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『青鬼 元始編』原稿10

第3話 きずあと(3)

 ベッドの影に隠れる2人。直樹はほのかと身を寄せ合う。
 部屋の外では廊下の軋む音。何者かがゆっくりと歩いている(不気味な感じで)。
 ほのかの腕や脚にたくさんの痣を見つける直樹。

直樹「……どうしたの? この痣?」

ほのか〈顔色を変え〉「なんでもありません」

 服の袖を引っ張り、痣を隠そうとするほのか。

ほのか〈表情を曇らせ〉「ほのかはドジだから、いつもすぐに転んでしまうんです。本当です。嘘なんてついてません。本当にそれだけのことです」

 なにか事情がある(自分と同じように虐められているのでは?)と察した直樹は、彼女を安心させようと自分のシャツの袖をめくる。

直樹〈腕の痣を見せながら〉「僕と一緒だね。僕もすぐに転んでしまうんだ」

ほのか〈直樹の痣に触れて心配そうに〉「ほのかよりひどいです。……痛くありませんか?」

直樹「もちろん痛いよ。だけど痛いと思ったら、ますます痛みが大きくなっちゃうだろう? だから、そういうときはいつも笑うことにしているんだ」

 直樹の回想。卓郎に髪を引っ張られ、地面にうずくまる直樹。それを愉快そうに眺めるたけし。

たけし「ひどい格好だな、直樹」

卓郎〈むしった髪の毛を右手につかみ〉「おまえ、こんなふうにされてもへらへらと笑っていられるんだな。そうか。俺にいたぶられるのがそんなに嬉しいのか。じゃあ、もっとやってやるよ」

直樹(だけど……痛みに耐えて笑うたび、僕の心は壊れていく気がする……)

 唇を噛みしめる直樹。そんな彼の様子を見て、ほのかは直樹の痣をやさしく撫でる。

ほのか「お兄さまは強いんですね。ほのかもお兄さまを見倣って、これからは笑うことにします」

 笑顔を見せるほのか。その屈託ない表情に、直樹の心もわずかにほぐれる。
 とそのとき、ドアをノックする音が聞こえる。

ほのか〈小声で〉「きっとお姉さまです。見つからないようにしないと」

声「ほのか! あんたは一体、こんなところでなにをやってるわけ?」

 その声にびくりと身体を震わせるほのか。

ほのか〈立ち上がり、ひどく怯えた様子で〉「ごめんなさい。ごめんなさい、お母さま。すぐにおうちに帰ります。だから、ぶたないでください。お願いします」

 ドアが開き、ほのかによく似た少女が姿を見せる。

少女〈笑顔で〉「ほのか、見-つけた」

ほのか〈唖然と〉「……お姉さま」

 ほのか、すねた様子で姉に責め寄る。

ほのか「ひどいです。お母さまの声を真似るなんて」

姉「だって、こうでもしなくちゃ、見つかりそうになかったんだもん」

 ベッドのそばに立つ直樹に気づく姉。

姉「……あなたは?」

ほのか「え? お姉さまの彼氏さんでしょう?」

直樹「いや、僕はその……」

 どう答えてよいかわからず戸惑う直樹。

直樹「……かくれんぼの邪魔をしてごめんなさい。僕、もう行きますので」

 ドアに近づくと、そこに突如、青鬼が現れる。

直樹「え?」

 青鬼の瞳に映る直樹の姿。呆然と立ち尽くす直樹。

直樹「なに……これ?」

 直樹に襲いかかろうとする青鬼。

直樹(もしかして……呪い返し?)

姉「危ない!」

 姉に突き飛ばされ、部屋の壁に背中を打ちつける直樹。

直樹「痛て……」

 頭を押さえ、顔を歪める。

ほのか「いやあああああああっ! お姉さまっ!」

 目前の光景に愕然とする直樹。
 息絶えた姉をむさぼり食う青鬼の姿。

第3話終わり
第4話につづく。


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