Twitterに書いた言葉たち(981~990)

981)折り重なった肉体は朝を迎えるまで
季語を置き去りにしている
蔑んだ舌先は抜き取られ
白く濁った眼球は卵みたいで
硬直する前の言葉が磔刑になって
皮膚の上で凍えている
まな板の上で黙ったまま
美しさを冒涜していた
臭気は部屋中を汚染している
窓一枚隔てた向こう側で
夥しい死が充満していた

982)蝉時雨が痛いほど降り続け
耳の奥に棲んでいる蝸牛が
のっそりと這い出る夜更け
日記帳には伝言が残される
「旬の果実が食べたいのだ」
西瓜を冷やしておくと夜半
皿の上ではしゃくしゃくと
満足気な咀嚼音がしていた

983)兎の後ろ足を御守りに
砂漠を駆け抜けた
蠍の火は赤紫に燃えて
遠くからでも眩い
星の歌を聴きながら
風を引き連れ先を急いだ
背の高い守り神が追いつくと
青白い炎は熱もなく爆ぜていた
いつしか星の歌を身に纏って
千の夜をこえてゆく

984)子羊に名をつけて
意味や理由を与えたら
寝床にも記号や季節が必要になった
与え合うことも奪い合うことも
去り際は大差ないのだから
顔を置いて来た方が気楽だった
肉を貪りながら
かわいい/かわいそう
紙一重の行間を睨んだ
子守唄を歌って
やさしいにルビを振る
あめ/なみだ
海のにおいがする破滅

985)眠りを妨害する光と音
詩精も同様に逃げ惑う
怯えて寄り付かなくなると
わたしたちは黒ずんでゆく
魂が腐り落ちるように
果物で洗濯しても足りなくなる
森の苔に坐して人をやめると
わたしはわたしたちの主語を孕む
その境界を超越して
そこここにわたしたちは在る

986)名台詞を吐き捨てて
蝋燭を吹き消した

「あれが生命だとしたら
なんと簡単に消えてゆくのか」

置き去りにされた無音に
安穏があるかのようで
わたしはわたしを脱ぎ去った

かなしみに名を与えてゆくと
そればかりが引き立つのです
別れの代わりに波が砂をさらう

987)沸騰した湯の中で
茹で上がった野菜の鮮やかな
犯行声明を聞いた

脳髄が荒らされた雨風の果て
東の空はやけに明るかった

彼女たちの髪が揺れているのは
高いヒールで世界を鳴らすからだ

発送した発想が現れると
彼らの受信箱は賑わう

988)紫煙の幻を視ている
過去の亡霊の顔で
揺蕩って微睡んでいる
口走る嘴で啄んで
最愛の愛妻家を待ち望む
夜は照らされた場所を踏んで
安全にお帰りください
吊るされた夜更けに
亡霊の姿を投影していた
朝には羽化して寄り添った
真っ白な月の亡骸です

989)蛹の半液状の微睡みは
春眠の如く続いていた
夜が耽けると俄に明るく
とどめを刺すように揺れる
色付いた花の影に棲む
悪意の夢の艶やかな化身
空蝉は時間に流されて
僅かに浮かんでまた沈む
その繰り返し
終いには夜の泥濘で
永劫のゆめを見る

990)右手は左手の
左手は右手の
ねこの夢を見ている
手招くと鳴き声が
微かに届いているだけの
数分のトランジスタ
口笛は白日夢の街角で
つむじ風になって流れる
舟は魚を追いかけて
さよならの朝に目覚める
左手は右手の
右手は左手の
それぞれの夢を見ていた

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