Twitterに書いた言葉たち(881~890)

881)黒い液体を飲んでいる
黒い液体を飲んでいると
口の中で黒い渦が巻く
口の中で黒い渦が巻くと
舌が魚になる
舌が魚になると
仕方ないから
仕方ないからと
喉が開いてくる
喉が開いてくると
黒い液体が溢れてくる
黒い液体が溢れてくると
漆黒の水面に真白な花が咲く
此方に向くとそれは「あなたの顔だ

882)喉仏のところから鱗が生える
苛立つ波を乗り越えた明け方
わたしは、無防備すぎたのだ
呼吸ひとつ置き去りにして、
どぼん、と浴槽に飛び込んだ
皮膚が歌い出す水の声を聴く
(あなたはこんなところで
生きて歌っていたんだね)
腕が何本も伸びてきて絡まる
あなたと一つになる
完全体のわたしは排水口へ

883)攀じ登る小さな怪物が
僅かに爪を立てる
その度にちいさな悲鳴が
歓声に殺されてゆく
「あなたは可愛い正義で明るく輝いて悪びれず存在を赦されている」
乾燥する空気と拮抗する湿度
表面が遠いなら此処は裏面
(*床は水浸しで滑りやすいので注意してください)
魚が跳ねる音 水のおと
於莵は飛び跳ねる

884)火をまるめて飲み込むと
世界はしずかに狂ってゆくようで、

古い文庫を読み耽る内に
隣家の軒先から手がみえる
イメージだけが先走った

庭先から覗いてみれば
蛸の足が蠢いているのだった

ゆら ゆら と暑い空気を
混ぜる様な動きが続いている
ふらりと出てきた隣人が
捕まって吸盤に埋もれていった

885)ぬいぐるみが二つ仲良く並んでいる
それは勝手に先入観で思い込んだ
結果としての認識だったので
深夜に殴り合っているのを
密かに眺めている物騒さが
扉一枚隔てて展開されていても
ちっともおかしくないのだ
あなたの耳の穴から
いつもヤドカリが覗いていても
私は見て見ぬふりをしている

886)指先がソファから垂れると
釣り糸が張るような感触
そっと引っ張ると見えない向こうも
引っ張り返してくるのだ
寝室に視線を向けたら
布団が立ち上がってこちらを
じっとみていた
床が水面のように波打つと
布団はそこへ飛び込んだ
ちょきん
音がすると
指先は解放され
気付くと布団は床に落ちていた

887)毛穴が開いて黒雲が立ち上る
頭上からスコール
そして雷鳴からの閃光
ここまでに至る道程が頭の中を
馬の形で駆け巡ると
あたしだった肉体が暴力的に
打ちのめされて海へ沈む
さよならばかり上手くなるので
深呼吸して濡れた子猫を
そっと薄目で眺める
距離を取ってまた深呼吸
波音を聞いて子猫を拭く

888)灰を堆く積むと
骨は一層匂い立つ
「何故、この場に色彩が投げ入れられたのか」
それは別れの一幕
それは祈りの端末
それは怒りの一節
それは成長の巻末
洗濯バサミの反乱
掻き乱すノイズ
それを許容する余裕
(遠くからお届けしています)
放送局のラジオが脳内で再生
あなたは賢い!
/Standing ovation

889)隙間にねじ込んでくると
かさぶたを掘り返そうとする
(はじめて、なので)
自己紹介みたいな登場が
脈絡もなく気になり始める
諦観していると部屋は
通り過ぎた嵐を体現している
低気圧と湿度が挨拶
梅シロップを冷蔵庫から出す
もう少し現実逃避してから
向き合わなくてはならない
小さな、強い花嵐と

890)卓上の二つの太陽が枯れ落ちようとしている
三食をゆっくり召し上がるのは
まだもう少し先の事ですから
余り物を流し込んで振り回されている
この時間があっという間に消え去る時
卓上に燃えるような光を置いて
言葉に潜水していたいのだ
それから茶葉や珈琲豆と語らって
優雅な昼下がりを迎えたい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?