Twitterに書いた言葉たち(961~970)

961)海を切り分けるように
皿の上に飾って
口に運んで咀嚼したら
珊瑚礁の感触が
舌先に感じられるでしょうか

あなたの貝の声が
正解を齎すまで
ナイフとフォークで
分解し続けてゆきたい

解体と呼ぶのは
深部に触れた瞬間の高揚で
染まるのは夕暮れの色

962)熱を孕んだ指先が
言葉を捏ねる
過程は時間が必要で
結果に結びつくとは限らない
焼き上がる生地が
膨らんだまま冷めると
味覚に作用するのは嬉しい誤算だ
熱に浮かされた夜の始まり
言葉を食べてゆく
一匹の生き物として
美味しく頂きます

963)浴槽に浮かぶ星を匙で掬う
金魚の歌は聞こえない
秒針は呼応しない
湯気の中で雲を練り上げ
夜空に敷き詰めて流す
タオルの闇は水を吸ってゆく
音もなく汗ばんだ肌から
わたしたちは主語を削ぎ落とした
「石膏は滑らかな皮膚です」
観察する目が本を積み上げてゆく

964)なだらかな谷間には
花が咲いていたのだろう
摘み取ることのない
純潔を捧げている
やわらかな嘘ばかりを
そっと撫でていると
長い手足が白く透き通る
継承は魂の血液で行われる
それも夜の一族の掟で」
花の顔は遭遇しない
私たちは引き合うだけだった

965)伸びた爪を切り揃えて
額縁を飾っていた
本の部屋は湿度を嫌う
薄暗がりで息を潜め
あなたは目を覚ました
少しだけ時を止めて
折り曲げた腕が幻想を抱くと
畏れを胸に刻んでいる
静かな時ほど大きな渦を巻く
その目や手は野生の賜物
願わくば、と私たちは嗅覚を磨ぐ

966)煙に巻く事に慣れて
わたしは退屈している
皮膚感覚が過ぎると
魚影は遠ざかった
結晶化した遺品を整理して
今度はより遠くへ往くだろう
静かな底から
はしゃぐような汀で
小魚を拾い集めて
育てるような日々を
軈て野菜の膨らみを観察して
輪切りにする時間を
選択肢に含んでいるのだ

967)ほんのり色を染めて
想起するのは薄紅の
やんわりとした口調で
挿句するのは新橋色
前髪や襟足を整えて
私の形式は完成してゆく
爬虫類の冷ややかさで
秋の気配を待っている
膝下に光が差すと
あなたは朗らかに歌い出す
毒を持ってはいない顔で
そっととどめを刺す

968)首の皮一枚残して
繋がっているような朝
薄い刃先が群がった
洗面器の光の中で
あなたは鋭利な角を持つ
わたしは鈍器を振り上げて
後頭部に叩き込んでいた
辞典の重さは星を散らすだろうか
虫取り網で火花を採ると
篭には夏を閉じ込めて
夜の演奏を待ち侘びている

969)朝顔の成長日記には
天気と観察の視点が書かれる
蕾が開いて種がこぼれるまで
蔓は意思の疎通を開示する
冷蔵庫で冷えた西瓜の種は
何も語らなかったのか
架空の国家を築いているのは
あの日の少年ではないのか
鉛筆が転がっている部屋では
誰も結末を教えない

970)極彩色の夜を捉えて
羽は空を忘れている
真空でことばを葬った
パックの中で延命するような
私たちに似合う形にして
無彩色を追放して
パステルカラーの救済を得た
私たちは永遠を夢見る
それだけの自由を泳がせて
不自由に囚われている
根差したものを祓うように
: 点火せよ

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