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読めばきっとあなたも好きになる|【超人】佐々木 梓の物語

私は、アニメ版「響け!ユーフォニアム」はTV版・劇場版共に全て視聴済で、2024/6/14現在はTV版の3期を視聴している最中です。

武田綾乃さん原作の小説は、コンクールやオーディションのネタバレが怖くてほとんど読んでいません。つい最近「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」(小説版の1巻)を読んだだけなので、ほぼ原作未読勢です。

そんな私がつい先日「立華高校マーチングバンドへようこそ」を前後編読みました。あまりに凄かったので、ネタバレ無しの紹介とネタバレ有りの感想を書きたいと思います。

【超人】佐々木 梓の世界へようこそ


ネタバレ無しの紹介

読もうと思ったきっかけ

小説ユーフォシリーズの中に立華高校を舞台にしたスピンオフがあるというのは知っていました。

しかし、特に梓に思い入れがある訳でも無く、本体の原作もほぼ未読だった私は、アニメの新作がもう出ない世界になってしまって、原作も全て読んでしまった後で、さらに超絶暇だったらいつか読もうかな~。読めたら読む!ぐらいに考えていました。

そんな私がいきなり2冊とも買って読もうと思ったのはなぜか?

2024/6/14現在放送中のTV版3期 第4話「きみとのエチュード」で、あの円陣を見たからです。

もうね。ただただカッコエエ~ってなりましたね。

今までも1期2期でちょいちょい登場していた梓の印象とは打って変わって、部の代表として大声で快活に掛け声を張り上げる姿に感動したのです。
求回は(今の所)3期で唯一心温まる話なので、何度も観ているのですが、立華の円陣シーンは特に何度も何度も観てしまいました。

多分、今私のNETFLIXで3期4話開いたら、円陣終わった所から再開されるんじゃないかな?(半分冗談で書いたのに今確認したら本当にそうなってたわ・・・)

さらに、YouTubeでユーフォの反応まとめみたいな動画を観てると、
立華編原作既読勢大勝利
喋って動くあみかキターーーーー!!
原作主要メンバーが皆いて感動した

といった感想で盛り上がっていたようです。

・・・え?そんなアツくなれるやつなの?

他人の感動に触発されがちな私は観念して、好きでもないキャラが関西弁で喋るスピンオフ作品を買う事になったのでした。一応前編だけポチっと・・・

どんな本なのか

超簡単に要約すると、超人が超過酷スパルタ環境に入ってやはり超人的な実力を発揮する話です。本体である北宇治編に比べて圧倒的にスポ根です。

「白鳥の水かき」ということわざがあります。優雅に水上を移動しているように見える白鳥も、水面下では頑張って水かきしまくっているんだよ。という意味ですね。本作は、水面下に読者の頭を突っ込んで、ひたすらその水かきの様子を見せ続けるような小説です。

しかし、読んでて気持ち良いんだなこれが。立華高校は全国に名を轟かせる超強豪校なので、当然入部してくる生徒も意識が高いです。もちろん先輩はもっと意識が高い。幹部に至ってはもうプロだろあんたっていうプロ意識です。

顧問がちょっと厳しくしたら部員がウダウダ文句言うような北宇治とは大違い。軍隊さながらの厳しい環境でも、結果を得るためにバキバキに頑張る。そんな姿を爽快と感じる人は読めば気持ち良くなれるよ。

そして、本作を読むと梓の見方が変わります。どう変わるかって?確実に好きになりますよ、そりゃ。

アニメでの梓の扱いは、久美子(北宇治)を相対化するための舞台装置という感じでしたよね。1期のサンフェスでも、決別すべき過去の象徴として配置されていたので、はっきり言ってかなり損な役回りでした。

しかし!本作では主人公は梓!
本記事のタイトルにもある通り、私は彼女を天才ではなく超人と表現したい。

なぜ超人か?を説明する前に、あなたは「文化資本」という言葉をご存じでしょうか?

