世界が終わってもイントロは鳴る


Intro



くろまいです。旧裏以外のテーマで書くの何気にはじめて。



チバユウスケが亡くなったそうです。





『死』を伴う話題は自分みたく迂闊な人間と相性が悪いため、電子の海においては沈黙が正しい答えなのですが、身の回りでこの件についての話し相手がおらず消化不良ぎみなので(妻はまあ仕方ないとして職場にもいないのなんでよ)、言葉を選びつつ記事にしてみます。



個人的にアーティストをさん呼びすると馴れ馴れしさとよそよそしさが同時に発生して違和感が凄いため、ご本人や関係者の方に直接言葉を伝える場ではないことも踏まえ、本文中の名前表記はチバ含め全て敬称略で進めていきます。



Ba.


チバの代表的なキャリアと言えるバンド、ミッシェル・ガン・エレファントについてはリアタイしてないので、代わりにハチワンダイバーの1エピソードを引用しておきます。





上記6枚、集英社、柴田ヨクサル
『ハチワンダイバー』YJC11巻 P11~P17より引用




ロキノン系の雑誌が大事にしてきたパラダイムシフトという概念を、マンガの側から数ページで書きつくした、秀逸な表現です。後追いだとインプットの際にこういう『周りによって外付けされた伝説』がどうしても前に来てしまうため、先入観を抜きにした評価がなかなか難しくはあるのですが、聴き手側からの好きを全て受け止めて余りある、いい意味での隙と熱量(ひとことで言うなら青さ)を内包していたバンドだと思います。




自分にとってのリアタイはRAVENとかROSSO二期の頃で、特にRAVENはちょっと背伸びしたい当時の心境と丁度マッチした音像だったこともあり、レンタルして録音したMDを結構聴いていた記憶があります(その後CDも買った)。ウォークマンに変わった今でも突発的に再生ボタンへ手を伸ばすことがあったり。Chevy好き。



その後のThe Birthdayの頃にはロック以外のジャンルにも興味を持ちはじめていたので、音源をタワレコで試聴した上で財布と相談、あわよくば中古で安くなったら手元に…ぐらいの優先度になりましたが、カッコいいと思った曲は動画で復習したり、たまたま買ったマンガのサブタイにKIKI The Pixyが引用されていて、ちょっぴりテンションが上がったりしていました。




他にもチバに憧れて顎ひげをたくわえてた先輩の話とか、学祭で見たミッシェルのコピーバンドの話とか、レンタルで視た青い春の劇伴が超カッコよかった話とか、新卒の頃にゲット・アップ・ルーシーをアラームにしていてキライになりかけた話とかをひねり出せなくもないのですが、訃報を聞いた後の自分の感情を【悲しい】に定義しかねる部分があり、安易な感傷を起点に自語りし続けてもあまり意味がないので※、この場では深掘りせず羅列のみに留めておきます。



※あくまでセルフツッコミであり、今回の件で発信している他の方々を貶す意図はありません。人の死に思うこともそれにどう対処するかも千差万別で、それが故人や他者への攻撃に向かわない限りは尊重されるべき、というのが自分のスタンスです。念のため。



Ba./Dr.


【悲しい】という強い感情が不適切とはいえ、フラットでいられるほどでは勿論なく、距離感としては【寂しい】が今のところ一番近いかなと思っています。ストライクゾーンには入っているけど、自分の芯を食うほどじゃないというか。言葉にすると身も蓋もない気がしますが、それでも今回の場合は喪失感より勿体なさが先に来る感じが凄くあって、それがこうして記事を書くに至ったきっかけでもあります。



勿体なさの理由は2つあって、ひとつめはやっぱり声です。


ヒロトやマサムネや清志郎みたく、声質が名刺を兼ねているヴォーカリストの中にチバも間違いなくカテゴライズされているので(ミッシェル後期あたりからガチのオンリーワンになった印象)、自分みたいな後追いファンは勿論、初見さんがフェスで触れる機会さえ金輪際訪れないというのは結構な損失だと思います。


あとSIONとかトム・ウェイツもそうなんですけど、がなり声・しゃがれ声って年取る度に深みが増してくんですよね。音源として遺されたのは50代のチバ声までですが、可能ならその先どういう風に鳴るのかを聴いてみたかったです。


Ba./Dr./Gt.1


それでふたつめの理由ですが、こちらの方がむしろ本題で、チバの生前最後の曲がめちゃくちゃ良かったからです。





『THE FIRST SLAM DUNK』のオープニング用に書き下ろされた曲です。100億以上稼いだ映画なので、これがチバの初体験という方も結構いるのではないでしょうか。月夜の残響ep.でもトリを飾っているので、実質これがキャリア最後の曲という前提で話を進めていきます(ストリートスライダーズのカバーはオリジナルではないので除外)。


