Twitterに書いた言葉たち(931~940)

931)虫除けの注意書きには根を生やす
毒性植物の羊歯が視える
緑色のボタンから充満してゆく
部屋の角で追い詰められた
言葉たちが蹲っている
ちりとりとほうきで片付けると
半透明の血が残っていた
消したものの小さな復讐が
何かの予感として根を張ると
わたしの脳で微かな警鐘が鳴った

932)こんにちは、声がして
振り向くと夕焼け
焼いたのは誰ですか?
何を焚べたのですか?
秋色の炎色反応があります
ゆるやかな非日常の欠片から
誤字脱字までの愛嬌を
血を通わせるように続けます
あたたかな新鮮味が欲しいので
掌にはべったりと夜のインク
窓にはダイイングメッセージ
横たわるベランダ

933)一面の雪景色の幻を視ています
暑さの最中で背中が
左右に開いて羽化します
まだ半透明の躰が
一冊の詩集になるまで
筆を置かずに走らせます
白い気配を浮き彫らせ
陶器のような朝に起床します
足音が足跡を残して
去り際に花束を置いてゆく
言葉のない声で彩られ
壁面には詩篇が完成しました

934)切れ端からは何が読み取れるか
答えや意味ばかりを求め過ぎて
ここはカラッポになってゆく
否、満ちている
否、なにもない
何故か高鳴る潮の歌声に
爪先たちが踊り出す
鎖骨に敷いた道筋が照らされて
蛋白石のようでした
銀の粉を吐いて
貝の奥で綴っている

935)柑橘の馨が運んだのは
海の向こうの音色だった
あなたの声は透き通り
吹き抜けてゆく風でした

屋根裏でしたためた手紙には
貼るべき切手がありません

異国の丘で月が沈んでゆく
海の向こうのこちら側に
わたしの歌は透き通り
吹き抜けてゆく風でした

屋根裏部屋には
手紙だけが残されています

936)割れないコップの中で
水が小さく鳴いた
動物を彷彿させる声で
僅かに波打った
平らな皿の上では
昼の時間が平らげられた
あふれる欲望に名をつけて
食欲は睡魔に塗り替えられる
湿った髪が枕に沈むと
世界は休息に身を委ねる

937)時計の針がぐるぐる走り回る
左から右へ物事は進んで
書き残されたものばかりが
ただ残骸になって重なっている
骨が鳴るように歌うと
あなたの耳は木霊する森を想う
湖畔に寄り添う月の精が
顔を見せずに踊って
嗅覚は鋭くなってゆく

938)液体は意思を持ち始め
結晶化することでやっと止まる
形式は魂の姿だった

「夜の本体を見つけてください」

声は反響して消えてゆく
幽かに宿った熱を書き出して
吐瀉された言葉を括ると
首は長く伸びて朝が来る

「夜の本体を見つけてください」

残響が枕に吸い込まれてゆく
薫った花の顔が散る

939)床の上を低く滑空する
仄かに光るコトバ
鼻濁音を買い被ると
斜塔は崩れ去ってしまう
(砂がありません、ここには)
注意書きの表面で焚き付け
星は粉々にしておきます
布団の中で化け物になると
野菜室から次々と代役が現れる
「猿芝居ですね」
翁の顔で背後に立っている
嫗の顔で背後に佇んでいる

940)乾いた笑いを狂気に代入すると
正解は歪んで不正解になった
「縮図と上位互換だからね」
したり顔の群れを横目に
渇いた喉を水分で潤しても
情熱は冷たく燃え続けている
「悪い部位を変換しておいてね」
書き置きは去り際の配慮だったか
休日には魚になります
さよならのよるになら会える

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