『青鬼 元始編』原稿16
第5話 せんけつ(1)
▼直樹回想
職員室。教師と向かい合う直樹。
教師「その腕の傷はどうした? 誰かにいじめられているんじゃないのか?」
直樹「……いいえ。ちょっと転んだだけです」
教師「そうか。それならいいんだが」
直樹「話はそれだけですか? では、失礼します」
立ち上がり、職員室を出る。
直樹〈独白〉[本当のことを話したところで、どうせ先生はなにもしてくれない]
教室に戻ってくる直樹。休み時間を楽しそうに過ごす同級生。その間をすり抜け、黙って席につく直樹。
直樹〈独白〉[僕には悩みを打ち明ける友達もいない]
卓郎「おい、直樹。職員室に呼び出されたんだろう? なんの話だったんだ?」
直樹「べつに……たいしたことじゃないよ」
卓郎〈耳もとでささやくように〉「まさか、俺にいじめられたとかチクったりしてねえだろうな」
直樹「しないよ……そんなこと」
直樹〈独白〉[だから、僕は我慢するしかなかった。たった一人で戦うしかなかったんだ。これからもずっと……ずっと……いつか自分が壊れるその日まで]
▼1階洋間前
廊下で出くわす直樹とひろし(たけしはまだ室内)。ほのかは恥ずかしそうに、直樹の背中に隠れる。
ひろし「……直樹君」
直樹「あ……あの……」
動揺を隠せない直樹。後ろに回した手にはアイスピックが握られている。直樹の後ろに隠れたほのかに気づくひろし。
ひろし「その女の子は?」
直樹「あ……ほのかちゃんだよ。この屋敷で遊んでいるところを見つけたんだけど」
ひろし〈とくに感心を示さず〉「そうですか」
廊下を歩き、別の部屋のドアを調べるひろし。
ひろし〈ノブを動かしながら〉「ここも鍵がかかっていま――」
しゃべっている途中でノブが回る。
ひろし「いや、どうやら錆びついていただけのようですね」
ゆっくりとドアを開けるひろし。
つづく
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