『青鬼 元始編』原稿13
第4話 にげみち(3)
開きっ放しだったドアが突然閉じる。その音に怯え、直樹にしがみつくほのか。
直樹「大丈夫だよ。風でドアが閉まっただけだ。……でも、またいつあの怪物が襲ってくるかもわからない。ほのかちゃんは今のうちに外へ逃げるんだ」
ほのか「……外?」
直樹「屋敷の外。大丈夫。玄関の扉の鍵なら僕が持っているから」
ポケットを探る直樹。鍵を取り出そうとしたとき、一緒にポケットに入れていた首のない人形が床にこぼれ落ちる。人形を見て、表情を変えるほのか。
ほのか(人形を拾い上げながら)「……メサイア」
直樹「え?」
ほのか「これ、メサイア様ですよね? どこで見つけたのですか?」
直樹「どこでって……自分で作ったんだけど。……え? メサイア様ってなに?」
ほのか「本に載っていました。前にここで見つけたのです。確か、このあたりに……」
書棚に駆け寄るほのか。
ほのか「あ……ありました。これです」
分厚い洋書を取り出すほのか。小さな手でページをめくる。ヘブライ語に似たミミズ文字がびっしりと印刷されている。
直樹「日本語でも英語でもないけど……読めるのかい?」
ほのか「はい。お父さまの国の言葉ですから」
ページを開くほのか。そこには直樹の作った呪いの人形にそっくりな人形のイラストが描かれている。人形の下には解読不能の文字「~α〇£」(メサイアを表す現地の言葉。文字の形はお任せします)。
ほのか(解読不能の文字を指差して)「メサイア。これはお父さまの国に古くから伝わる守り神です。メサイア様はどんな願い事でもひとつだけ叶えてくれるといわれていますです」
人形を両手で握りしめ、ひざまずくほのか。
ほのか「メサイア様、お願いします。お姉さまを返してください。ほのかの命と引き換えでもかまいません。お願いします。お願いします」
ため息をつくほのか。
ほのか「……なにも起こりません。神様が願い事を聞き入れてくれたときには、右目の赤い宝石と左目の青い宝石が同時に輝きを増すと、ここには書いてあったのですが……そもそも、このメサイア様には頭がありませんから」
直樹「その本、見せてもらってもいい?」
ほのか「はい、どうぞです」
ページをめくる直樹。魔法陣のイラストを発見する。魔法陣は一部がかすれている。
直樹「これは……」
動揺を隠しきれない直樹。
つづく
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