おいで…おいで…。
毎年夏休みになると、私は今でも思い出すある出来事があります。
まだ私が小学校低学年の頃の話です。
毎年夏休みになると、決まって私の家族は祖父母の家に2、3日遊びに行きます。
その日も毎年と変わらず、祖父母の家で兄弟や従兄弟たちとかくれんぼをして遊んでいました。
祖父母の家は2階建てになっており、私は2階に隠れる事にしました。
2階には3つの部屋があります。
1つ目は父と伯父さんの部屋。
2つ目は叔母さんの部屋。
そして3つ目の部屋は祖父母の部屋です。
3つの部屋の中で祖父母の部屋は1番広く、隠れる場所も沢山あるのでかくれんぼには1番最適な部屋でした。
しかし、当時の私は祖父母の部屋だけは隠れようとは思えませんでした。
自分でも何故かは分かりませんでしたが、祖父母の部屋には“何か”があるように思えました。
結局私は父と伯父さんの使っていた部屋のタンスに隠れ、あっさりと見つかってしまいました。
鬼役の従兄弟は私を見つけると、私を置いてすぐに他のみんなを探しに行ってしまいました。
私もみんなの所に行こうと廊下を歩いている時でした。
祖父母の部屋から何かがこちらをじっと見ている事に気づきました。
私はこちらを見ているのが誰なのかが気になり、祖父母の寝室の前に立って、部屋の中にじっと目を凝らしました。
私を見つめていたのはどうやら男の人の様で、ベッドの上に横になりながらこちらを見ていました。
私は初め祖父なのかと思い、電気もテレビも着けずこちらを見ているのが不思議に思い、思わず話しかけました。
「おじいちゃん?」
しかし、男は何も言わず、ただこちらをじっと見ているだけでした。
返事の返ってこない男を不思議に思いながらも、私はもう下の階に行こうかと思い、部屋から目を離した次の瞬間でした。
「おいで…おいで…。」
微かにしわがれた声が部屋から聞こえてきました。
もう1度部屋の中を見てみると、男が私に向かって、ゆっくりと手招きをしていました。
私はそれを奇妙に思いながらも、大好きな祖父が私を呼んでいるからと、ゆっくりと部屋の中に足を踏み入れました。
男は私が部屋に入ると、ゆっくりと私に向かって手を伸ばしてきました。
私がその男の手を掴もうと手を伸ばそうとした時でした。
「何してるの?」
振り返ると、そこには従兄弟が立っており不思議そうにこちらを見ていました。
「お母さん達がご飯にするから早く降りて来いだって。」
どうやら、いつまで経っても2階から降りて来ない私を呼びに来てくれたようでした。
「分かった。」
そう言って私は男に背を向けて従兄弟と一緒に1階の母たちの元へ行きました。
1階のリビングに行くと、もうご飯が用意されており、私は席に着いてみんなとご飯を食べ初めました。
私は今さっきあった出来事を皆に話すと、祖母のご飯を食べる箸が止まりました。
「今日はおじいちゃん家に居らんよ?」
「えー、でもベッドで寝とったよ?おじいちゃんじゃないならパパ?」
「何言っとるとね。あんたのお父さんは今日仕事やないの。」
「じゃあ私が見たのって誰?」
私はご飯を食べるのを途中で止めて、走って2階の祖父母の部屋に行きました。
そっと中を覗いて見ると、そこにはもう誰も居ませんでした。
後から従兄弟に聞いた話だと、私を呼びに祖父母の部屋に行った時に、そこには私1人しか居なかったと言っていました。
それに今考えてみると、あの時部屋の中は真っ暗で中の様子が分かるはずもありませんでした。
何故あの時何者かの視線が分かったのでしょうか。
何故私はその何者かが男だと分かり、手招きしているのが見えたのでしょうか。
今でも思い返してみると分からない事ばかりです。
あの男は祖父母の家に来た泥棒だったのでしょうか。
それともこの世の者では無かったのでしょうか。
ただ、あの時、あの男の手を掴んでいたら…
私は今此処には居なかったかも知れませんね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
長ったらしい駄文、失礼いたしました。