『青鬼 元始編』原稿14
第4話 にげみち(4)
直樹(印刷がかすれていてはっきりとはわからないけど、僕が読んだ黒魔術の本に載っていた魔法陣とよく似ている)
ほのか「ここには、メサイア様に似せた人形を使って願いを叶える方法が記されています。ただし、それは本物のメサイア様ではありませんから、よくないものを招き寄せてしまうこともあるそうです。……あ、もしかしたらこの人形って……」
不安そうに直樹を見上げるほのか。
直樹「よくないものを招き寄せてしまったときはどうすればいいの?」
ほのか「えーと……待ってくださいね。ここに詳しく書いてあります」
本を指でなぞりながら、文章を読み上げるほのか。
ほのか「……もう一度魔法陣を描き、先の儀式で使用した人形を使って悪しき者を召還すべし」
途中からその口調は幼い少女のものではなくなり、まるでなにかにとり憑かれたような感じとなる。
直樹「……ほのかちゃん?」
ほのか「生贄を一人差し出すことにより、己の命は救われる」
直樹「……生贄」
生唾を呑みこむ直樹。
直樹(無理だ。この本だけでは正確に魔法陣を描くことなどできないし、人形の頭は公園に落としてきてしまったから完全ではないし……)
ほのか「儀式は一人きりで行なわなければならぬ。もしも儀式を他人に見られた場合は、その者をただちに殺害すること」
ひろしの顔を思い出す直樹。
直樹(……やっぱり、ひろし君を殺すしかないのか?)
机の上のアイスピックに目をやる。
ほのか(もとのあどけない表情に戻り)「……お兄さま? どうかしましたか? 具合でも悪いのですか?」
心配そうに直樹の顔を覗き込むほのか。
直樹「ううん。ほのかちゃんこそ大丈夫?」
ほのか「はい」
直樹「だったら、今すぐここを出よう」
ほのかの手を握る直樹。
直樹「玄関の扉を開けたら、君はまっすぐ家に帰るんだよ。いいね?」
ほのか「お兄さまはどうするのです?」
直樹「僕は……まだ、この屋敷でやることが残っているから」
ほのかに気づかれぬようアイスピックを手に取る直樹。2人は手を取り合って部屋を出る。
誰もいなくなった書庫。机の上にはメサイアについて記された本が開いたままの状態で置いてある。どこからか吹いてきた風でページがめくれる。新たに開いたページには、青鬼の形に似た黒い影が描かれている。その下には「~α〇£」(メサイア)の文字。
つづく
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