Twitterに書いた言葉たち(821~830)

821)風鈴が吊るされる空
その一つ一つに名が記され
音が幾重にも反響する
透き通った街の海岸では
鯨の形骸が博物館だった
「昔、あれは雲でした」
燃える茜色の海が群青に食われる
巨大な体躯に触れた腕が
明日の朝には蕾むと
花開くことが約束される
猫撫で声では読経されない
凛と立つ酸素が結晶化する

822)半分睡魔に浸ってくる脳天に
真昼の熱が篭って渦巻く
気配だけ主張してくると
斑に天気雨が語りかけてくる
上半身を捻って加速する
配慮は隣家の庭に突き刺さり
自虐的な習性を確認した矢先に
夥しい存在感が張り付いた
湿地帯で育ってやや冷たい皮膚
温室の泥濘で繁殖すると
脱皮し始める言葉の離脱

823)半ば強引に間引いた百葉箱の中で
言葉は腐葉土の布団になる
沈んでゆく肉体を隠して
中央には楕円形の住処
騒音が通り過ぎると整えられ
身動ぎに停止する通信が弛んだ
渇いた耳朶に蛹の鼓動
御眼鏡に適うまで壁打ちする
押し寄せる声の波打ち際
貝殻を拾うと閉じ込められた音が耳の奥で喚いていた

824)抜け殻状態の亡骸に
ひっそり仮住まいする
(これはあなたではないなら
わたしがそれになっても厭わない?)
肩慣らしに放り投げた先
抛物線に顰めた苦虫の幼虫
「まるで人間の真似ですね」
通り過ぎるだけの軽蔑を袋詰めする
密封したので置き去りにして
受け取らなければ軈てそれは返ってゆく

825)悲嘆に色を塗るとき
僅かにピンクを紛れさせた
白は濁り易いので
苦悩にも見えたでしょうね
はにかんだ言い訳を押し殺して
箪笥は爪痕を残す
片腹痛い、の低迷を貫いて
穿った見方を傾斜に揃え
誤謬は疑問符の排除を全うする
滝の真下から登り詰めれば
積載量は増幅するだろう
、と目論んで脱却する。

826)薬草を詰んで約束を吊るす
窓枠に鍵を隠して花言葉を彫る
夜明けの秘密を所持しております
端数を切り捨てて黙祷した
熱意は怒涛の流れを孕んで駆け抜け
彼らの呼応を砂塵にしてゆく
駒鳥の細切れの夢を紡いで
糸車が回り続ける音だけ溢れる
停止線で香料が薫った
あなたの横顔が月光に触れる

827)右足が戯れる子猫の踊り
繁忙期には姿を隠して
海の深いところで待っている
蛇腹に恋心を綴ったので
仰向けに親密な夜は読み上げる
左腕に絡まった呂律が酒気帯びして
不透明な部位を粉々に砕いた
漠然と赦されていることが
恐怖に引き攣って転がる
首筋から啜られる意図は感嘆符
解きほぐすとばら撒く

828)爪が皮膚を傷めると
悲愴が照らされて零れてゆく
鎖骨から幽かに発光する
花びらの囁きにも似て
電車の響きを下腹部に齎す
(黙っていればいいのにね)
悪意が膨らんで萎むまで
風船の中で遊んでいる
瞼に触れた唇が読み取るのは
解像度の低い日常だった
洗濯物の幽霊が揺れている
骨を削った森が呼ぶ

829)ハシビロコウの求愛を眺めて
占いを決定する符号を探す
天文的な確率で寄り添い合うと
溶暗してゆくのだろう
ポップコーンは愉快に会話する
映像は記憶と照らし合わせて
脱衣所で別れを告げる
ペディキュアが夏色に手を伸ばすと
翌日の顔は冒険心を満たす
鍵穴には過去を流して
未来は星の彼方から届く

830)水玉模様が選定基準の議会で
季語は夏模様
取っかえ引っ変えして
息付く間もなく変化
あからさまに明る過ぎると
向日葵は太陽の模倣をコピペした
ダイヤモンドの大地を啄んで
白鷺は地平線へ飛んでゆく
銃を構えた狩人の秒読み
節々に微睡む綺羅星
夜汽車の中で種を蒔けば
百年後の孤独は癒える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?