この曲の肝は完全にイントロで、各パートが1つ1つ重なっていくアレンジを井上監督からオファーされた、と映画のパンフレットにて明かされています。そんな本編のオープニングはこの曲をバックに、井上監督が湘北スタメンをひとり下書き→書き終わったメンバーが歩きだす→隣に次のメンバーを下書き、を繰り返し、最後にスタメン全員が横一列に並んで前向きに歩く、という構成になっています。


この演出、井上絵に命が吹き込まれる瞬間を体験できるだけでも快楽指数が高いのに、ぶっきらぼうな音像が段々組み上がって曲になっていく過程と、仲良しこよしじゃない問題児軍団がエゴを保ったままひとつのチームになる描写が完全にシンクロしており、控えめに言って最高の仕上がりだと思います。個人的に映像と音楽の相乗効果が凄いタイトルクレジットは『ゴジラvsメカゴジラ』と『魔女の宅急便』の2強なんですが、本作もそれらに匹敵するほどの素晴らしさで、この部分だけを目当てに映画館リピートしたぐらい好きです。多分円盤も買う。


(動く井上絵ほんと至高)




映画の話はほどほどにして曲に戻ると、こんな風にレイヤーを1つ1つ重ねてグルーヴを立ち上げるイントロって、古今東西ロックバンドの最強必殺技なんですよね。威力80、優先度+2、命中100無効なしタイプ一致、みたいな感じ。このアレンジを表す音楽用語を見つけられなかったので、自分は勝手に『天使のロック進行』と呼んでいますが、正式名称をご存じの方はぜひ教えて下さい。



ソースが手元にないんで間違ってたら申し訳ないんですが、むかしBRIDGE誌上での銀杏BOYZ峯田とくるり岸田の対談時、『バンドはメンバー全員を天才にする』みたいな話が出ていて、妙に納得した覚えがあります。ロックバンドの魅力って多分そういうとこで、他人同士寄り集まって音を鳴らしただけなのに、『理由は説明できないけど、1+1の出力がなぜか2よりも大きくなった』時のワクワク感が全てだと思うんですよね。物語を託すに値するロマンがあるというか、陳腐な表現になるけどバンドマジックってやつ。


その点を踏まえて聴くと、件のイントロはつまるところ『1+1=more than2のマジックを、バンドメンバーの数ぶん丁寧にタネ明かしして教えてくれてる』ということなので、こんなん構造的にブチ上がらないわけがないんですよね。演奏してる側だって全員にスポットライトが当たるんだから、裏方にまわるだけより絶対楽しいはずです。ソースは俺。



あと去年タイパが流行語になった際、最近の音楽もタイパ重視でイントロがなくなってきてる、みたいな風潮が一時期あったかと思います。サブスク全盛の時代だから、おいしいところをすぐに聴けない楽曲は飽きられてどんどん飛ばされちゃうってやつ。


それが正しいかどうかは一個人では判断しかねますが、少なくともイントロ自体に飯を食えるだけのパワーがあり、それがそのままバンドとしての魅力にもなっているこの曲の場合、安易な聴き流しを許さない要素がサブスクでもちゃんとあった気がするし(特に映画を見て好きになった人は絶対最初の1音目から聴きたくて再生するはず)、なんならこれがきっかけでバンド沼に足を踏み入れた人もそこそこいると思うんですよね。


そういった人達が後々ルーツを振り返った時、初めての推しをリアタイする機会がもうないというのは、自分にも似た経験があるのでやっぱりしんどいよな、と思ってしまいます。特にイントロがカッコいい曲ってライヴだと絶対映えるので。なおさら辛い。



Ba./Dr./Gt.1/Gt.2


たらればの話をできればずっとしてたいし、お別れが早すぎるというのは言うまでもなくそうなんですが、起きてしまった事象ベースで考えた場合、チバの音楽キャリアは結果的にキレイな形で終わった、というこじつけもできなくはないです。



チバのメジャーでのキャリアの始まり、ミッシェルの1stシングルです。『世界の終わり』で始まるところからして物語を引き受ける気満々の青さを感じますが、特筆すべきはLOVE ROCKETS同様、この曲も1パートずつ音を重ねていくタイプのイントロだということです(ドラムの入り方がちょっと変則的ですが)。


先述の通りチバ声には強力な記名性があって、客演した時の存在感もすごいんですが
(Q;indivi+のACACIAめっちゃ好き)、個人的にはあくまでもロックバンドの一員として、ギターヴォーカルというパートの中でいかにふさわしい歌い方・振る舞い方ができるかを追求してきたミュージシャン、という認識でいます。



そんなチバのキャリアの最初と最後が、どちらも彼ひとりにスポットを当てる形ではなく、メンバー全員が主役になるタイプのイントロで始まる曲だった、というのは、生涯いちバンドマンという物語の一貫性がとれていて、偶然の一致であろうと最高にカッコいいな、と思います。


Ba./Dr./Gt.1/Gt.2/Vo.


