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笠松競馬の問題は本当に現場の人たちだけの問題なのか?

6月1日に騎手・厩務員に所得申告を少なくしていた疑いがあると公表して以降、笠松競馬は静かである。静かながらも、9日には内部通報制度の新設が行われるなど、クリーンな競馬場形成のために努力しているであろうことは外部にも伝わってきている。

ところで、地方競馬に関わる団体はいくつかある。まず、各自治体の地方競馬組合(以下組合)、調教師会(笠松では調騎会となるようだ)、騎手会、厩務員会そして、馬主会である。
笠松では調教師会が調騎会となるため騎手会はあまり強くない印象があるが、厩務員会は比較的強いことで知られている。

地方競馬においては調教師が騎手・厩務員双方を「雇用」していることから、力関係としては圧倒的に調教師が強く、また調教師は馬主から馬を預かって初めて業をなすことから、馬主というのはヒエラルキーの最上層に位置することとなる。(この力関係は、東海地方厩務員労働組合が申し立てた不当労働行為救済申立事件の命令書を読むと比較的良く分かる。なお、これは平成15年に申し立てられたものであるが、命令書が出たのが平成18年、3年もの年月を有している)

さて、今回noteでなぜこんなことを書く気になったかというと、一つには今回の件で、ようやく厩務員にも問題があるのではないかという話になったからだ。処分時の記者会見における質疑応答で記者が「他場では厩務員による馬券の売買での処分(直近では高知けいばの厩務員が競馬法違反で罰金刑となっている)が見受けられるが、笠松でも確認したのか?」という旨の質問をしているが、その時の返答については前回のnoteでも触れたとおり「第三者委員会がきちんとやっている」との事だった。今回は税の申告ということだが、どのような名目で税を過少申告していたのかが大変気になるところである。

そして、もう一つは、問題発覚から今まで、関与した者として登場しているのは調教師・騎手・厩務員という競馬場に直接かかわる者のみで、組合は「管理責任」を問われたに過ぎず、馬主に関しては全く言及されてこなかったからである。

そもそも、馬主は馬券の売買を許されているので問題ないのではないか?もちろん、その通りである。しかし、関係者の馬券購入に関与していた、ないしは認知していた場合にはどうだろうか?

これを疑うきっかけになったのは当時の岐阜県地方競馬組合管理者であった笠松町長、古田聖人氏のツイッターでの以下の発言を見てである(既にアカウントごと削除されている)

朝日新聞に尋問の筋これあり
朝日のI支局のO記者は競馬法違反で書類送検された笠松競馬の元調教師Oを名古屋の飲み屋で接待して情報をもらっていた。
脱税指南役で有名な馬主Kやセクハラ調教師Iも同席していた。
笠松競馬もマスゴミも腐ってる。同じ穴のムジナ。

#事件  #マスゴミ

この元調教師Oが尾島徹氏を指すのは明らかであるし、セクハラと書かれている以上調教師Iは井上孝彦調教師を指すのであろう。
朝日新聞が馬券売買などを最初に大々的に報じたことを考えると、この馬主Kは何らかの事情で既に馬券売買について知っていたのではないかと考えたのである。
古田氏の発言からイニシャルが苗字を指しているであろうことは推察でき、脱税指南役とされているため、当初、笠松に所有馬を持つ税理士のK氏がこの馬主かと考えたが、関係者に聞き取りをしていく中で、実はこの馬主Kは岐阜ではなく名古屋と関係の深い馬主ではないかと思うようになった。脱税指南役とされたのはご家族に税務に関わる方がおられるためで、本人は名古屋で会社を経営しているとの事である。
さらに聞き取りを進めていったところ、第三者委員会が設置された2021年1月下旬から2月上旬にかけて、このK氏が複数の関係者に自首を促す電話をしており、その中の数人は第三者委員会にも、そのような電話をされ、一部の者は脅迫のようだと感じたと報告したとの事であった。(この聞き取りの最中に、別の馬主も「〇〇はダメだが、△△は残してやろう」などと関係者に電話をしていたことも分かったが、これについては第三者委員会に報告をしたという話は聞こえてこなかった)
しかし、第三者委員会の報告書をどう読み、どこをどう調べても、馬主が事前に誰が馬券購入をしていたのかについて知っていたり、また、自首を促したかのような表記は見当たらない。

