『青鬼 元始編』ボツ原稿05
第5話 せんけつ (5)
直樹「……ねえ、ひろし君」
ひろし「はい?」
直樹「昨日の夜、公園にいたんだよね?」
ひろし〈金庫のほうを見つめたまま〉「はい。あそこは虫の宝庫ですから」
直樹「虫以外になにか見かけたものはなかった?」
ひろし「いいえ。とくになにも」
直樹「本当に?」
ひろし「そういえば、地面に魔法陣のようなものが描かれていましたっけ」
振り返るひろし。
ひろし「どうして、そんなことを訊くのですか?」
直樹「あ……えーと……僕もさ、ゆうべは公園で虫の採集をしていたんだ」
ひろし「ああ。だから、爪が黒く汚れていたのですね」
直樹「うっかり、公園に虫かごを置いてきちゃって……もしかして見かけなかったなと思ってさ」
ひろし「いえ。残念ながら見ていません。公園には何時頃、出かけたのでしょう?」
直樹「……6時頃だったかな?」
ひろし「僕が公園にいたのは8時過ぎなので、その間に誰かが拾ったのかもしれませんね」
ひろしの表情をうかがう直樹。
直樹(……嘘をついているようには見えない。ということは、ひろし君は僕の姿を見ていなかったのか?)
ほのかを見やる直樹。ほのかはにっこりと頷く。
直樹(僕に呪い返しはかかっていない。だったら……)
玄関のキーを取り出す直樹。
直樹「ひろし君。すぐにここから脱出しよう。玄関のキーならここにあるから」
ひろし「え? しかし、まだ気になることが……」
直樹「そんな悠長なことをいってる場合じゃないよ。ここには怪物がいるんだ。もたもたしてると僕ら全員、殺されちゃうかもしれない」
ひろし「……怪物。たけし君もそんなことをいっていましたね。凶暴な野良犬でも迷い込んだのでしょうか?」
直樹「犬? 全然、違うよ。さあ早く。一緒に逃げよう」
▼玄関ホール
玄関ホールにたどり着く3人。直樹は鍵穴にキーを差し込むが、扉はびくともしない。
直樹「あれ? おかしいな」
乱暴にキーを動かす直樹。
直樹「どうして開かないんだ? 開け。開けってば」
▼廊下
廊下に点々とついた血のあと。血は2階客間へと続いている。
血にわらわらと集まる軟体動物系青鬼(2話と同じもの)。
そこに巨大な人影が重なる。いっせいに逃げ出す軟体動物系青鬼。大きな足が床を踏みつける。
▼2階客間
血のあとは部屋の隅のクローゼットへと続いている。
クローゼット内。がたがたと震えるたけし。
たけし「なんだよ。なにが起こってるんだよ。もうイヤだ……こんなところ、1秒だっていたくない。母ちゃん……助けてくれよ」
扉の開く音。
たけし「誰だ? ひろしか?」
返事はない。
突然、クローゼットが激しく揺れ動く。
たけし「やめろ、やめろ、やめろ」
横倒しになるクローゼット。衝撃で扉が開く。たけしを見下ろす青鬼の姿。
たけし「やめて……お願い」
にやりと笑う青鬼。
たけし「ああああああああっ!」
屋敷内にひびくたけしの悲鳴。
壁に飛び散る鮮血。
第5話終わり
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