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BQMAP 『Re- 〜奥州義経名残雪』 感想


⚠ ぼかしていますが少しだけネタバレ有

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目次


【はじめに】


主催の『BQMAP』は2000年代から観ている、思い入れのある劇団です。

私が最後に観たのが『88』(2017年)。
この頃に環境の変化があり 劇場から足が遠のいていたのですが、
今年Twitter(頑なにXと言わない)で公演情報が流れてきたので
「久しぶりに行ってみようかな~」「何度か見たことのあるタイトルで気になってたな~」と思い、観ることになりました。

ちなみに「1995年初演、1998年再演、2003再再演、2007年再再再演」した作品だそうです。16年振り5回目の出場。


【会場到着~開演まで】


会場は『シアターサンモール』。
新宿区の地下にある劇場です。1989年開館と年季が入ってます。風格があり好きな劇場ですね。

地下なのでロビー・客席で携帯の電波がほぼ入りません。人によってはキツいかも(私は時間を調べたり感想メモしたりできれば十分ですが)。

最後に訪れたのは7年前(この時もBQMAPでした)。変わっていない内装が懐かしく、席に着いてからはホール内の壁(音が響くよう凸凹してる)をしばらく見つめていました。
端から見ると変な人だったと思います、ごめんなさい。

客席に入ってから気づいたのですが、席が最前列でした(震え)。
真ん中から「前」よりも「後ろ」の方が見やすい会場なので、特等席ではないかもしれません
(※実際、センターブロックかつ後方確約の席種がありました)。
とはいえ
文字通り目の前が舞台!!
遮るものは何もない!!
出演者がすぐそこまで来る!!
ほとんど座ったことがない場所なので、ソワソワしながら開演を待ちました(笑)。

【あらすじ】

東北の鍾乳洞でロケハンをしていたクロ(黒沢義人)は
地震によって、先輩スタッフや観光客と共に
その鍾乳洞に閉じ込められてしまう
地元でミステリースポットとして有名な鍾乳洞
そこで遭遇する数々の出鱈目で不可解な現象は
決して無秩序ではなかった
奥州平泉で討たれたとされる源義経
彼が生き延び北へと向かったという北行伝説
その物語とクロの物語は密接に関わり合い
現在と過去を行き来しながら未来へと進む
そしてクロは、ここへ来た意味を知る

http://www.bqmap.com/page231153.html

【感想】


まさか泣くとは思わなかった。

というのも、私は観劇で泣くことはほぼ皆無なんです(頻繁に感動はしている。音楽はすぐ泣く)。振り返っても片手でさえ余る程度。

泣いたという口コミは多かったし、出演者&スタッフの投稿で
「読み合わせの時点で泣いた」
「ゲネプロを見守りながら泣いた」
「本番中に泣くのを堪えていた」
という声もありました。

人それぞれだと思いますが、私は以下の2点がポイントでした(台詞は要約です)。

義経(中世)視点

義経一行は、源頼朝の追手から逃げる途中、とある地点に潜伏する。理由は、一行の一人の怪我(足)を療養するため。
なかなか治らない中、追手が迫ってきているとの情報が入る。怪我人を見捨てない、全員で逃げ延びようと仲間に話す義経。

ところがその怪我人がある日「自分はここに残る、皆だけで行ってくれ」と言い出す。
もちろん一行は戸惑い、止めようとする。
けれど彼は笑いながら
「ここは住みやすい。気に入ってしまった」「春には桜が見事らしいから、ぜひ見たい」云々と話す。

嘘です。そんな訳ないんです。

ここに至るまでに、彼らは戦場や逃避行で生死を共にしてきました。
少し前の場面で、彼はどんなに義経の傍にいたいか、力説していました。
一行(と観客)はそれを見てきました。

それでも彼が「お暇を願」ったのは、自分が足手まといで、このままでは敵に追い付かれると分かっていたからだと思います
(追手の情報は彼には伏せられていました。勘付いたのか、耳にしてしまったのかは不明)。

