『青鬼 元始編』原稿09
第3話 きずあと(2)
▼2階寝室
悲鳴を聞き、2階へ駆けつけるひろし。
ひろし「誰かいるのですか?」
寝室へと足を踏み入れるひろし。床には青い着ぐるみ人形が脱ぎ捨てられている。
小刻みに揺れるクローゼット。
ひろし「玄関ロビーにはビデオカメラがセットされていましたし……なるほど。大体のことはわかりました。卓郎君たちですね? 怪物の写った写真のことを僕が否定したので、意地になって驚かそうとしたわけですか?」
クローゼットを開けるひろし。
中ではたけしが震えている。
たけし「ひろし……助けてくれ……怪物が……青い怪物が……」
ひろし「下手な芝居はもう結構です。卓郎君はどこにいますか?」
たけし「ジェイルハウスの噂は本当だったんだ。ここには人を食らう青い肌の化け物が……」
ひろし「ばかばかしい。そんな非科学的なものがこの世に存在するはずないでしょう?」
たけし「嘘じゃない! なんでもかんでもわかってると思うなよ、脳味噌野郎!」
ひろし〈ため息をつき〉「そろそろ家に帰りたいので、玄関の扉を開けてもらえませんか?」
たけし「鍵ならそこにある……」
部屋の隅を指さすたけし。へしゃげたキーが落ちている。
ひろし〈キーを拾い上げ〉「これでは使い物になりませんね」
たけし「どうしよう? 怪物が折り曲げちまった。オレたち、ここから出られないんだ。どうすればいい? おまえ、頭いいからわかるだろう? オレたち、どうすれば助かるんだよ?」
ひろしの肩をつかみ、必死の形相を浮かべるたけし。
戸惑うひろし。
▼子供部屋
ドアのそばに立ち尽くす直樹。
直樹「……誰?」
少女「残念です。見つかっちゃいました」
10歳くらいの可愛らしい少女がベッドの影から現われる。
ただし、無表情。
少女「あれ? お姉さまではなかったのですね」
直樹「……君は誰?」
少女「ほのかです。失礼ですが、お兄さまは?」
直樹〈戸惑いながら〉「……直樹だけど」
ほのか「ナオキ? あ。もしかして、お姉さまの彼氏さんですか?」
直樹「え?」
ほのか〈頭を下げて〉「はじめまして。いつも姉がお世話になっております。不束者の姉ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたしますです」
直樹「いや、僕は……」
ほのか「お姉さまが、今日はかくれんぼの得意な友達を連れてくるからって嬉しそうに話してましたけど、それってお兄さまのことだったんですね」
直樹「……かくれんぼ? 君、ここでかくれんぼをしているのかい? 早く家に帰らないとお母さんが心配するよ」
ほのか〈表情を曇らせ〉「……お母さま? あの人が心配するはずはありません」
直樹「玄関の扉には鍵がかかっていただろう? 一体、どこから入ってきたの?」
ほのか「え? だって、お兄さまも同じところから入ってきたんでしょう?」
直樹「違うよ。僕は……」
ほのか(直樹の腕を引っ張り)「隠れてください!」
直樹「え?」
ほのか「お姉さまが探しに来ました」
つづく
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