Twitterに書いた言葉たち(841~850)

841)足は秒針を真似ている
六月の風が駆け抜けた先
矢継ぎ早に積み重なった時間が
化石の形骸に渦巻くと
真夜中のアンモナイトに点灯する
月明かりのセレナーデが始まる
薔薇の薫る窓辺で朝が来れば
花びらと化して散ってゆく
顔のない亡霊たちの言葉
静かな夜更けの祈りが注ぎ込まれ
耳朶に触れる黎明の指

842)三階の踊り場で海月が歌う
半透明への誘いはミントの馨
やわらかな肉体から脱却すると
骨は脆く崩れ落ちて灰になる
比較は押し問答の砂時計
「美しさと共に滅亡したい」
少女の光がこぼれ落ちると
傾いた黄昏は水溶性になった
下半身から蕩けてゆくと
意識は飽和して濁ってゆく
「次の魔女は貴女、」と

843)脹ら脛の緊張は痙攣を呼ぶ
渇いた花が茎の中から
音もなく死んでしまう夜
朝の境界線に触れて安堵する
サフランの色で浸した部屋
心地良い声だけで満たして
呼応するのは類似の機感
羽化登仙すれば飛んでゆくだけ
霞を食べて生き永らえて
苔蒸す山の気を纏う
萎れた葉を摘んで煎じると
丹田に星が宿る

844)ひこうき雲とサイレン
気配のない夏休みに
蝉の鳴き声が一斉に止んだ
重圧的な沈黙は田圃の中から
泥水と一緒に顕現する
姿のない何かに遮られた
気配だけが押し寄せて
過ぎ去ると音が戻ってきた
唐突に瞼が消えて空が降ってくる
項に複合する粘着質な肉塊
ひこうき雲とサイレン
忘却と虫の燃える視座

845)百合の白が庭先で佇む
その姿勢を真似て
視線が絡まり縺れると
銀色の鋏を持ち出して、ちょん切る
「蚊の声は羽音でしたか?」
囁くほどの小さな独白
花壇の土を掘り返している
埋没したカミを覗いて
また穴を掘って埋めて
慎重かつ丁寧に土をかける
(二つ三つと増えてゆけば
ここは豊かになるでしょう

846)鋭い線を見詰めて
切り落とした黒髪が
微かな音を立てて
束で落ちてゆく
人形のような人間に仕上がると
満足そうに笑んでいる
赤い服は金魚のようでもあり
蜜の甘い花のようでもあり
血を啜る蝶のようでもあった
口許が緩むと白鳥が何度も頷く
その首を絞めて鏡の中で
悠然と茶を淹れる目のない女

847)湯気の向こう側から声がする
複数の気配がざわめく
歓迎は期待に満ちた熱気で
天気は薄紫の空模様
黄金の雨と雲の土に触れて
傘は鱗を翻す昼下がり
聞き慣れない言語の賑わい
歌のない祭囃子から
露店の奇妙な陳列が飛び込む
人ならざるものが溢れ
鈴の音が高く透き通ると
百鬼夜行の列に加入している

848)肩から上に小さな白い植物が生え
花がいくつも咲いてゆく
恐るべき繁殖力は痛覚を冒涜した
肉体を養分にして気体化すると
帰結した種子だけ残される
月の無い夜半、お茶の香りが漂うと
また誰かが背後に立って
ぼそぼそと喋っている
繁殖期の会話がこぼれると
幻視は愛らしい花の形で蝕んでくる

849)煮干しが鍋の中で泳ぎ出すと
空気は現実を想像で塗り替える
「手筈は整った筈だ」
私の声で誰かが呟くと開門
蛇口の先で水が咲いてゆく
泡の中で火が踊っている
いくつかの選択が色付くと
決定ボタンは正常に受理される
鍋の底で野菜が語り出す
審議は醸され煮立ってゆく
夕方には鴉が判決を下すだろう

850)五月の腸はやわらかく
鼻に抜ける爽やかな緑色で
艶やかな夜の気配と
皿の上で重なり合っていた

軽やかな文字列に潜んだ悪意
密やかに優美な死骸の気配
縺れた舌先が蕩けると顔を取り戻す

六月の皮膚は小麦色で
香ばしさと愉快な歯触りが
昼を溶かして口の中で踊り出す
珈琲は氷とハミングしている

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