Twitterに書いた言葉たち(901~910)

901)赤い夜に蝙蝠傘の男が
音もなく歩いてくる
小さな反響は波紋となって
遠くの国の歌を流す
無音の怨嗟が続く壊れたラジオ
揺れている/振れている
青い朝に水母の女が
音を立ててやってくる
波音は空白を広げて
足元を浚ってゆくばかり
無言の怨言が流れる冷たい箱
触れている/熟れている
軈て錆びる泡沫

902)わたしの手の中で
無痛のかなしみがありました
音は奪われてゆくので
静かに線を引いてゆきます

あなたの手の中で
無臭の怒りがあります
顔は喪失するので
煩く点を打ちつけます

斑紋は縺れて千切れてゆくと
残された首筋の紫の雲から
凍えるようなおぞましい夜更け
種語を植えて待つ夜明け

903)非難した言葉が育つと
あなたの肉の中で
蠢いて産声を上げる蟲の
ちいさな黒い犇めき

点描の目が白いのは
逃げ場を確保したからだ」

馴染んできた皮膚の上で
赤い実が裂けてゆく
あなたの骨の中で
春の歌を爪先で描いた

憎悪の感情を巻き上げて
あなたは右往左往する
喉から手が出るような吐き気

904)あの星は骨です
ダイアモンド、の
つぶつぶのマスタード
から、長閑な時間を
伸ばすように捻出すると
許されたのは1ミリ単位の
猶予の予感に過ぎない
あの骨は星です
オパール、の
つぶらなカスタード
の、緩慢な距離を
満たすように提出すると
委ねられたのは誤差を含んだ
期限の限界に過ぎない

905)片道切符で辿った頸動脈
物騒な言葉を道連れに
形而上で死んでくれないか?
夥しい数の腐敗を背負いながら
女は亡霊になるだけだ
俺の手首に吸い付いた蛭が
血に陶酔している
深い所まで狩りは進んで
断絶した回路に火を放つと
ガソリンの臭いで充満している
頭の中で渦巻いた慾望が滴ってくる
: 骨壷

906)一辺倒な倒錯で
お前の怨霊を産み出すと
海は黯く静まり返る
誰の顔をして立っている?
夢の淵でも死と隣り合わせだ
用意周到な錯乱を
振り翳した花びらの乱舞
地上は血の海に噎せ返った
何の姿で佇んでいた?
両耳を塞ぐと飛び込むのは
狂気の初手に過ぎない
ゆっくりと無知の儘/勘違いして沈め

907)背広には恐怖が滲んでいる
誰も乗っていない車両で
気配だけが積まれて満ちていた
不可視の死体が重なり合って
魚の目をして空洞を広げる
ポケットの中の名刺が
剃刀のように鋭くなると
指先を傷つける為だけの光が
乾燥の空気に歓喜している

908)言葉を失うように
少しずつ慣れさせる
心と身体の境界線から
声を荒げずに
一つずつ消してゆく
ゆるやかな復讐を
鮮やかな手口で
書き終えてゆく度に
すり減った季節の慣性
その惰性の肉体を溶かして
時間に泳ぐ魚の泡
まるでゆめのような
、と蛇足を生やしてゆくと
暮れてゆく部屋で首が落ちる。

909)イロトリドリの風船が萎んでゆく
希望にも空気が入っている
わたしは針を持っている
夜更けに睨んでいる
野良犬の遠吠えはしない
夜のカーテンはまだ明るい
回収されてゆく青い空気
潰されてゆく黄色の空気
白い密室で赤い風船を手にする
針先が触れた瞬間
季節が吹き飛ぶ
種子が弾ける
脳が綻ぶ
裂傷

910)留め金には鳥が棲む
トルソーには腸が巻かれ
啄んでいるのは骨だったのか
彩度を落とした夢では
時間が羽撃くだけの目配せ
暗示は散りばめられて
壁面には詩篇ばかり並ぶ
頭がたくさんあるので
見失うことはありません
擡げたのは重力を携え
蛇を模倣している
緑のタオルケットに包まると
冬眠を憶えた

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