宿題テーマ「肉体の悪魔」

【肉体の悪魔1】
        黒崎水華

眩暈は悪夢による耽溺
死へとくちづける夜更け
肉体は左右に開かれて綻びる
薔薇色に紅潮した悪魔
「愛さなければ原罪を犯していないの?」
「否、存在が既に罪の始まりだ」
顔のない皮膚が擦れて幻覚を呼ぶと
境界が触れられる度に熱を持つ
息を殺した理性が獣性に食われ
美しい悪意が緑色に燃える

【肉体の悪魔2】
            黒崎 水華

(愛に擬態したものの正体は何?)
薔薇色の死体を開いて
誘惑はうつくしい悪意だった
身の裡に棲んでいる獣性
暴力的な行為を孕んでは悦に入る
(本に擬態したものの正体は何?)
眩暈は悪夢による耽溺を齎す
魘される原罪、はじまりの理性
境界線は触れると熱を持つ
夜明け前には冷凍された躰が目覚める

【肉体の悪魔3】
           黒崎 水華

冷たくなった皮膚を書物のように開いて
密室で冒涜に身を委ねている
お前の名が記号と化す前に
内包物を掻き出して薬草を詰めて縫った
うつくしいだけの悪夢を繰り返している
夜は魔物の顔で吐き出されたまぼろし
重ねた境界線が剥がれると顔さえ忘れてしまう
「生きて死ぬだけなら、起きて寝てを繰り返すのと大差ないでしょう?」
何度も死へくちづけて悪意に目覚める
傍らに転がる薔薇色の死体を今日も抱く

【肉体の悪魔4】
           黒崎 水華

渇望は干乾びる太陽の抜け殻
錆びついた喉に刺さった儘の月
切り開かれる薔薇色の死体
冒涜はうつくしい悪意に満ちる
悪夢に耽溺されている枕辺
瑞々しい襞が夥しく蠢く夜半
理性を噛み殺す獣性が目覚める
左右に押し退けて這い出す湿った鱗
生きるには重く死ぬには軽い
愛と謂う供物を捧げて滅べ

【肉体の悪魔5】
           黒崎 水華

悪夢に耽溺されている
夜の頭を抱きとめて
白い首筋には紫の血管
(不誠実な愛、と名付けるのは誰?)
歪に絡まった鱗同士のくちづけ
釣り針の先で虚無が実っている
切り開かれた薔薇色の死体が変色する
腐敗の始まりは輪郭を溶かす
世界の終わりには「時間よ止まれ」
密室で今宵も明るい闇が凍えて燃える

【肉体の悪魔6】
           黒崎 水華

輪郭は熱を帯び蒸発してゆく
世界との境界線を失うことを死と呼ぶなら
夥しい悪意は美しく燃えるだろう
生への執着で触れ合う行為に殺される言葉
唇が慄くように触れると着想は流れた
摩擦による痙攣は原罪を揺り起こす
薔薇色の死体を切り開いて鱗は這い出る
嫉妬は悪夢に耽溺され冷凍庫へ
「ごらん、まどろんでいるお前の顔を」
下腹部に宿したのは、

【肉体の悪魔7】
           黒崎 水華

薔薇色の死体を左右に切り開いて
断面から滲み出る生への執着
うつくしい悪意が燃え滾る夜明け前
輪郭は鱗同士を摩擦して痙攣する
触れている境界線が世界と溶けてゆく
それは「死」と謂う名前なのだから、
頭のない彼は腐敗してゆくだけだった
彼女は頭を愛おしそうに抱いて眠る
悪夢に耽溺され毒草を愛でる指先
これは「詩」と謂う墓場に埋葬せよ。

【肉体の悪魔8】
           黒崎 水華

爛れた薔薇色の死体を切り開いて
菫の砂糖漬けに冒涜と謂う詩篇を隠す
輪郭が鱗に摩擦され痙攣する
境界線が世界に溶けてしまう前に
純粋な好奇心は狂気を走らせる
「死と謂う概念をパーツ毎に凍結せよ」
頭を抱いて眠る女は悪夢に耽溺され
庭の毒草を愛でる薬指で呪う
花芯の奥で溺れる蜜蜂の生への執着
うつくしい悪意が緑色の瞳の奥で燃える

【肉体の悪魔9】
           黒崎 水華

薔薇色の死体を開くと獣性が目覚める
出来るだけ甘い言葉で罵りたい
静かな診察は輪郭に触れ境界を際立たせる
神経を張り巡らせると皮膚が淫靡に薫る
始まらない終わりと終わらない始まり
鱗が擦れて痙攣すると庭先の毒草が笑う
復讐を宿す緑の目が燃え滾る
奥歯に潜んだ虫歯が囁く
「毒にも薬にもならないものは不要だ」
優美な悪意を孕んで密室で待つ

肉体の悪魔、この言葉の強さに悪戦苦闘したのが見て取れると思います(白目)

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