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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本21

時の館の逆転(5)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、息子の時田龍頭を殺害、77歳
X時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事

▼シーン6

 午前11時2分。ようやく大広間に針之輔が現れる。

〈針之輔〉「待たせてすまなかった。さあ、どうぞこちらへ」

 《時の間》と記された部屋へ案内される2人。ところ狭しと陳列されたアンティーク時計に圧倒される。すべての時計が正確な時間を刻んでいる。

〈針之輔〉「いかがかな? ワシのコレクションは」
〈御剣〉「……素晴らしい。まさしく芸術品だ」
〈針之輔〉[満足げに]「どの時計も、熟練の職人が手作業で仕上げたものばかりだからな。1台完成させるのに、想像を絶する手間と時間がかかっておる」
〈糸鋸〉「全部、正確な時間を示してるッスね。乾電池で動いてるッスか?」
〈針之輔〉[苦笑しながら]「まさか。動力はゼンマイだよ」[鍵束を取り出し]「ほら。文字盤に小さな穴が空いておるだろう? あそこへこの鍵を差し込んでゼンマイを巻くんだ」
〈糸鋸〉「へえ。面白そうッス。自分にもやらせてほしいッス」
〈針之輔〉「すまないがそれは無理だ。年代ものの時計というのはとても繊細でな、ちょっとした湿気やほこり、あるいはわずかな衝撃で壊れてしまうこともある。だから、ワシ以外の人間にはいっさい触れさせないことにしておるのだよ。とくに、ゼンマイを巻くときには気をつけなくてはならん。巻きすぎて切れてしまっても、巻くのを忘れて伸びきってしまってもアウトだ。最近では、もとどおり修理してくれる職人もすっかり減ってしまってな。だから、慎重に扱わなくてはならないのだ」
〈糸鋸〉「うわ。そんなふうに聞いたら、おちおちくしゃみもできないッス。壊したら大変。自分には絶対弁償できない額ッス。ふわ、ふわ……」

 慌てて口を押さえる糸鋸。

〈御剣〉「しかし、うっかりゼンマイを巻き忘れてしまうこともあるのではないか?」
〈針之輔〉「いや、心配はいらない。毎日、午後11時から11時半までの30分間をゼンマイ巻きの時間と決めておるからな」
〈御剣〉「昨晩も巻いたのか?」
〈針之輔〉「もちろんだ。喜寿のパーティーだからといって、サボることはできない。いつもどおり、午後11時にやって来て、すべてのゼンマイを巻いたよ」

                           つづく

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