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「響け!ユーフォニアム」とかいう投資アニメを知っているか?

「響け!ユーフォニアム」を音楽モノだとかスポ根だとか百合アニメだとか言うが人いますが、大間違いです。

あれは投資モノです。

分かります。これを読んでいるあなたのこんな声が直接脳内に聞こえてきそうです。
(投資って株式・不動産・外貨・暗号資産なんかのあの投資?)
そうです!その投資です。ゆえに、ユーフォはインベスターZと全く同じなんです。

そもそも、投資というのは何のために行うのでしょうか?会社の株を買う場合なんかは、「応援したいから出資する」というパターンもあると思いますが、基本的には回収のためですよね?

つまり、見返り、リターンのためです。

頑張った人にはご褒美があるのは当たり前だろ!と思うかもしれませんが、これはそんな単純な話ではありません。もっと大局的かつ俯瞰的に投資と回収の構造で捉えなければなりません。

さすれば、あの物語がいかに現実的で残酷な世界なのか。そして、だからこそ美しいのだという事が今よりも分かるようになります。


投資モノと考えると何が説明できるか

まず、投資の定義についてですが、ここではお金だけでなく時間や労力など、リソースを投じる事全般を指す事とします。

具体的には、練習時間(自主練やレッスンも)・機材の購入・役職の担当・部員のメンタルケア等々・・・ありとあらゆるものが含まれます。

では、本作を投資と回収の構造で捉えると、どんな事が説明出来るようになるのか?
・人間関係のイザコザ
・色恋沙汰
・2年生一斉退部問題
・葵ちゃん退部の理由
・「悔しくて死にそう」
・「音大行くつもり無いのに吹部続けて何か意味あるの?」
・受験と就職

つまり全部です。

そう。本作は全て投資と回収で成り立っているのです。説明出来ないのは、久美子の胸が大きくならない事ぐらいです。いや、しかし、作中ではまるで投資であるかのように久美子はよく牛乳を飲んでますね。アレはそういう事だったのか・・・

かつての北宇治吹奏楽部(旧投資観)

北宇治高校吹奏楽部の投資観を変えたのは滝先生です。
かつての投資観は、投資せざる者回収するべからずです。ここまでは正しいのです。当たり前の事ですよね。問題は何をもって投資と認めるかの基準です。

それは、部員がそれを認識出来るかどうか?です。

入部が投資スタートです。入部以降、皆に分かりやすい形で種を蒔き、水をやり続けた者だけが果実を収穫する資格がある。という価値観です。

これは社会経験の無い未熟さや、学校の部活という閉鎖的な環境ゆえの歪んだ投資観です。本来であれば、それを補って正してやるのが教員である顧問の役割だと思うのですが、美知恵先生にその辺は難しかったのだろうという事で・・・

去年香織先輩は部の中で一番上手かった。
でも学年順で、ソロは全然練習もしてないような上級生が吹いて・・・

TV版 1期11話「おねがいオーディション」優子先輩の八百長依頼シーンより

デカリボン補正がかかっていたとしても、コンクールメンバーやソロの選定が年功序列であったのはさすがに間違いないでしょう。この(当時)3年生がソロを獲得出来たのは一番長期間部に居たからという一点のみです。

しかし、在籍期間は 3年生>香織先輩 となる訳ですから、旧投資観によれば正しい結果という事になります。また、その3年生自身はかつてそういった扱いを受けた代々の先輩を見てきた訳ですから、特に負い目を感じる事なく当然と思っていた事でしょう。

彼女なりに投資を継続し、それに見合う回収が出来た訳ですから、北宇治高校吹奏楽部はそれで良かったんです。市場のルールが変わるまでは・・・

新たな北宇治吹奏楽部(新投資観)

滝先生が着任してからの投資の基準はこうです。

結果が問われる場面で結果が出せるかどうか?です。

例え、頑張りが表面上認識しづらくとも、結果が出せているのであれば回収を認める。という考え方です。その意味では、実は投資をしてきたかどうかすら問わないというスタンスでもあります。

極端ですが、血反吐を吐くような練習を一切していなくとも、才能によって一発合格出来ればそれでオッケーという考え方です。さすがにそんな事はあり得ないので、相応の投資は必要ですが、同じ結果を目指したとしても人によって投じるリソースに差が出る事は明らかです。

旧投資観の場合、在籍期間や担当した役職が投資と認められるため、ある意味公平です。どんなド下手くそでも、2年居れば「2年間頑張ってきた」という投資が成り立つ事になりますよね。

これは、プロセスを重んじるいわゆる日本的な考え方と言えます。

一方、新投資観の場合は、いかに汗水たらして何年間頑張ろうとも、オーディションの瞬間に結果が出せなければ回収は認めない、という不公平を生んでいます。

旧とは逆で、プロセスは全て無視して結果にのみフォーカスする欧米的な考え方です。

結果が出せるか否かにフォーカスするという事は、オギャアと生まれた瞬間から投資の機会は始まっており、本人の行い以外(家庭環境等)も含めた全ての要素を持って戦うという事です。

先程、不公平と書きましたが、残念ながら世の中はそういうものですよね。悪い事のように書いてしまいましたが、むしろ、一般社会ではこちらの方がフェアであり、妥当性が高いとされています。

そして、これが徹底されているからこそ、北宇治は実力主義なのです。

これは、人生規模での投資と回収の話なので、その描写は残酷にならざるを得ないのですが、新投資観に則した投資をしてきた者は、作中でちゃんとそれに見合う回収を得る仕組みになっています。

