『青鬼 元始編』ボツ原稿02
第5話 せんけつ (2)
たけし「直樹。おまえのせいだぞ。おまえが急に現れたりするから。……いてえ。いてえよ。鼻の骨にヒビが入っちまったかも」
たけしの言葉に、イラつく直樹。
直樹(……たかが転んだくらいで大げさな。僕は卓郎にもっとひどい仕打ちを受けているんだぞ。それをおまえはただ笑って見ているだけだろう?)
小刻みに体を震わす直樹を、心配そうに見上げるほのか。
ほのか「お兄さま……大丈夫ですか?」
たけしを睨みつける直樹。
直樹(みんな……みんな、消えてしまえばいいのに。死んでしまえばいいのに)
たけし「う、うわあああああっ!」
立ち上がるたけし。怯えた視線は直樹に注がれている〈実際にたけしが見ていたのは×××。人一倍臆病者のたけしは、悪しき者の雰囲気を嗅ぎ取ることに敏感。そのため、×××の正体にうっすら勘づいてしまった〉。
たけし「おまえ、何者だ? オレたちをどうするつもりだよ?」
ひろし「たけし君、どうしました?」
たけし「た、助けてくれえええっ!」
その場から逃げ出すたけし。階段のほうへ。直樹たちの前から姿を消してしまう。
ひろし「一体、どうしたというのでしょう?」
直樹(……僕を見て怯えた? どうして? 僕の殺意が伝わったから? それとも、僕が呪われた存在だから?)
ほのかの姉に襲いかかった怪物のことを思い出し、鼓動が大きくなる。
直樹(イヤだ、死にたくない。呪いを解くためにはやっぱり、ひろし君を殺さなくては)
ひろし「ところで直樹君。見てもらいたいものがあるのですが」
直樹の殺意に気づくことなく、洋間へと入っていくひろし。
▼1階洋間
ひろしに続いて、洋間に足を踏み入れる直樹とほのか。部屋の中央にグランドピアノ。壁には棚。
ほのか「あ。大きなピアノ」
直樹のそばを離れ、グランドピアノに駆け寄るほのか。
直樹「……弾けるの?」
ほのか「少しだけなら。でも、いくら練習しても下手くそで。だから、いつもお母さまに怒られてばかりでした。ほのかと違ってお姉さまは上手でしたけれど……」
鍵盤に触れ、ぽろぽろと涙を流すほのか。
ほのか「お姉さまではなく、ほのかが死んでしまえばよかったのに……」
直樹「……ほのかちゃん」
涙を流すほのかの背中をそっと撫でる直樹。
つづく
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