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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本24

時の館の逆転(8)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、息子の時田龍頭を殺害、77歳
X時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事

▼シーン6(続き)

〈御剣〉[写真を指差し]「ご子息は普段、こちらの時計をはめていたのではないだろうか。おそらくあなたに会うときだけ、アンティークな時計にはめ替えていたのだ。実に、親孝行なご子息ではないか」

 複雑な表情の針之輔。

〈御剣〉「おわかりか? 私が気になっているのは、見るからに高そうなこの時計が、どうしてコンソールボックスに残っていたかということなのだ。犯人は車内も物色している。にも拘わらず、この時計は盗んでいかなかった。なぜだろう?」

 動揺を隠しきれない針之輔。

〈御剣〉「さらにもうひとつ。車のそばには大量の吸殻が落ちていた。ご子息がシガレットケースにしまっていた煙草と同じ銘柄だ。吸殻に付着した唾液を調べればはっきりするが、おそらくご子息が吸ったものに違いない。車を降りたあと、ご子息はすぐにこの家へ向かおうとはせず、駐車場で何本も煙草を吸っている。なぜ、そんなところで? もしや、誰かと待ち合わせをしていたのでは――」
〈針之輔〉「なるほど。物盗りの仕業ではない可能性もあり得るということか」
〈御剣〉「そのとおり。あなたのご子息と顔見知りの人物が、物盗りの仕業に見せかけて殺害したとも考えられる」
〈針之輔〉「なるほど。どうやら、キミはずいぶんと頭の切れる男のようだ。頼もしいよ。その調子で、息子を殺した犯人を一刻も早く見つけ出してくれたまえ」

 そこへ幸丸が現れる。

〈幸丸〉「旦那様。そろそろ庭の草木に水をやる時刻ですが」
〈針之輔〉「おお、もうそんな時間か。すまないが、これで失礼するよ。あとのことは執事に訊いてくれ。ワシの代わりになんでも答えてくれるだろう。ゆうべのワシの行動だって、おそらくすべて把握しているだろうしな」

 部屋を出て行く針之輔。その後ろ姿をじっと眺める御剣。

                           つづく

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