を迎える記念すべき年。あと1年の間にこのモデルと同じ位、いやそれ以上に語りたくなるモデル、よくぞ作ってくれた!というエキサイティングなオリジナルモデルを開発しますので是非是非ご期待ください。完成までの状況もこちらで公開していきます。


次に計画しているこだわりのオーダーは…

Martinと!

Lowdenと!!

G7 Specialだ!!!(←宣伝)


とその前に【Gibson J-200 The64 Story アーカイブ】クロサワオリジナルモデル開発秘話、そして次なる構想~Road to 65th~に続く




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