右脳水星短歌会『光るかもね』へのらぶ

11月11日の文学フリマで買った本の感想を魂の続く限りなるべく書いていきたくて、遅くなったけどその一冊目として、自分も参加させていただいた右脳水星短歌会の『光るかもね』の感想、というのはおこがましいので、好きという気持ちを書きます。
※当然ですがめっちゃネタバレを含みます。最高な本なので、読んでない方で読める方はぜひまず読んでください。
※歌の解釈含め、あくまで僕が感じたことであり、とんちんかんなことを言っていることもあると思いますがご了承ください。
※以下の感想(というよりらぶ)を書いてるときは皆さんの歌に感動して独りテンションが高くなっているときであり、基本タメ口になってます。ご了承ください。

1.早月くらさん「reserve」

どっからどう見てもものすごくきれいな彫刻、わぁすごい…と思って眺めていたら、「これ短歌なんですよ」って言われたみたいな衝撃。
音がとても心地よくて、たとえば一首目の「は」音、二首目のk音、三首目のs音のように、同じ音/似ている音を使ったリズムがあるから、さざ波の気持ち良さのようなものがある気がする。内容も、それによって一層頭に入ってくる。
そうした言葉選びのためにもおそらく言葉の引き出しが恐ろしく多い方なのだと思いつつも、使われている言葉に聞きなじみのない言葉が全然ないことが本当にすごい。言葉の魔法使いなのかと。
内容的には、二人の時間を丁寧に追いつつも、作中主体の醒めた目線も感じつつ、でも現在を一歩一歩丁寧に歩もうとする息遣いを感じてとてもグッとくる。きっと、未来に漠然とした期待をあえてしないことで、現在を大切にしている主体なんだろうな、と個人的には思った。

できるなら零したくない、なにもかも、小籠包をじょうずに食べる

早月くら「reserve」

めちゃくちゃ好きな歌。「できるなら」「なにもかも」の使い方が好き。読点の使い方が好き。読点に挟まれた「なにもかも」が小籠包に見えてかわいい。
下の句だけで状況がすごく伝わってくる。そして「零したくない」にかける主体の気持ちが小籠包を前にした映像を伴ってじんわりと伝わってくるようなところがとても魅力的な歌だと思った。

2.あひる隊長さん「流星一過」

やさしい。。。
恋愛短歌でも、何に着目するかで傾向が分かれるとは思うのだけど、この連作は「きみ」について詠んだ歌が多いと感じた。作中主体はきっと、きみがやさしいから好きになり、そしてずっとやさしいからこそ別れが切ないのではないかな、と思った。そのきみのやさしさを語る主体が何よりやさしい。
空や花火の光によって鮮やかな映像美と一緒に、心がきゅーーっとなる感じがとても好きです。

夏だね、と言うとき君が過去問のようにひろげる夏を知りたい

あひる隊長「流星一過」

詩を踏まえて一首目のこの歌で、一気に連作の世界に入れてもらうだけでなく、この歌が一首としてとても良い。尊い。
好きな人に対する表現としてとても沁みるのはもちろんのこと、四句目の「ひろげる」という表現が特に大好き。過去問を広げている感じも出るし、「ひろげる夏」で過去の夏がぶわーっと広がる感じがして、なんだかとっても好き。
夏だね、と「君」が言う何気ない瞬間に、主体の心はこんな広がりを見せている。尊いです。ありがとうございます。

3.麦牛乳さん「透明な鳥」

切実な思いをしみじみ感じるような連作だと思った。おんおんと咽び泣くでなく、じんわりと泣いているとき、もしかしたら余計に強い思いがあるかもしれないというような。
詩にあるように、「君」を大切に思うからこそ、主体の大切な心を大切に話す、やさしい呼吸が感じられる。
たとえば手紙が連作を通じて一つのキーワードになっていると思ったけど、手紙の内容というより手紙に向かうときの手や指の動作などに着目しているようなところに、心を大切にする気持ちが表れているように思った。なんと言ったらいいのかわからないけど、すごく好きです。

あげたものもらったものを積み重ね背骨は海へかえってゆきます

麦牛乳「透明な鳥」

病室のベッドでいくらかの人と交流をしたのち、ゆっくりと背中を倒して寝る体勢に戻る姿を想像した。
この歌の直前の五首目もすごく好きで、存在を積み重ねてきた感じがするのだけど、こちらの六首目はそれを踏まえて、少し違った感慨に至るような。心地よくも儚い、それでいて充実感も感じるような風に自分は感じた。とても好き。

4.ツマモヨコさん「Boxes」

たとえば高架下のスプレーの落書き、壁全面に塗りたくられた激しい色の数々、それがごちゃ混ぜになった感じが、なんだかこの上なく美しく思えて、でもそれがなぜ美しいと思えるのかがわからない。そんな気持ちを、この連作を読んで感じた。もちろん、ものすごく好きという意味で。
主体はコントローラーを操作するように恋愛をしている感じがして、でも読んでいると、あれ?と、実はめちゃくちゃ切なくないか、これ?と感じた。
連作全部が全力で攻めてきて、読者のこっちはびびって逃げそうになるけど、そこをアグレッシブにぶつかっていけば、もっともっと面白くて奥深い世界が見える。そんな連作だと僕は感じた。

