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都民の財産を守るべき責務を果たさない都知事とそれを批判しないマスコミ―最大約34億円をドブに捨てた東京都―

はじめに

 世紀の茶番劇が進行中である。原発輸出するのに自国で原発が動いていない。だから原発再稼働。これも茶番だが原発についてはふれない。私が取り上げるのはオリンピックである。オリンピックの問題点は多々あるが建設問題を取り上げる。
 IOCは開催都市に財政負担と施設建設を求める。財政負担を考えると立候補は大都市に限られる。住民が多く住む大都市に施設建設すれば住民の追い出しや環境破壊がつきまとう。これはオリンピックの構造上の問題であり、今回の二〇二〇年東京オリンピックでも起きている。その典型例が新国立競技場建設問題である。

メインスタジアム建設に神宮外苑が適さない理由

 なぜ典型例なのか。新国立競技場建設は当初から無理なことが分かっていたからだ。「招致委員会関係者及び東京都のメンバーがチームを組んで作成した公式報告書」である『2016年オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書』の36ページを見る。
 「晴海、霞ヶ丘の両地区について、敷地面積、各種法規制、交通アクセス、後利用等の観点から検討したところ、平成19(2007)年4月までに、霞ヶ丘地区でのオリンピックスタジアム整備は困難との結論に達した」と。また「都市計画法等の規制が多い霞ヶ丘では不可能な、10万人規模のスタジアムや補助競技場等の用地を確保可能」とある。神宮外苑にメインスタジアム建設は各種法規制と敷地面積から厳しい。にも関わらず建設をするため、各種法規制を緩和し敷地面積を確保しようと新国立競技場建設推進派は着々と準備を進めてきた。
 推進側がどのようにして準備を進めてきたのかを見る前に新国立競技場建設の際の問題点を確認しておく。『国立霞ヶ丘競技場周辺地図』は渋谷区議会五輪・パラリンピック特別委員会資料として提出されたものである。新国立競技場建設の支障になる法的規制として用途地域(観覧場建設は不可。建ぺい率と容積率)と高度地区(高さ制限20メートル以下)がある(注1)。これを解決する手段として採用されたのが再開発等促進区を定める地区計画を利用する方法である。これによって観覧場建設と用途制限の緩和、高さ制限の緩和が可能になる。2012年12月、日本スポーツ振興センター(以下JSCと略)が東京都に提案し、2013年6月に決定した。

 次は敷地面積の確保である。『国立霞ヶ丘競技場周辺地図』の赤線の部分が日本スポーツ振興センター(以下JSCと略)所有地である。新国立競技場はJSC所有地の赤線内で収まらない。通常なら所有地である赤線に収まるように努力し、駄目なら計画断念し、他の場所に建設を考える。ところがJSCはそう考えず赤点線部分まで新国立競技場の敷地を拡大。新たに新国立競技場敷地となるのは財務省所有地の日本青年館と都有地の都立明治公園である。日本青年館はJSC所有地の国立競技西庭球場が代替地として用意されている。都立明治公園の代替地はどこか。通常であれば日本青年館と同様に代替地はJSCが用意をするのが筋だが、JSCは代替地を用意しない。新国立競技場周辺の人工地盤を立体公園とし足りない部分は都営アパート(注2)の住民を追い出して取り壊し、敷地を都立明治公園とすることで面積上のつじつまを合わせる。


『国立霞ヶ丘競技場周辺地図』


有償で貸すはずの都立明治公園をなぜ無償貸与?


 このようなJSCの計画について東京都がどのように考えていたか。参考として『神宮外苑地区地区計画の決定における企画提案書の提出に係る神宮外苑地区地区内の地権者の同意について(回答)』を見る。この文書は右肩に平成24年12月28日24建総企第524号とあり公文書である。重要部分を引用する。「建設局が所管する公共敷地を新国立競技場等の敷地とする場合には、有償とする」。建設局が所管する公共敷地とは都立明治公園のことである。だから都立明治公園を新国立競技場等の敷地にする場合には有償、という意味なのは明白である。この文書のどこを見ても都が無償と考えてなかったことは明白で、JSCもそのことを理解していたはずだ。

平成24年12月28日付『神宮外苑地区地区計画の決定における企画提案書の提出に係る神宮外苑地区地区内の地権者の同意について(回答)』24建総企第524号という文書番号まである。
建設局が所管する公共敷地とは都立明治公園のこと。