「義経は多くの人の期待を背負っている。だから彼は絶対に生き延びなければならない」というメッセージは何度も提示されてきました
(実子を影武者として差し出した人物もいました。その人も義経に生き延びろ、犠牲を無駄にするなと訴えていた)。

(彼の意図を汲んだ上で)軽口と罵倒で応える仲間も、なかなか受け入れられず必死に説得しようとする仲間も。どちらも深い絆で結ばれた良い仲間だったのだなぁ、と思えました。

そしてこの場面での義経がね……本当に全てを堪えているようにしか見えなくて……ひょっとしたら泣いていたようにも見えるし……みんな映像発売(または配信)されたら見てくれ……。


クロ(現代)視点

観終わってから振り返ると、作品タイトル『Re - 』は短い言葉なので、色々な解釈ができます。
再会、転生、返答、再出現、思い出す、思い出させる、帰還 etc...

その中でも私が強く感じたのは
「精神的な生まれ変わり、脱皮(≠転生)」の面でした。

あらすじにある通り、クロたちは鍾乳洞に閉じ込められてしまいます。
普段とは違う環境、ありえない現象。その中で過ごすうちに、日常では口にしない話、胸の奥にしまっている本音や感情が出てくる。

一行は非日常体験を経て、それぞれ“元の世界”に帰っていきます。
脱出する場面で一行(+α)は「閉じ込められた所から出られるから」にしてはとても清々しく、満足気でした。

このことから、クロたちにとって鍾乳洞は「戒壇巡り」「胎内巡り」のような世界になっていたのではないかな、と思いました。

↑こんな感じ

戒壇巡りほど狭くないし、明かりは(心許ないものの)あるので真っ暗ではありませんが……。
(劇中、手持ちの明かりが消えて真っ暗になってしまう、というシーンがありました。ここの会話は「ギクシャクした二人が、互いの顔が見えないからこそ少しだけ素直に話せた」感じがあって好きです)。

そして登場人物たちだけでなく、私たち観客も『Re - 』を通じて「精神的な生まれ変わり」を体感したのではないでしょうか。

記事の冒頭で、上演した劇場が地下であると書きました。
「どんな物語だろう」とワクワクしながら地下へ下りて、劇中の人物たちと同じ空間で過ごし、思い返しながら地上へ出る。
たった数時間の出来事とはいえ、外の景色が違ってみえる。観る前とは違う何かが自分の中にある。

『Re - 』に限らず生のエンタメ全般に言えることかもしれませんが、今回は特にそれを実感したので書きました。


【最後に】


今回は書けませんでしたが、登場人物一人ひとりにスポットを当てて見るのも面白いです。
立ち位置も様々で、立ち振る舞いから過去や心情に思いを巡らせると……キリがない。
それと小ネタの数々

一人だけ挙げるとするなら、クロの先輩(上司)・桂木さん(演:前田剛さん)
「品がない」と言われたり、目の前の出来事をなかなか受け入れなかったり、モノマネの無茶振り(くるしい)をされたりしますが
メンバーを思いやり、必要な時には叱咤し、脱出のためにリーダーシップを取れる。
こんな人になりたい、こんな上司だったら良いなと思える人でした。
一方彼もまた葛藤を抱えていて、特に家族にに関して「自分が気づいていれば、何かできたのでは」と後悔を語るシーンでは
思わず首を振ってしまいました(後ろの席の人ごめんなさい!)
それからそれから……(長いので終わります)

改めて自分が観劇が好きだということを実感した舞台でした。



BQMAP page231153
『Re- 〜奥州義経名残雪』 
(り・おうしゅうよしつねなごりのゆき)作・演出・美術:奥村直義
音楽:佐藤太・竹下亮
日程:2023年11月8日(水)〜11月12日(日)
会場:シアターサンモール

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