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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本28

時の館の逆転(12)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、息子の時田龍頭を殺害、77歳
X時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事

▼シーン11

 幸丸と共に玄関ロビーへ現れる針之輔。糸鋸の姿はない。

〈針之輔〉[激怒しながら]「こんな時間に一体なんの用だ? 非常識にもほどがあるぞ」
〈御剣〉「申し訳ない。どうしても伝えたいことがあったので」
〈針之輔〉「明日にしてもらえないか? ワシが時間に厳しいことは君も知っておるだろう?」

 引き返そうとする針之輔。

〈御剣〉「息子である時田龍頭社長を殺したのはあなただ」

 針之輔の動きが止まる。

〈御剣〉「時計のゼンマイを巻くからといって、皆の前から離れた午後11時から11時半の30分間に殺害したのだろう」

 静かに笑う針之輔。

〈針之輔〉[ゆっくりと御剣のほうを振り返り]「正気かね? 脚の悪いワシに、わずか30分で駐車場とここを往復することは不可能だ」
〈御剣〉「いや、それができるのだよ。片道だけだが、今から実験してみせよう」

 ドアを開け、駐車場を指し示す御剣。外灯に照らされ、車椅子に乗った糸鋸が手を振る。

〈御剣〉[携帯電話越しに]「では行くぞ、刑事」
〈糸鋸〉『準備万端ッス! いつでもOKッス!』
〈御剣〉[ストップウォッチを取り出し]「用意……スタート」

 携帯電話から『うおおおおっ!』と糸鋸の雄叫びが響き渡る。

〈針之輔〉「バカバカしくてつき合ってられないな。茶番は終わりにしてもらおう。ワシは忙しい身なのだ」
〈御剣〉「それほど時間はとらせない。刑事なら10分以内に到着するだろう」
〈針之輔〉「10分? 車椅子に乗ったままでか? 不可能だ」
〈御剣〉「いいや。階段でもなく、迂回路でもない――第3のルートを使えば、あなたにも犯行は可能だった」
〈針之輔〉「……第3のルート? どこにそんな道があるというのだ?」
〈御剣〉「あそこだよ」

 立ち並ぶ5棟のマンションを指差す御剣。光の道が浮かび上がる。

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[黒田コメント:下手な絵ですみません。わかりにくいと思うので補足。階段横のマンションは坂道に建っているため、表口と裏口で階数が異なります。建物内をエレベーターで移動し、裏口から出れば、車椅子でも難なく坂道を上っていけます。時田針之輔はこのトリックを使うため、ルート上にある部屋をすべて購入しました。犯行後、部屋の明かりを消さなかったため、翌日の真夜中、ほかの部屋の明かりがすべて消えたときに、犯行ルートだけが光の道となって浮かび上がったというわけです]

〈御剣〉「マンションの住人の話によると、昨夜遅く、乱暴にドアを開け閉めする音が聞こえたそうだ。エレベーターを乗り継ぎ、マンション内の部屋を通過していけば、この屋敷と駐車場の往復など実に簡単だったろうな」

〈針之輔〉「…………」
〈御剣〉「先ほど、確認させてもらった。明かりのついている部屋はすべて、アンティーク時計が飾られていたよ。どれもあなたが借りている部屋なのだろう?」

 そこへ車椅子に乗った糸鋸が現れる。

〈糸鋸〉「到着ッス!」
〈御剣〉[ストップウォッチを止め]「7分20秒。思ったよりも早かったな」
〈糸鋸〉「バリアフリーッス。どの場所も段差がまったくなかったから、楽勝だったッス」

                           つづく

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