投資の成功例

■久美子
不人気パートのユーフォを小4から始める事により、中学でも高校でも強者としてスタートを切る事ができ、長らく安全圏に居続ける事が出来た。(その安全圏生活が後に仇となるが、それはまた別のお話)

■緑輝
譜面を血まみれにしながらコンバスを続けてきた事により、高校でも余裕のレギュラー入り。(唯一?)滝先生にもあすか先輩にも演奏面で指導を受ける事は無かった模様。

■葉月
投資としては弱いが、中学時代のテニス部経験で培った肺活量が伏線回収的にチューバ演奏に活かされる。

■麗奈
圧倒的な文化資本によりエースになる。

■秀一
1年の時に葉月の告白を受け入れず、久美子への投資を継続した事で交際まで漕ぎつける事が出来た。

投資の失敗例

■香織
然るべき投資を続けてきたはずだが、市場の運営ルールが変わってしまったせいで、麗奈にソロを奪取される。ルール変更の一番の被害者。

■希美
高校1年生時点で早々と損切りしてしまった事で、2年生の夏から市場に再参入するハメになり、コンクール出場という回収を2年分失う。

■葵
こちらも損切り組。大学受験への投資に重心を移動させただけだが、吹奏楽部員としての回収には失敗。

■麻美子
番外編だが、投資先を両親の意向に左右された事により、最も大事な局面でそれまでの投資を水の泡としてしまった本作最大の失敗者。

新旧投資観の衝突

部活のルールが完全に入れ替わるまでには最低でも2年間という期間を要します。とはいえ、これは完全にデジタルに考えた場合です。奏世代も、旧投資観から切り替え切れていないであろう夏紀世代を見ているため、実際にはグラデーションで思想が入れ替わるのには6年間ぐらいを要するのではないかと思います。

投資観の変更が最も激しい衝突を生んだのは、やはり最大の過渡期であるルール変更直後(TV版 1期)でしょう。

部にとって有益な正しい行動をしていても、旧投資観側からすると投資が足りないという判定になるため、様々な衝突が生まれました。

特に、いきなり現れた麗奈にソロを奪われた香織先輩やそれを応援していたデカリボンからすると、今まで年金を払っていたのに突如その制度が終了して受給できなくなってしまったようなものでしょう。

また、似たような事は久美子と奏の中学時代にもあったようです。これは推測ですが、ルール変更ではなく、顧問と部員達に投資観の不一致があった事が原因なのだと思います。

吹奏楽は中学から始める子が多いでしょうから、顧問が「上手い子を選ぶ」という基準でオーディションをしても、必然的に在籍期間が長い程選ばれやすくなります。

それを、「在籍期間が長い上級生だから選ばれた」と部員達が誤認識しても、たまたま辻褄が合い続けていた・・・

そんな折、入部当初から上手かった久美子や奏が上級生の枠を奪ってしまい、「1年のくせに調子乗んな!」とキレられたり、「これなら上級生が吹いた方が良かった」と手の平を返されたりしたのです。

そして、投資観の混在は逆パターンの悲劇も生みます。
新投資観の部に旧投資観を持ち込んでしまった黒江 真由の悲劇。

2024/6/19現在、TV版 3期第11話「みらいへオーケストラ」までしか公開されていないので、黒江 真由(以下「ママ」)の心中が全て明かされた訳ではありませんが、ママは旧投資観を持ち込んだというよりは、久美子の本音はそうなんだろうと推測して動いているという感じですね。

新投資観の市場であれば私は勝てる。勝ってしまう。部員達も部長自身も「北宇治は新投資観だ」と謳っている。しかし、本当にそれで勝ってしまって良いのか?Aの枠とソリを奪ってしまって後から空気が悪くなったりしないのか?

私は自分のせいで誰かが嫌な想いをするのが嫌だ。上手く吹けと言われればどこまでも上手く吹くし、退けと言われればいくらでも退く。本当にどっちでも構わないから本音を聞かせてくれ!

これがママの心の内であって、久美子を侮辱する気持ちなど微塵も無いのではないかと考えています。

しかし、久美子には久美子で、建前であっても新投資観を謳い続けるしか無い理由がありました。一つは部長という立場。もう一つは、かつてオーディションで香織殺しに手を貸した事に筋を通すため。

北宇治は実力主義だ!という主張が、100%建前だとはさすがに思いません。平和主義者の久美子とて一人の奏者であり、音楽表現に実力が必要なのは百も承知のはずです。また、周囲の高校生達に比べて冷めた現実的な目線を持った子です。

それでもやはり嘘偽りなく建前じゃないと言い切れない所が久美子の弱い所であり、難しい所です。

頼むから旧投資観だという本音を教えてくれ!と言うママ。
口が裂けても旧投資観だとは言えない久美子。

相反する価値観が合流する地点では、2つの海流がぶつかるように激しい波が起こります。

ユーフォ3期は残す所あと2話。
さて、どう決着を付ける事やら・・・

視聴者の投資と回収

TV版 3期放映中の今は、ユーフォのアニメ版が始まってから9年目だそうです。これまでTV版 1期・2期、劇場版5本がありました。3期はその総決算だけあって、これまでの全てが伏線となる作品です。

劇場版もしっかり見ている人には、TV版だけの人には分からない、ニヤリと出来る場面がたくさんあります。また、小説を読んでいると、小説の伏線がアニメで回収されていたり、アニメの伏線が小説で回収されていたり、より多く楽しむ事が出来ます。

そう。これまで作品の視聴という投資を続けてきた視聴者達には、しっかりと回収が用意されているのです。

今なら各種サブスクサイトで全シリーズを網羅する事は容易です。
急げ!

投資せざる者回収するべからず。

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