ペットの老後と終活を考える(5)
私は、”安楽死”を選択できるタイプだと思っていた。
アメリカでは、ペットの安楽死に対し、日本より肯定的だ。それは、自分のペットへの愛が日本人より深くないからというわけではなく、日本人とアメリカ人との生死感の違いとでも言おうか。
日本人は、肉親に対し、”胃瘻(いろう)”をしてでも、生かし続けようとする傾向があったり、また、自分も誰かの世話になっても長生きしたいタイプが結構な割合でいると思うが(最近は変わってきているのかもしれないが)、アメリカ人は、自分がその状態で生きるのはノーサンキューと思う人が多いと思う。だからだろうか、ペットが自分でご飯を食べられず、動けなくなり、その上、痛みもあれば、生きていても楽しくないから、旅立たせてあげた方が良いと考えるのは。アメリカ人は、Quality Of Life(生活の質)が非常に重要だと考える人が多いと思う。Quantity Of Life(人生の量)よりも。
また、安楽死を施す際の反応も、アメリカ人の飼い主は、「〇〇(ペットの名前)と一緒に過ごせた時間は本当に最高だったよ。一生の宝物だ。本当にありがとう。」って感じで、一緒に過ごした時間に感謝して見送るに比べ、日本人は罪悪感や無力感を感じ、「ごめんね、本当にごめんね。」と謝罪して終わる人が多いと想像する。
そんな二つの感覚を知る私は、アメリカ在住が長いこともあるが、元来、合理的な性格から、”愛犬がある程度の年齢となり、回復の見込みのない怪我や病気で、日々の生活、肉体が苦痛に満ちるなら、その時は勇気を持って、旅立たせよう(安楽死を選択)。”と、ミルキー(最初に飼った犬)が3歳ぐらいの時に決めていた。
だが、結局、10歳を超えたミルキーが肺がんになった時、私は、”治療をしたら、もう少し長く生きてくれるかも。”と期待し、手術と治療を選択し、最後の最後まで安楽死を選択できなかった。※詳細は(2)をご参照下さい。
同じ時期に大型犬を飼っていたアメリカ在住の日本人の友人も、「歩けなくなったら、眠らせるかな。」と言っていたけど、でも、結局、彼女も、歩けなくなった大型犬をカートに乗せて散歩させ、愛犬が排尿が難しくなったからと、彼女が手で絞って、排尿をさせていた。その状態の介護を1年は続けていたと思う。
つまり、どんなに理性的に計画していても、私たちが日本人だからだろうか、その時になると、そう簡単に安楽死の選択が出来ないのだ。
じゃぁ、Proactive(先を見越した行動)って、意味なくない?
って、思うかもしれない。いや、違う。私も友人も、自分のペットの老後をどう過ごさせたいか、どう過ごさせるのがこの子にベストか、そして、大きな病気になった時、どこまで治療するか、金銭面を含めて考えておいたから、まだ、どツボにはまらないで済んだのだ。ある意味、慌てず、その時のベストを考えて行動が出来たのだと思っている。もちろん、それでも、後悔はある。だが、愛するペットがその状態になった時、パニックになってはいない。
どんな理性的な人間でも、その時、感情の波に飲み込まれそうになる。
だからこそ、まだ、愛するペットが元気なうちに、自分がマトモな判断が可能なうちに、ある程度、ざっくりでいい、でも、考えていた方が絶対良い。
そして、信頼の出来る主治医(獣医さん)がいるならば、犬がシニア(10歳ぐらい)になったら、一緒に考えてもらえたら良いんじゃないかと思う。シニアドッグコンサルテーションとかあれば良いかもしれないね。今後、どんな病気の可能性があり、予防法、そして、その時の対処法、治療法、選択などなど。自分が知っている愛犬と、プロが客観的に見る愛犬の状態はまた違うかもしれない。飼い主は、愛犬に「もっと頑張って。」と願うかもしれないが、プロから見たら、「もう限界を超えて、(飼い主の為に)頑張ってますよ。」かもしれない。そんなことも含め、ペットがシニアになったら、いや、なる前に、家族がいるなら、家族と一緒に、獣医さんと自分(達)の愛するペットの老後と終活を話し合うのは必要だと思う。
後悔はどんな選択をしてもあるだろう。だが、”心の準備”は間違いなく役に立つ。
余談だが、私のわんこ達の獣医さんは、最近、自分がわんこを安楽死させる際、飼い主とわんこにチョコレートを一欠片づつ一緒に食べてもらうそうだ。犬にとって、チョコレートは魅惑の食べ物。素敵な匂いがするのに、犬には毒だから決して食べることは出来ない。でも、最後にその魅惑の味を知る。飼い主さんと一緒に食べる最後のトリート。
”ああ、こんな味だったんだ。なんて、甘くて美味しいんだろう。”
うっとりしているうちに、眠くなり、そして、永遠の眠りにつく。
私はまだ、その飼い主の立場になったことはない。
だが、きっと、飼い主にとって、そのチョコレートは間違いなく甘くない。
(終わり)
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