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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本23

時の館の逆転(7)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、息子の時田龍頭を殺害、77歳
X時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事

▼シーン6(続き)

〈糸鋸〉「物盗りの犯行ではないかということで捜査は進んでるッス」
〈御剣〉「早まるな、刑事。まだ断定はできぬぞ」
〈糸鋸〉「え? どういうことッス」
〈御剣〉「少々、気になることがあるからな」
〈針之輔〉「……気になること? なんだね?」
〈御剣〉[眉をひそめ]「あなたのご子息が持っていた腕時計だが――」
〈針之輔〉「ああ。ワシが昔プレゼントした骨董品だろう? 古いがかなりの値打ちものだ。売れば、おそらく300万円はくだらないと思う。」
〈糸鋸〉「さ、300万円! 一体、ソーメンが何杯食べられるッスか?」
〈針之輔〉「ワシも同じものを持っておるが……見るかね?」

 ガラスケースの中から、ひときわ古ぼけた腕時計を取り出す針之輔。

〈針之輔〉「息子はいつもこの時計をはめていたはずだが……」
〈御剣〉「いや、ご子息は腕時計をはめていなかった。おそらく犯人が持ち去ったのだろう。失礼を承知でいわせてもらうが、ぱっと見た感じは、ただみすぼらしいだけで、とても高価なものとは思えぬな。これが金になると見抜いて盗んでいった犯人は、あなたのように相当な目利きだったのだろう」
〈針之輔〉[やや焦りながら]「……そうとは限らんだろう。犯人が金に困っていたなら、選り好みなどしていられなかったはずだ。目についたものを手当たり次第に盗んでいったのかもしれない」[時計をガラスケースに戻し]「キミたち。こんなところで油を売っているのではなく、質屋を調べたほうがいいのではないか? 犯人が値打ち物と気づかず、持ち込む可能性はひじょうに高いと思うが」

 相変わらず難しい表情を浮かべたままの御剣。

〈針之輔〉「どうした? 腕時計のことはこれで解決しただろう?」
〈御剣〉「いいや、ますます困ったことになった」
〈針之輔〉「どういうことだね? 古ぼけた時計をなぜ犯人が盗んでいったか、それを知りたかったのだろう?」
〈御剣〉「いや。私が気になるといった腕時計は、あなたがご子息にさしあげたこれのことではないからな」
〈針之輔〉「……?」
〈御剣〉「ご子息はあなたがプレゼントしたアンティーク時計をはめて、この家に向かおうとしたところを何者かに殺害された。犯人はその時計を奪って逃走した――おそらくそれは間違っていないだろう」
〈針之輔〉「ならば、ほかに悩むことなどなにも――」
〈御剣〉「時計はもうひとつあったのだよ」
〈針之輔〉「……え?」
〈御剣〉「ご子息の乗ってこられた車には、ダイヤの埋め込まれたきらびやかな腕時計が残ったままだった。こちらは見るからに高価そうなシロモノだ」

 車内を撮影した写真を見せる御剣。センターコンソールに腕時計が置いてある。

                           つづく

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