黄色いチューリップの花束

前回のnoteで昔、花屋で仕事をしていたと書きました。

花屋の仕事自体はとても楽しかったし、できることなら続けたかったのですが、豆腐メンタルだった当時の私は人間関係に悩み、結局3年ほどで辞めてしまいました。

花屋にいたころの忘れられないエピソードがあるので、今日はそのお話しを書いていこうと思います。

私が働いていたお店はスーパーの中にありました。
24時間開いているスーパーの中の花屋で『遅番』という名で1人で夕方5時から夜10時まで仕事をしていました。

ある日、そろそろ店じまいをしようとしていると、お客さんが1人やってきました。

「黄色いチューリップで花束を作ってもらえる?」と一言。

こんな夜遅くに?と思いながら、お客さんに「他のお花は入れますか?」と聞いたところ「黄色いチューリップだけでお願い。」と言われました。

お店にあるだけの黄色いチューリップで花束を一つ作りました。
ラッピングも黄色、リボンも黄色。
自分で見てもとても可愛らしい花束が出来上がりました。

お客さんに「できました。」と声をかけ花束を見せると、本当に嬉しそうな顔で「ありがとう!」
そして、少し悲しそうな顔で「あの子も喜ぶわ。」と一言。

ぽつりぽつりとお客さんが話してくれたのは友人が好きだった花が黄色いチューリップだったこと。
これからこの花束を持っておまいりにいくということ。

そう、花束は亡くなった大切な友人への最期の贈り物だったのです。

「ついさっき連絡が来てね、夜遅いけどどうしても会いたくて。そういえば…って思い出したから花束を買いに来たの。きっとあの子が喜んでくれると思って…。」
そう話すお客さんの優しい笑顔が印象的でした。

花束はおめでとうやありがとうの贈り物だと思っていた私は、まさかその黄色いチューリップの花束がさよならの贈り物だとは想像もしていなくて、涙が止まらなくなってしまいました。
お客さんに申し訳ないと思いつつ、泣きながらお会計をし、花束を渡しました。

お客さんは花束を大事そうに抱えて、震える声で「本当にありがとう。あなたに花束作ってもらえて良かった。」と言い残しお店を出ていきました。

1人で泣きながら店じまいをしている私を心配して、スーパーのおばさんが大丈夫?と話しかけてくれました。
さっきこんなことがあって…と話すとハンカチを差し出してくれて「お客さんの前で泣いたらダメよ。」と笑われてしまいました。

あの黄色いチューリップの花束は喜んでもらえたでしょうか?
あの人の気持ちが届きますように、と心から願っていました。

花屋で仕事をしているといろいろなお客さんに出会えました。
奥さんの誕生日に毎年赤いバラの花束を贈る人がいて、本当にそんな人いるんだ…とビックリしたこともありました。

花束の先にある贈られた人の笑顔を想像しながら花束を作るのが好きでした。
黄色いチューリップの花束の先にあるのも笑顔だったら良かったのに、とあのとき感じた気持ちを思い出しました。

これからも時々こちらで花屋だったころの私の話を書いていきたいと思います。

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