Twitterに書いた言葉たち(971~980)

971)泥濘む食卓の木乃伊取り
砂の林檎を噛んでいる
夜更けの舟漕ぎは嗅覚を売る
魔物の夢に耽溺すると
朝焼けには灰と化す
加速する皮膚感覚を抱いて
病んだ雨を呼び込む
虚構の上に座って
腹底に獣を飼う

972)乾燥地帯が静電気を孕む
指の腹で押し出される雪雲
遠ければよく視えているのだろう
その心算で不覚にも浅い
胡座を揺らす風の慟哭
慎重になるほど深みに嵌る
粒子が畝ると波は交歓し
笑い声が弾けてゆく
澱となった不純物を濾過して
淘汰された右側の痛覚だった

973)飛躍は踵に羽をつけて
遠くへ着地する為の余暇を持て余す
追い詰められた左脳から
分泌された物質を吐露する
過剰な余剰を投擲して
あなたの顔を削り出した
警鐘は警笛を連れてやって来ると
霧の街で住人は一人ずつ消えてゆく
静かな飛翔で首から上が飛ぶ
「あれは私たちだったもの

974)鼓膜を震わせるのは
歌声だったのか
あれは赤い水に棲む魔物
ゆっくりと踊りながら
私たちを狂わせてゆくと
音もなく水底へ帰ってゆく
現象として目覚めると
あれは私たちだった肉体を
夜毎啜っていたのだろう
粘膜を隔てて血液は垂れてゆく
生まれる頃には
わたしはあれの姿で水面を走る

975)増えてゆく壁の線が
躊躇なく縦横無尽に走ると
無邪気さは邪悪な化身だ
湯船の中で沈んでいるのは
私の顔をしたお前ではないか
怠くなった肉体は浮遊する
冷凍庫に仕舞われた野菜のように
お前の顔をした私がそこにいる
雲の上から見下ろしたのは
私たちの境界を曖昧にしたからだ
また壁に線が殖える

976)涙袋に海を隠して
浮かんでいるのはなんて事ない雲
白い花びらを道連れに
貝殻は桜色に染まってゆく
可愛いほど可哀想な姿を晒して
西日は沈んでゆくだけです
明日はやってくるだけです
あなたたちの正義から
わたしたちの悪が生まれる

977)眩暈は唐突に頭蓋ごと揺らす
傾ぐ躯を閉じるように
枕に凭れてゆくと椅子の上で
本を広げたあなたがやってくる
悲哀はディストピアを産んだのか
否、それは死と隣り合わせの
嗅覚は殺されたのか
否、それは情熱を奪い去って
輪郭は失われたのか
夜を照らすには蝋燭の数が足らない

978)物騒な言葉を狩り獲ると
斑に夜明けは引き伸ばされる
「虚無は平等に分け合いましょう」
立て看板で文字化けするのは
電子的な狭間を抜けてからです
模倣は軈て剥離して
あなたたちは向こう岸から
逆さまに手を振るのです
私たちの顔に張り付いた恐怖が
伝染してゆくとあなたたちは
音もなく擬態する

979)切れた唇の上で
飛び跳ねている痛み
愛らしさが憎らしさになる手前の
かわいた笑い声が繁殖する
本の中に閉じ込められる
未定義である横顔から
上書きされた保存の上澄み
封筒には筒抜けになった秘密が
慎ましく書かれていたのだろう
独白から毒は記されると
青紫に燃えて輝く

980)研ぎ澄ますのはどこの感覚か
血が滾るのは何故か
いつも夜の深い部分で
逃避を重ねている
首に手を当てて息を奪うと
冬が近付く気がしている
真夏の夜にさえ凍りそうな視線で
金属のぶつかり合う音にも似た
冷たい熱が皮膚に触れると
おぞましい言葉がやってくる
枕の下には剃刀を潜めて
悪夢を絶つ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?