Twitterに書いた言葉たち(921~930)
921)石鹸で手を洗うと
落ちているのは何か
私の何か大事なものだったのでは
、と蛇口が嘯いている。
換気扇さえ吸い込んでいるようで
何も吸っていないのでは
、とプロペラが歌っている。
深煎り珈琲の薫りに
深呼吸を潜ませて
深邃感で巡っている
、ともう一人の私が曰う。
式日の席に座って瞑想せよ
922)情熱のない花びらから
色褪せた癒着が始まるのだ
今は昔、と語るには
足早に過ぎ去ってしまった
その地点には戻れず
目印も消えていた
浸食は透明に悴んで
指先から食い込んでゆく
丹精込めて作られて
丁寧に壊されてゆくような
歯痒さを抱いている
うつくしい世界の憂いが
熟れて甘く重く落ちる
923)冷凍庫から唸り声
それから注意が促される
走り去る逃亡者
軽快な足音と弾む影
流れ続ける動画からは
一人の世界が優先される
冷房の嘶きが駆け寄り
黒い鬣は揺れている
三人の女は水瓶を傾ける
冷蔵庫から歌声
踊り出す脳髄の狂気から
這う音は近寄る
ずるり、と脱ぐように
924)電池の消耗だけが気掛かりで
仕掛けた罠は吐き出される
(まだくろいまなざしで、)
(いきていきて、いきをして)
剥ぎ取られた身ぐるみを
着ぐるみで隠しているようで
渇いた喉から悲鳴の代わりに
極彩色の花嵐が荒ぶ
(まだあまいまなざしで、)
(いきたえるより、いきたたえて)
解れた意図を結び直して。
925)摩耗する神経の末端から
目は波に押しやられる
「こんな簡単に走ってしまう責務は軽率だ」
蝸室の奥で手信号を送って
彼は臆病風に吹かれている
「こんな安易に読めてしまうと思うのは勝手だ」
硯の上で墨は立つ
筆を媒介にして
、のハネさえ厳かで満ちる。
926)眠りの中で正しく睡る
気配の四角い密室で
刺繍を完成させる頃には
可視化された娘が欠伸する
その鼓動の速さに
瞬きは追いつかない
慎重になる運び方さえ
詩篇の中では乱暴だ
三分半の三半規管を以て
不可視な浄夜に紙を沈めた
正しい睡眠を咲かせ
白い骨は花開いた
なめらかな気配を完遂せよ
927)誰のものでもない詩が
どこにでも落ちている
それに名を書いて回ることはできない
わたしたちの利き手は疲弊を憶える
眼差しは太陽のようで
焦げついた言葉が枯れてゆく
繰り返す季節にも似て
生と死が交互にやってくる
誰のものでもない言葉が
どこにでも落ちている
それは死と隣り合わせの生命線です
928)みどり色の鳥が鳴いた
世界の鐘が鳴った
私たちは迷子だった
(どこにいるのかわからず
どこにいくのかもわからず)
みどり色の鐘が鳴った
世界の鳥が鳴いた
私たちを導くように
(どこにいくのかしらず
どこにいるのかしらず)
みどり色の世界が鳴いた
鳥の鐘が鳴った
私たちはもう(どこにもいない)
929)靭帯に書いた思考回路を
紐解いてゆくような日常を
街外れで切り取られた四角い窓
を枠組みを立てて嵌め込む紫
の柔らかな球根の目覚め
片隅に片付けたがらくたから
副産物が誕生すると
薄墨の桜から春が霞む
ので回答は濁って
ゆくとマメ科の甘言が呟く
(うたうたうはるのはれたたううみ)
930)鼈甲色の夕暮れに
紙切れは風に揺れる
ブランコの浮かれた気分を
寂しそうな口笛で包んで
さよならの代わりを探している
萎んだ風船を散歩に連れ出し
人形は空気を孕んでいる
淋しい森で星を抱いて
シーツとブランケットを羊に変える
匂わす首に長い紐
(こわくない、こわくない)
呪文のように続く道
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