文化資本(英語: cultural capital、フランス語: le capital culturel)とは、社会学における学術用語(概念)の一つであり、金銭によるもの以外の、学歴や文化的素養といった個人的資産を指す。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

説明が難しくて何を言ってるのか全く分かりませんね・・・
簡単に言うと以下のような家庭環境の要素の事です。
・美術品や楽器や書籍がたくさんある
・習い事をさせたり、技術向上に打ち込む事を是とするような周囲の考え
・人生に有益になるような行動様式を身に付けさせる周囲の姿勢

美術品や楽器等のモノが資産という事ではなく、モノがあったり親が文化的な営みを推奨したり肯定してくれる環境の事を資本と捉える考え方の事です。

これらは遺伝子による能力の発現ではなく、よりダイレクトに親から子へ遺伝するため、見えない格差を生むと言われています。

私もこの辺はそこまで詳しくないので、自分なりの解釈を書いています。でも、なんとなくの感覚は伝わってますよね?

さて、さらに別の前提が出てしまって恐縮なのですが、「響け!ユーフォニアム」には、持つ者と持たざる者の対比がよく出てきます。

例えば
・麗奈と香織
 →トランペットの演奏力
・あすかと晴香
 →部長力(決断力や人心掌握術)
・みぞれと希美
 →音大を薦められるほどの楽器演奏能力
 →楽しく学校生活を送る能力
 ※互いに相手を持つ者と捉えている
・緑輝と葉月
 →吹奏楽経験と楽器演奏能力

持つ者の名前を先に書きました。前者が持つモノは、才能であったりメンタリティであったりしますが、麗奈の場合はゴリゴリに文化資本ですね。

なにせ父親がプロのトランペット奏者で、高級車が停まってる一軒家が建つレベルです。自宅(の地下?)に各種楽器が揃ったスタジオですよ!?しかも、楽器演奏を極める事に親の理解があるという環境です。

もう文化資本で殴って来てます・・・

(ようやく梓の話に戻りますが)一方、梓はというと、特に吹奏楽部生活に役立ちそうな文化資本を持っていません。

しかし、梓は間違いなく持つ者の側です。
文化資本がないのに一体何を持っているのか・・・?

異常なまでの向上心です。

向上心と書くと情熱的な感じがしてしまいますが、実はあまり情熱を感じないのです。麗奈のそれと比べると「向上心」という言葉を使う事自体がそもそも違うのかもしれません。

実は、作中でことあるごとに「お前ちょっとおかしいで」「それを『良い事』って言いきれるのが怖いわ」といった趣旨の事を周囲から言われます。
(電子書籍のくせにKindleで本文検索できなかったので記憶で書いています)

絶対にプロになりたい!トロンボーンを極めたい!
という熱い情熱の根拠は特に示されない割りに、吹奏楽は好きか?と聞かれると「大好きです!」と即答する。

そんな、中身が無いくせにただただ強靭な向上心って不気味じゃないですか?「立華の衣装を着てマーチングしたかった」とアニメ版で語る割りに、そこまで吹奏楽やトロンボーンに固執する確固たる理由が示されないので、何コイツ怖っ!ってなります。

その怖さ。病的な感じにやられてしまいました・・・
なぜかは知らないがめちゃくちゃ頑張る。理由もゴールもないのに盲目的に努力して、情熱がある人でさえ成しえないぐらいの結果を残していく。それが佐々木梓の超人たる所以です。

盲信で葛藤なく頑張り切れる超人の物語を読んでいると、もう爽快で清々しい気分になります。私は常々心のどこかで「全国金目指すなら北宇治もこれぐらい頑張れよ」と思っていたのかもしれません。そのこれぐらいを実践しているのが、梓をはじめとする立華高校吹奏楽部の部員達なんです。

