Twitterに書いた言葉たち(811~820)

811)壁に凭れた花の影が
魔女の心臓を暗示すると
1000年前の約束を
律儀に守っている薬指が
砂糖菓子になってゆく真冬に
紅茶の底で時間が燻るので
耳鳴りの奥から継承されたのは
まじないを働く血の断章
「当たり前のことを何度も呟くのは何故?」
したり顔で行列に隠れて
羊歯植物の舌を探している

812)素直さで掘り進んで
彼は冒頭から遠ざかってゆく
着眼点が磁石のようで
泡だらけの着地点に埋没する
機械的な誤作動を演算した後で
装置は回路を集結させた
低く唸る冷凍庫の余談
正解は模範解答を刺して
傘の柄で蛙は跳ねる
裾を覗くと翻る夜色の金魚
スターチスの祈りが星になる
彼は落下地点で待つ

813)微かな反復に顔を向けると
数秒毎に切り裂かれるような
断絶を送っていたのか
野菜室で産卵が終わると
囲炉裏に帰ってゆくみたいだ
西の雲から燃やされてゆく
冷えた爪先の花束から絡まって
倒置法を密やかに配置した
先端恐怖症の視線が刺さる前に
黒板はまっさらに消しておく
スポンジで啜る泥水の粒

814)頭上で頭のない天使が円転する
(否、滑空でもいいのか)独り言ちる
複数の目を所持して
何もみていないのだ
機能だけ発達している
(否、伝達機能か)独白は落下する
花の顔だけ水に沈めて
無邪気さを残酷に煮詰めて
見詰めた先の声色の甘さ
濁った眼を天井に向けると
羽音と共に壊れたように降ってくる

815)視界の隅で黒く浮き上がる
幻影は誘導する
未然に防ぐ存亡から
掠れた悲鳴が掬われる
木目調に挿入された文字列
読み取ると辺りは昏く澱んだ
鳥の嘴で骨を拾うような
薄暗い寂れた街の残響
劣化した脳裏で積み上がる皿
割れた白磁の隙間から
金の液体が流れると
僅かに雨音が耳の奥で喜ぶ
鼈甲の夕日へ

816)帰路は千鳥足で踏むと
ぶにぶに音を立てて
小さな生き物が鳴いて
浅ましい夜更けの熱が冷えてゆくばかり
嗅覚を薫りで満たしていれば
幸福度は上がってゆくのか
食器棚の扉が軋んだ
水滴に絵の具が混入すると
艶やかな失態は芸術とされた
怖々と伸ばした髪を掻き分けて
簪を飾ってください
朝には花嵐

817)研磨する歯ぎしりに含んだ眩暈
祝日の謁見が多幸感を与えた
躱した毛皮から脚が殖える
医術的見解は通用しない
床の上で組み敷いて
鱗ばかり落ちていました
別れは乳歯の微笑ましさで
忘却を扇状に広げている
野良の季節は尖りがちなので
ヤスリを用意しております
箱(の中には)
擬人化した人外の首

818)砂時計が砂を吐き出して
部屋中が砂で溢れると
常識は覆り水分は蒸発する
皮膚がカラカラになって
扉は錆びてしまって中からは
開けることが出来ない
砂の底で呼吸出来ているのは
適応してしまったからなのか
ピリピリと背中が破ける音を最期に
重かった肉体を棄てる
風の手を取って遠くへ行きます

819)脇腹にナイフの鋭さで
重く残り続けている
言葉は熟して酩酊を唆す
煉獄で炙って回転させると
舌鼓を打った美食家
傍らに犬が寝そべる
脳天を左右に開くと種は笑う
「最も美味しいのは美食家の舌ではないのか」
レシピの最後は詩篇が残された
「皆、同じ事を異なる言葉で記すだけ」
壁面には殴り書き

820)熱を孕む半身を起こして
亡霊の成り行きを眺めている
蝉の舟に魂を同乗させて
頼りない指先は駆け抜ける
一陣の風は手首を嫌った
胸骨が懐古する時代の埋み火
簾から嗅覚は夏を憶える
耳許でさらさらと綴られた
遺言書の潔さの背表紙が
今でも燻って離れず変様する
「時よ止まれ、」
色彩の渦に溺れる

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