Twitterに書いた言葉たち(991~1000)

991)稲穂が揺れる海原の波音から
運ばれてくる一行の詩篇
手渡された夜の清けさ

捲られる本の頁から
飛び立ってゆく言葉たち
柔和な空気を含んで
秋の気配に触れている

夏の終わりには先祖が帰る
足音が遠のくと
秋の虫が鳴き始め
しんみりと夕焼けが滲む

992)暗渠に滴る哀しみが
疼く冬の始まり
花壇には夏の亡骸
空の彼方には春の息吹
秋だけ空席にハンカチを置いた
遠雷が紫に走ると
羽音が窓にぶつかって
微かに泣き声が届く
土の下に潜り込んだ花の根が
養分を吸い上げる夜
無垢な塊に雨が降り注ぐ
啜り泣く声が海岸で砕ける

993)内側に閉じているのは
怒りの波動にも似た悲しみ
叫び声が耳を塞いで
気が滅入る瞬間に倒れた
疒に詰めてしまえば
病んでゆくのは当然だろう
淘汰された側が食い合っている
そっと席を立って振り返ると
まだ彼奴等は貪り合っていた

994)常夜灯の優しさは
闇を照らして見守っている
傾いた頭を支えていると
別れは近付くばかりだと気付く
玄関で音が響くと
彼らの靴底は小さく泣いた
まつろわぬものたち
密やかに結んだ言葉を噛んで
舌は静かに納まっている

995)青い蕾が白く綻ぶと
蜜蜂は秘密を齎し
凭れた茎の重さを花瓶は知る
掠れた線が重なって
焼け切れてゆく思考から
絡まる泥の中の根が浮かぶ
脳裏には魚影が過ぎ去り
二つの面影は仄めく闇に消える

996)赤い椿が朝方落ちると
一匹の金魚に生まれ変わる
空を泳いで雲に隠れると
金の光は朝露にこぼれ落ちた
線路に儚い紙切れ一枚
届かなかった葉書です
軋んだ鱗が逆さに一枚
喉元で煌びやかに反射した
白い椿が夜更けに落ちると
一匹の白猫に生まれ変わる
垣根を越えて遠い街へ
音もなく去ってゆく

997)頭の後ろから低気圧は乗り込む
操縦席を乗っ取られて
私は項垂れている
椅子の上を占領する娘が
足元にやってくると
日常は非日常に点火する
「これは虚構なので信頼しないでください」
口に含んだ茉莉花茶から
甘やかな鈴音がする

998)蒲公英の綿毛が帽子につくと
春は猫の呼び声で
紙飛行機を飛ばしていた
港町では魚のにおい
道端には猫じゃらし
空にはいわし雲
やってくるのは銀の群れ
舌なめずりして身繕い
昼は緩慢な時間が流れます
ラジオが別れを告げる声
冬が別れを告げる声
瞬きの間にさようなら

999)気泡が弾けると耳元で
悪意の声が聞こえる
被害妄想に過ぎないけれど
夕闇の奥で独白すると
ひりひりと痛むのは何故か
無意識に通り過ぎる影が
根付いてしまっているだろう
夢に手をかけて
暗殺してしまうには
過去が重くなり過ぎた
砂を噛むように目覚めると
舟はもうどこにもなかった

1000)厳かな甘言に包まって
爪の先には火がついたのか
業の深さを呪うより
受け入れる方が容易いだろう
少しずつ蝕むように
あなたはわたしになってゆくだろう
預言は与えられた
演算に過ぎなかった?
「夢をみていようよ」
手を出すと握り返す手
それもまた夢
空白が口を開くと
飲み込まれていったのは私だ

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