 この都立明治公園は有償との都の姿勢がいつ変わったのか。「新国立競技場用地として都立明治公園を貸し付けするに当たって有償と考えていたものが無償に変化した経過、理由等が分かる文書」という私の情報公開請求に対し、都は2016年2月22日付で非開示決定をした。だから事実関係の詳細は確認できないが、ある程度の推測は可能である。 
 2015年9月17日の都議会オリンピック・パラリンピック推進対策特別委員会で新国立競技場の整備計画の見直しに関し日本共産党の吉田信夫議員が24建総企第524号という文書番号を示し都の方針は有償だったはずだと質問した。これに対し、東京都オリンピック準備局長の中嶋正宏氏は国又は地方公共団体その他公共団体に、公用や公共等で提供する場合は無償、又は時価より安い額で譲渡することができると条例にある。この条例に基づき協議をする方針である旨の答弁をした。 
 この時点で都は当初の都立明治公園を有償という方針を変更し、新国立競技場予定地の都立明治公園を無償ないしは、安価でJSCに貸し付ける方向で動きだしたのであろう。  

 私の推測を強化するものとして不動産鑑定評価がある。賃借にしろ売却にしろ適正な評価をすることが前提であり、不動産鑑定をしているならば何らかの形で賃料をとろうとしていたと判断できるからだ。 
 不動産鑑定の委託契約は一回目は2014年12月2日に一般財団法人日本不動産鑑定との間に1188万円で結ばれた。目的は新国立競技場の整備予定地内に所在する都有地の処分及び立体都市公園の管理運用などを策定する際の参考とするため。その後2015年6月15日に再度、日本不動産鑑定との間に不動産鑑定調査委託契約が結ばれた。目的は都が、新国立競技場の整備予定内に所在する都有地について一時的な貸し付けを行う際の賃料の参考とするため。対象地は都有地と新国立競技場の整備予定地(含む人工地盤上の立体公園)。この契約額は810万円である。だから二回の不動産鑑定の契約だけで約2200万円もの金を使っている。 
 都立明治公園を無償で貸すという政治的な判断を行うならそもそも不動産鑑定をする必要がなく二回の不動産鑑定の契約額約2200万円は全くの無駄金である。 
 そして、JSCが都に対して払う月額支払い賃料は5530万円とされていた。JSCと都との『一時使用目的のための土地の無償貸付契約書』は2016年1月27日に結ばれ、契約期間は2016年1月27日から2017年年1月16日であり、2021年3月31日まで更新可である。従って最長の62か月で計算すると約34億2860万円の賃借料が都に入った計算になる。

 

平成27年8月14日付『不動産鑑定評価書』の3ページ。鑑定評価額は新規月額支払賃料5530万


 その上で、2015年12月1日にJSC理事長から東京都知事舛添要一氏宛に出された『都有地借用申請書』には都に対し有償で貸してほしい旨の記載はどこにもなく、その代わりにあるのは「幣法人から公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会へ貸し付ける場合は無償を予定している」との一言。JSCが組織委員会に無償貸借を予定しているからと言って何で都民の財産である都有地を無償でJSCに貸さなければならないのか。
 当初のJSCと都との同意通り有償を追及するのが都知事の役目であり、舛添要一都知事は都知事の役目を放棄したとしか思えない。 

都有地である都立明治公園を無償で貸しつけることを求めた『都有地借用申請書』

 マスコミはなぜ、2015年9月18日の時点で都立明治公園は有償で貸すべきというキャンペーンを張らなかったのか。2016年1月26日の都議会オリンピックパラリンピック招致推進委員会の質疑後に行われた東京都公有財産管理運用委員会で新国立競技場建設用地等として無償で貸し付ける議案に賛成したことを批判しないのか。   

 全てが決定し都とJSCの間の無償賃貸借契約が締結された1月27日に結果だけ報道する。どこにジャーリズムがあるのか。


まとめ


 そもそも神宮外苑の新国立競技場を建設すること自体無理という事実を報道すれば神宮外苑地区に新国立競技場の建設を阻止することは十分に可能だったはずである。新国立競技場建設が阻止できたなら都立霞ヶ丘アパートの住民追い出しも都立明治公園周辺の野宿者の追い出しもなく、都立明治公園を新国立競技場に敷地編入する必要もないから、樹木伐採などで環境破壊することもなかった。
 神宮外苑に新国立競技場を建設するために風致地区や文教地区などの規制を骨抜きにした。そのことによって全国各地への再開発の起爆剤にするというパンドラの箱が開けられてしまった。その中に希望は果たして残っているのだろうか。


注1 神宮外苑地区の都市計画上の規制は何種類もあり、それをどのようにして緩和したかを記述するだけで字数制限を超えてしまうので、概略である。

注2 『東京都住宅マスタープラン』で霞ヶ丘地区は「公営住宅建替事業」に指定されていたが放置。住民の移転先を一カ所にまとめられず渋谷区神宮前二丁目、新宿区若松町、百人町と三カ所に分散させた。

(出典 2016年3月発行『反天皇制運動カーニバル36号』所収論文に語句修正し資料を追加した)


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