そして、周囲から怖い・おかしい等と評される梓のアンバランスさが最高に魅力的なんですよ。

梓が持つ者である理由は分かっていただけたと思います。

そして、本作はユーフォシリーズでは珍しく持つ者視点の小説なんです。

北宇治編の主人公久美子は持たざる者です。
入部当初から、葉月や夏紀先輩など格下の相手をする事が多かったので持つ者と思われがちですが、小4からユーフォをやっていたという経験が短期的な財産になっていたため、持つ者特有の安全圏にいる状態が長く続いていただけなのです。

1期 第12話の上手くなりたい橋で、実は久美子は本質的には持たざる者だった事が明らかになります。

物語を書く上で、持たざる者を主人公に据えるのは必然のセオリーなんだと思います。飛び込んだ舞台の世界観を読者に説明するためや、読者が読み進めた量と主人公の成長具合をシンクロさせるためには、足りなさという共通点があった方が都合が良いからです。

その点、本作は特異です。勝ち確の超人が迷いなく努力する様が見られる。吹奏楽部運営の難しさや、それでも頑張るための葛藤等を全てすっ飛ばして、強くてニューゲームのような状態が楽しめるのです。これは、本体である北宇治編を履修し終えた読者・視聴者へのご褒美のようなものだと考えています。

怖い、おかしいと周囲から言われながらも、自分では「そんなに変だろうか?」と異常な努力を積み重ねて課題をこなせてしまう主人公。しかし、そんな主人公ですら乗り越えられない高い壁がある。そんな世界の物語です。

前編を30ページぐらい読んで「これは後編も読みたくなってたまらなくなるやつだわ」と後編もポチりました。武田綾乃さん、申し訳ございませんでした。

異常者 佐々木梓の魅力

私がこの本を買おうと決心した理由はあの円陣だけではありませんでした。
書籍を紹介していたとある動画で、本作中に登場する「佐々木さんさ、病気や思うよ」というセリフが引用されていたのです。

一応標準語で書くと

佐々木さん、あなた病気だと思うよ。

という事です。

その時点では誰が梓にそのセリフを言ったのか当然分かりませんでした。しかし、誰が言ったかはどうでも良くて、健康的で明るく可愛い感じで描かれていたあの梓が「お前は病気だ」と他人に指摘されているという事象に物凄く魅力を感じたのです。

活発で健康的な超人と病気という毒気のあるワード。そのギャップにめちゃくちゃ興奮して、居ても立っても居られずポチってしまったという訳です。

とある人物が指摘した病気についての真偽はここでは書けないのですが、本体である北宇治編ではまぁお目にかかれないようなエグめの精神的歪みをモロに見せつけられる事になります。

私は特別心の闇が大好きとかいう訳ではないのですが、超人の盲目的な頑張りとその裏にある精神的歪みという2つの軸で物語は進んでいきます。

そういう意味では、脳筋スポ根モノという訳ではないので、人間の内面的な深みのある話がお好きな方でも満足出来ますよ。大丈夫です。むしろ、人によってはそっちがメインだと捉える人も多いかもしれません。

読む前に見ておいた方が良い動画

立華高校吹奏楽部は京都橘高校吹奏楽部をモデルにしています。練習や本番で、本家橘高校の実在の演目がたびたび登場するのですが、マーチングや音楽の描写が正直文章だけではちょっとキツいです。

もともとの知識と想像力が豊かな方は十分楽しめるのだと思いますが、私の場合は、マーチングの動きや楽曲の感じをいちいち脳内で構築しながら読み進めるのがしんどかったです。

なので、先にこちらの動画を視聴してある程度覚えておく事をオススメします。

演目が完全にドンピシャという訳ではありませんが、これを見ておけば十分です。興味本位でなんとなく再生してみたあなた。これ皆高校生ですよ?これが優雅に泳ぐ白鳥です。

この水面下を見てみたくありませんか?

