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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本20
時の館の逆転(4)
《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、息子の時田龍頭を殺害、77歳
X時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事
▼シーン5
〈糸鋸〉「251……252……」
ぜいぜいと荒い息を吐く糸鋸。それに対して、御剣はすました表情。
〈老婆〉「ああ、ここだよ。どうもありがとう」
一番高いところにあるマンションの前で老婆を降ろす糸鋸。
〈老婆〉[糸鋸の顔を覗き込んで心配そうに]「あんた、大丈夫かい?」
〈糸鋸〉[あえぎながら]「これくらい……へっちゃらッス」
〈老婆〉「本当にどうもありがとうねえ」
何度も礼をいい、立ち去る老婆。手を振る糸鋸。
〈糸鋸〉「いやあ、いいことをしたあとは気持ちいいッス。ちょっとひと休みして……」
〈御剣〉「では先を急ごうか」
〈糸鋸〉「ひいッ! 検事殿は鬼ッス!」
さらに階段を登る2人。
〈糸鋸〉「298、299、300……はひい。ようやく到着したッス」
呼び鈴を鳴らす御剣。中から幸丸が現れる。
〈糸鋸〉[ぜいぜいとあえぎながら]「……警察の者ッス。……時田会長とお話がしたいッス」
〈幸丸〉「申し訳ございません。旦那様はただ今、取り込み中でして……。しばらくの間、大広間でお待ちいただけますでしょうか」
大広間へ案内される御剣、糸鋸。テーブル上には使用済みのワイングラスが置かれたままになっている。
〈幸丸〉「申し訳ありません。昨晩、旦那様の喜寿をお祝いするパーティーが開かれまして……実はまだ、あとかたずけが終わっていないんでございます。すぐにかたづけますので」
〈糸鋸〉「全然キレイじゃないッスか。これがちらかっているというのなら、自分の家は祭りのあとのゴミ捨て場ッス」
御剣、窓の外に目をやる。眼下に殺人現場となった駐車場が見える。
〈御剣〉「時田会長は今どこに?」
〈幸丸〉「午前11時まで、旦那様は音楽鑑賞をなされております」
〈糸鋸〉「へ? 音楽鑑賞? あの……息子さんがお亡くなりになられたことは、ご存知なんスよね?」
〈幸丸〉「ええ。しかし旦那様は時間に大変厳しく、たとえなにが起ころうと、一度決めたスケジュールは絶対に守り通されるおかたです。奥様が亡くなられたときもそうでした。毎朝午前10時からの1時間は音楽鑑賞を行なう日課となっております。私が執事になってから20年間、一度も欠かしたことはございません」
つづく
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