関係者による馬券売買の禁止は、すなわちその配当を目的とした「ヤリ・ヤラズ」つまり八百長行為につながる危険性があるからなのは言うまでもない。実際に「ヤリ」ができるのであればそれは相当どころではない腕前で、超が付く一流の騎手ということになり、そのような規格外の騎手は少なくとも笠松には存在しない以上、疑われるのは「ヤラズ」つまり故意敗退である。しかし、故意敗退となると、馬主にとっては本来受け取れるであろう賞金などが受け取れないなど、著しく不利益となるわけで、もし実力のある馬が何度も不自然な負け方をしていたり、また不自然な騎乗が見受けられれば当然、調教師や騎手に理由を問う事態となるだろう。
先に述べた通り、馬主というのは調教師にとっては「顧客」であり、収入源である。その馬主の不興を買う真似は中々にできないはずである。それでも故意敗退をするとしたら、馬主がそのグループに入っていなければならない。

今回の文章はなにかを証明したい訳ではない。尾島徹氏もYoutubeでは「狭い競馬場だ。馬の状態は内部にいれば分かる。それを元に馬券を買えば当たる。故意敗退はしていない」と述べている。故意敗退があったか否かについて、自分はあったともなかったとも一切断定する立場にない。また、第三者委員会の報告書でも以下のようにまとめられている。

不正敗退行為の有無について

本件は、レースに出走する騎手らがグループとなって当該レースについて一定の馬券を共同で購入していた事案であり、当然のことながら騎手の不正敗退行為(競馬法第31条第3号)の存在が強くうかがわれた。
この点についても当委員会で調査をし、複数人から、騎手らによるいわゆる八百長があった旨の供述を得たが、それらのすべてが騎手らのレースを見たうえでの自己の評価にとどまるものであり、八百長を指摘するレースも一定のものではなかったことから、当委員会において、騎手らが不正敗退行為をしたとの事実を認定するには至らなかった。

この複数人というのがどのような人物なのかは不明だが(おそらくは調教師ならびにその調教師と関わる騎手・厩務員であろうと思われる。そもそも、本件はある調教師による不正敗退行為の告発に端を発していると漏れ聞こえているため)、本気で不正敗退行為も強く疑い、そのうえで調査をするのであれば、馬主についても調査せざるを得ないはずである。にも関わらず調査を行った形跡がないばかりか、馬主が事前に情報を知っていたであろう事実を調査に含めない姿勢には強い違和感を覚える。


**あとがき

さて三回目のnoteであるが、ここまで一貫して第三者委員会に対して否定的な見方をしている。その理由をあとがきとして記したく思う。

今回の処分について、個人的にはかなり偏り、また一部にはあまりにも厳しいものだと思う。特に関与停止となった騎手たちについては色々と考えさせられる。
騎手の多くは中学卒業と同時に騎手学校に入学し、そして競馬場で働くこととなる。朝から晩まで馬のことを行う。逆に言えば、それ以外の事をあまりしてこなかった人たちである。
もちろん、全員がずっと騎手でいられたり、騎手引退ののち調教師として働けるわけではない。怪我をする者、能力に限界を感じる者、他にも様々な理由で競馬場を離れる者がいる。しかし、馬の世界しか知らず、いきなり外の世界と言われても難しいと感じる者がいることも確かで、彼らが厩務員だったり、育成牧場だったりで馬と関わりながら生きている姿を見ることもある。何が言いたいかというと、セカンドキャリアという意味では、今の競馬界はあまりにも無頓着なのではないかということだ。(その点で言えば、Jリーグは極めて早い段階からそういった意識を持っていたと思う)

この状況下における関与禁止・関与停止は、実際に馬券を買ったと認めた者、実刑判決を受けた者に対しては理解ができるが、そうでない者に対してはあまりにも重いのではないかと思う。少なくとも、この世界でしか生きてこなかった人間に対しては一般の解雇通知に較べてもかなり重い処分だと感じる。

さらに、関与を認めていない騎手が例えばこれから地位保全などを求めて裁判を行ったとしても、判決までいかほどの時間を要するだろうか?
それに騎手はアスリートである。アスリートの「良い時期」がいつであるかは判別が難しいが、今回処分された騎手には60歳に手が届こうかという者もいる。いざ、罪に問えないとなったとき、その数年は取り返しがつかないものなのではないか。

今回の第三者委員会の報告書からの一連の組合関係者による処分には、そういった実際に働き、生きている人の人生に対する配慮が全く以て欠けているように感じられるのだ。これは、異議申立期間の短さや、その際の対応などを聞くにつけても感じるものである。

かなり後になって関与を認めたある調教師が言っていたそうだ。「結局、正直に話した人間だけがバカを見た。」と。
話さないのは処世術かもしれない。
自分が処罰を受けたから、他の人にも処罰をというのも間違っていると思う。
ただ、調査の過程で一部の関係者に利するように内容がゆがめられたり、ほぼ黒だと疑いながらも処罰に手心を加えた件があるとしたら、それは看過してはならないと感じるのである。

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