以下、ネタバレ祭りなのでご注意














ネタバレ有りの感想

結構序盤に出てきたシーンだったと思うのですが、早弁クソワロタwww
最初は「朝連が大変でお腹空いたからなのかな?」とか思っていたのですが、「そうか昼休憩を練習に使うからか!」と気付いた瞬間爆笑しました。

しかも強制っぽい・・・

他にも、身体作りのために合宿でご飯大盛を食べさせられるとか、満腹中枢が反応する前に胃に入れるという技を先輩から伝授されるとか、女子高生らしからぬ描写の数々がマジで面白かったです。

武田綾乃さんは橘高校に取材しまくったらしいので、多分これも実話なんでしょうね。

面白はさておき、アニメ版ユーフォの伏線回収として機能しているのも本作を読んで良かったと思えた所です。

1期サンフェスで、座奏は楽勝なはずの麗奈が苦しそうにトランペットを上げ直す描写があります。本作中では「ベル下がってるで!」「ベルの角度揃えて!」という指導が何度も何度もありました。いかに演奏能力が高くとも、マーチングのスキルは完全に別物という事をサンフェスのシーンで示していたのですね。

あとはやはり先輩達のプロ意識が凄すぎますね。
入部最初の挨拶が報連相を徹底して下さいって・・・新入社員に言うやつですよね?

立華は本番では笑顔しか見せません

今日借りてる会場はマーチングの練習が出来る貴重なスペースです。1秒も無駄にしないようにしましょう

考え方があまりにも大人の理論過ぎる・・・立華に1年も居ればすぐに会社で働けますよ。

そして、アニメと原作の最大の違いである関西弁問題ですが、私はこれには好意的でした。北宇治編については、アニメを見過ぎたせいで「今さら関西弁で喋る君達には馴染めない」という抵抗がありました。

その点、立華は梓以外誰も分からないので、新キャラとして抵抗なく入っていけたのかなと思います。

あと、やっぱり女子高生の京都弁って良いなとも思いました。実は関西弁と言っても京都と大阪って違うんですよ。一般に関西弁と言われているのは大阪弁です。これは関西圏在住経験が無い方には分かりづらいと思うのですが、京都弁は特有の突き放し感と柔らかさという相反する要素が両立しているんですよね。

高校時代を京都で過ごした私にとっては、京都弁を喋る女子高生というのがリアルで、その言葉に表れる感情の機微を読み取りやすかったというのも好印象の一要素だと思います。

そして、なんといっても未来先輩ですね!もう激熱です!

構造上は久美子とあすか先輩の師弟関係に類似してはいるのですが、梓と未来先輩はよりウェットな関わり方だと感じました。

天才あるあるを悩みとして共有したり、骨折の後にソロを託したり、意味する所は解釈によるけど好きだと口にしてくれたり。自分が悪役になりたいがために久美子を人格攻撃するあすか先輩と違って、優しさの表し方がストレートなんですよね。

脳内である程度キャラが固まってきてからは、みっちゃんのビジュアル(CV:夏紀先輩)で読んでました。

最後に百合なのか?問題について書いておきたいと思います。
ユーフォを指して百合アニメと評する人々がいる中で、本作はより百合度が高いとされているようです。

本作を読んでから書評や感想文を色々と読み漁ったのですが、

良い百合を読ませてもらいました

この百合感がたまらんですな~

といった具合の記載をたびたび目にしました。私はBLとか百合に詳しくないので、そもそも定義が曖昧なのですが、BL=ホモと同じ構図で百合=レズだとすると、この小説には直接的な性表現が出てこないのであまりに薄くないか?と思っちゃうんだけど、その辺どうなんだろう・・・?

百合っていうのは、キスとかハグとか性欲とか性行為とかそういった直接的な事じゃなくても、もっと浅い表現でも許容されるような懐の広い概念なんだろうか?

未来先輩が梓のトラウマを解消するために、「友達かどうかは好きかどうかで良い。私は梓の事好きやで」といった趣旨の事を言った描写に対して、好きの解釈をあえて恣意的に拡大して自家発電出来るような奥深い世界なのか?

それはそれで興味深い。周りに百合好きな友達が(というか普通の友達すら)一人もいないので取材する事も出来ません。

誰か百合教えて~!!

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