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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本27

時の館の逆転(11)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、息子の時田龍頭を殺害、77歳
X時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事

▼シーン9

 様々な検証を試みる2人。

〈御剣〉「階段を使って移動したらどうだ?」

 車椅子に乗ったまま、階段を駆け降りる糸鋸。

〈糸鋸〉「ひいいいいいっ!」
〈御剣〉「車椅子を使わずに転げ落ちる手もあるな」

 階段を転げ落ちていく糸鋸。

〈糸鋸〉「か、身体がもたないッス……」

 2人の様子を興味深そうに眺める老婆。

〈老婆〉「なにをやってるんだね?」
〈糸鋸〉「あ、さっきのおばあちゃん」
〈老婆〉「こんなところで遊んでいたら、近所の人たちから苦情が来るよ。昨日の夜も、ドアを乱暴に開け閉めする音が聞こえて眠れなかったと、息子が怒っていたからね」
〈御剣〉「……昨日の夜?」

 さらに、時間の経過。すでに陽はどっぷりと暮れている。駐車場。ボロボロの糸鋸。

〈糸鋸〉「御剣検事。もう深夜1時ッスよ。今日はこれくらいにしておきましょう」
〈御剣〉「いや、もう少しでなにかわかりそうな気がする。検証を続けるぞ」
〈糸鋸〉「えええ? まだやるッスか?」

 車椅子を抱え、階段を登っていく糸鋸。階段の下からマンションを見やる糸鋸。

〈御剣〉「おや? もしかして……」

 ふと老婆の言葉を思い出す。
 時田邸の大広間から漏れる明かり。窓際に立ち、御剣たちの様子をうかがう針之輔。

▼シーン10

 階段を登る御剣。マンション前に車椅子が放り出してある。建物の中を覗き込むと、部屋のドアがひとつ開きっぱなしになっている。

〈御剣〉「どういうことだ?」

 ドアから顔を覗かせ、室内を観察する御剣。水を流す音。すっきりとした表情の糸鋸がトイレから現れる。

〈御剣〉「刑事。不法侵入の現行犯で逮捕する」
〈糸鋸〉[慌てふためき]「あわわ、御剣刑事! 申し訳ないッス! 昨日食べたそーめんが腐ってたのか、急におなかが痛くなって……。非常事態だったッス! 大目に見てほしいッス!」
〈御剣〉「どうやって中へ入った?」
〈糸鋸〉「ロックされてなかったッス。窓から明かりが漏れていたので、トイレを貸してもらおうと思い、ドアをノックしたッス。でも返事がなく、ドアは簡単に開いたッス。悪いこととは知りながらも、下痢には勝てなくて……」[部屋を振り返り]「あれ? この部屋って……」

 室内にはたくさんのアンティーク時計が飾られている。

〈御剣〉「動かなくなったアンティーク時計を陳列しているようだな」
〈糸鋸〉「会長さんみたいな時計マニアがほかにもいるんスね」
〈御剣〉「いや、表札が時田になっている。ここはおそらく、時田会長の所有するマンションなのだろう」
〈糸鋸〉「なるほど。……でも、不用心ッスね。大切な時計を保管しているのに、明かりはつけっぱなし、鍵もかけないなんて……」

 御剣、床の上に巻き鍵を見つけ、拾い上げる。

〈御剣〉「これは――」
〈糸鋸〉「ゼンマイを巻くための鍵ッスね。どうしてこんなところに? この部屋の時計はひとつも動いていないのに……」
〈御剣〉「……やはりな」

 ほくそえむ御剣。

                           つづく

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