お会いしたことがないので心情をはかったりはできませんが、ロックバンドってフォーマットの制約上結局は人間力の勝負になってくるところがあって、インタビューとかを読む限り、チバはその部分について最後まで真摯に努力し続けた人だと思っています。


で、そういう人間力の部分って目に見えにくい細部に宿るものなので、受け取り手側にジャンルについての素養がない場合、差分を認識できずにスルーしちゃうこともあるんじゃないかな、という気がします。



普段から音楽に関するnoteを書いてるわけじゃなく、そんなにロックバンドに詳しくない人がこの記事を踏む可能性もあるので、ここからはちょっとだけ布教パートとして、LOVE ROCKETS 同様、天使のロック進行のイントロで始まる曲をいくつか貼っていこうと思います。



一応の追悼記事でチバ以外のミュージシャンの曲を積極的に紹介するのはどうか?とも考えましたが、リンク先の曲を聴いた方のロックバンドへの興味関心の度合いが上がり、結果チバの功績を感知する確率が0.1%でも上がるのであれば、トピックの風化を防ぐことにも繋がるし、まあ悪くはないかな、と。しんみりするよりかは爆音鳴らした方がバンドマンの追悼マナーに合ってる気もしますし。


基本的に取り上げるのは有名どこばっかです。ひとことコメントつき。理想は公式のチャンネルからリンクを引っ張ってきたいですが、そうじゃないやつもあるのでご容赦ください。






これ系のイントロで個人的に一番好きなやつ。全員揃ったあと少しだけ遊んで、「じゃあやりますか」って感じで一気にギアあげるのめっちゃカッコいい。



ゴジラKOMで使われてたやつ。コンパクトなのでサブスクでも戦えそう。



大好きなバンド。この人達も完結までの物語がめっちゃ綺麗なので、そのうちなんか書きたい。



演奏始まる前の変な機械音含めてカッコいいやつ。歌詞もステキ。


面白い少年漫画の第一話みたいなワクワク感。



ジミヘンはリズム隊も普通にカッコいい。



もっと知られてもいいのにな、と思ってるバンド。ヴォーカルの人が書く文章面白い。



中2を突き詰めた結果異次元に到達してしまったバンド。イアンの踊りは情けないんだけど見てるとちょっと勇気がもらえる。



メンバーみんなスマパン好きだったはず。それが良くわかるイントロ。



2~3人斬ってそうなカッティングギター。怖い。



軽音楽部御用達。




軽音楽部御用達その2。




究極形。一曲通した構成が素晴らしいので、長いけどぜひ最後まで聴いてほしい。





Outro


故人にとって一番悲しいのは、忘れられることです。



人間の記憶のメインストレージは脳内ですが、それ以外に5感が外付けHDDの役割を果たしてる部分もあって、景色や音や匂いをきっかけに忘れてたことがフラッシュバックされたりします。


その中だと音楽って再生には電気使うし、演奏もアカペラ以外は楽器やらハコやら色々使うしで、有事の際は真っ先にオミットされがちなんですが、認知症になった方でも昔の流行歌は結構歌えるみたいに、記憶の外付けHDDとしては割と長期にわたって機能すると思うんですよね。


チバの人生はチバのもので、音楽も基本的には鳴らした側に主導権があるものですが、聴いた時の記憶だけは聴いた人それぞれで曲の中へ格納することができて、やがて忘れても音楽を媒介にもう一度再生ができるようになります。


残念ながらライヴ会場が記憶の格納庫になることはもうないですが、音源でも本質の部分が変わるということはないはずなので(LPのことをアルバムって呼ぶのはそういう意味合いもあるような気がする)、古参新規問わず遺された音楽を再生して、ずっと先まで思い出せるように曲の中へ記憶をいっぱい詰め込んでおく、というのが、逝去したミュージシャンに対する一番の供養じゃないかな、と思います。



ご冥福をお祈り致します。














Intro(reprise)





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