宿題テーマ「〇〇川」

【思川】
           黒崎 水華

かなしみの色は眼にみえず
今も水面にきらめいて
「あ、」と言葉を飲み込んで
鱗に花びらが乗ると
だれかの代弁として魚影の舟になっているのでしょう

重く冷たい雨が降り注いで
この水はこんなにも荒々しく濁る
面影が浮かんでは消えてほどけます

だれかの悲しみを溶かして
海へと流れ込むので水はいつしか
涙の味になるのでしょうか


【利根川】
           黒崎 水華

海のように横たわるこの川を渡りながら
故郷について思い巡らせると
ついこの前のように思えるほど
流れてきたのか流されてきたのか

向こう側が彼岸だと思っていたけれど
渡ってしまえば此岸に過ぎない
みんな同じ顔をした行列に行儀よく並んでいる

消費されたのか消費したのか
生命に値段のラベルは見当たらない
この川を誰も買い取ってくれない
所有できない魂みたいにただ事象に過ぎなくて
流れていくのか泳いでゆくのか

岸に辿り着いてもまた海へ飛び込めるのか
黙っていても流れている水が溢れてゆく

重力に支配されて引き寄せられてゆくと
冥府に根付く胎児のように睡らせる行為に似ている
言葉と謂う形骸を積み上げる時間潰し

「故郷よ、さらば」
友が向こう岸で手を振る
わたしは川の中腹で深く息を吸い込んだ


【三瀬川】
           黒崎 水華

(春霞 針先覗き みる彼岸)
過去の亡霊が佇んでいるのが視えた
靄がかる亡者の顔は判然としない
音もなく川面を舟が滑ってゆく
啜り泣きと幼子の積み上げた石の崩れる音
地獄の入口はいつもこんなにも身近に潜んで
根付いている花ばかりが鮮やかにうつくしい
「あれは鬼?」
「いいえ、あれは母であった者」

(落ちている花の 閉じた頭のなか その顔は、だれ?)
流れに押されて通り過ぎてゆく花は
あなたのようでもあり
わたしのようでもある
俯いた花ばかりの庭を想起させる閉じたにおい
向こう側へ渡ってしまえばそこはもう此岸ではないのか
黙っている花芯の馨ばかりが饒舌であった

(背骨から 冬虫夏草 生えてくる夜)
掘り起こした土が腐臭を帯びる
雨の気配と湿度の重さで掌は土を吸うようで
水の流れる音が止めどなくあふれ続ける
重力に従って蒸発して降り頻り
軈て川へ流れ込み海へと溶けてゆく時間
それは永遠にも似た円環の営み
「あれは母であったか?」
「いいえ、あれは」

せせらぎは淡く光を宿しては海の月にふれなじむ


【友辺川】
           黒崎 水華

わたしは流され続けています
洗われているのかもしれません
あなたたちは岸に辿り着きました
もう川には飛び込まないかもしれません
けれどわたしたちは燃える星なので
合図を送り合うときがあります
あなたの明かりが今でも点滅しています
わたしは点滅を返します
(すこし、いいえ本当はとてもかなしい)
あなたたちと出会ったのはこの流れの途中だったから
わたしだけ今でも流され続けてはるか遠くの方へ行ってしまう
たとえ岸に一時辿り着いてもまた川へ飛び込んでゆくでしょう
そのたとえようもないやるせなさを重りに
業の深い身を濯いでいるのかもしれません
海に辿り着くまで何度もこの身を委ねるように
耳の奥まで声で満たされています
やがてこれが波音に変わるでしょう
「わたしたち同じ川にいなくなっても友達だよ」
行き場のないさみしさがいつか海に辿り着く
それはわたしの涙の味がするのでしょう
わたしは流され続けるでしょう

こうして毎回幾つも生産されています㊙
以上、次回(4/23)の教室の宿題(埋没編)でした🔦

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