シャンデリア用の電球が売ってないホームセンター 家族みたいな

ツマモヨコ「Boxes」

一字空けての結句の「家族みたいな」がくるおしく好き。心にふいに投げ込まれた言葉という感じがする。
歌の解釈というよりあくまで僕が感じたことだけど、シャンデリア用の電球が売ってないホームセンターはひどくつまんないものに思える。多分生活に必要な順に商品が集められ、実用性に基づいて堅実に陳列される。
家族はある場合にはホームの構成要素かもしれないけど、ホームセンターには売ってない。売ってないけど、家族もつまんないかもしれない。
僕は最初、この12首目で「家族」という言葉が出てきて、一瞬唐突に思えたからびっくりした。でももしかしたら全然唐突ではなかったかもしれない。と、この連作を読み返して思った。
とにかくすごく好きな歌です。ありがとうございます。

5.黒川かおる「津田沼と君」(自作)

読んでくださった皆さん、ありがとうございます!!

6.小泉キオさん「coming soon」

絶妙な柔らかさで食べやすいハンバーグが運ばれてきて、食べてみるとすごくおいしい。肉汁もほどよい。焼肉やステーキだと肉が大きいと途中で噛むか全部口に入れちゃうか迷うことがあるけど、このハンバーグならそんなこともなく気持ちよく食べられるね。そんな感じ。
いきなり変なことを言って申し訳ないけども、この連作はどの歌も余白が絶妙で、気持ちよく身を委ねられると思った。
しかも舞台がかなり限定されているから、こちらは追体験するような感覚で読みやすい。それこそ、ゆったりしたソファーで映画を観るように。
主体は「きみ」をとても想っているけど、ほどよい湿度のバランスを保っていて、だからこそ本当の想いであるような気がする。

非常灯ゆっくり点いて目が覚めた気持ちになるのはなんでだろうね

小泉キオ「coming soon」

まず、非常灯が点く瞬間が歌になっている時点でめっちゃ好き。「目が覚めた気持ちになる」あー好き。そして「なんでだろうね」で「きみ」だけでなく読者まで巻き込まれた気になって、とても好き。二句目の「ゆっくり」というのもさりげないようでいてすごく効いてる気がする。
この歌含め、この連作は「そこに」ある感情を捕まえているところが魅力的だと思った。

7.霧島あきらさん「砂紋」

イケてる。タイトル、詩、短歌、すべてクールに決まっててかっこいい。
時間や思いが視覚に変わり、言葉になり、文字になって僕たちの目の前にある。何か大きな力で時空が歪められていて、その歪められた状態のままの質感で手渡された世界。独自の磁場を持ってるというか。
この主体には、僕には見えないものが見えているのがとってもとっても羨ましい。できるなら眼や脳を入れ替えさせてもらって、その世界を見たい。それはできないけど、幸運にも歌になって読めるからありがたく繰り返し読ませてもらう。大切に。

この場所はかつて原野と思わせるあなただ 裸婦の視線は宙へ

霧島あきら「砂紋」

裸婦の絵や像を美術館で見ているところを想像した。というか見ていないのかもしれない。「裸婦の視線は宙へ」というから、目は合っていない気がする。そしてあなたには時間の重力がかかっている。そう、ここは原野だった。裸婦なんて描かれていなかった。果たして「あなた」が原野と思わせているのか、主体が原野と思っているのか。でもそんなことも無意味なのかもしれない。
なんかもうとにかくめっちゃいい。好きです。

8.なすれさん「輪廻」

輪廻というと、苦しい、逃れられない宿命というイメージが個人的にはあるのだけれど、この連作では「僕」は輪廻する世界の中でひたすらに「君」のことを考えている。求めている。愛している。
ルーヴルやパリ、月や地球儀というスケールの大きい物が出てきつつも、それが二人の世界の二人の主観の中にいとも簡単に収められてしまう。
たとえば僕たちの日常で愛と言葉でいうのは簡単だけれども、ここでは広い世界や果てしない輪廻というものと対峙しても全く揺るがない、極限に透き通った心の空間を見せられて、「あぁ、これか…」というような気持ちになった。好き。

君が観ないアニメは僕も観ないかな夕陽を見ながらおしゃべりしよう

なすれ「輪廻」

君が観るアニメを僕も観る、でなく、「観ない」という選択を共有する。その一種のねじれによって、「君」への深い愛情が感じられると思った。
そしてアニメは、それ自体が語るけども、夕陽は語らずにそこにあり、やがて消えるだけ。同じ「みる」でも夕陽は言ってみればなんでもないもので、なんでもないものを一緒に見ながら「君」に意識を向ける。最高すぎる。あまりにも素敵。
ああ(感嘆詞)。

9.睦月雪花さん「春を渡る」

別れって、いくら自分の心を取り繕おうとしたって、激しく乱されたり、しんとした余韻がいつまでも残ったり、なかなか苦しいことがあるなと思う。この連作はそんな別れを詠いながら、そこには「わたし」自身に対する優しくも確固たる視線があって、それがとても胸にくる。
恋愛は相手だけでなく自分もいなくてはできない。そのことを思い出させてくれる大切な作品。
主体はとても強さを持っているけど、それが発揮されているのが大きな別れに直面したギリギリの状況であることで、単純ではない感情の水面が見える気がする。とてもいいなぁと思った。

昨日までお揃いだった物たちにひとりで生きる意味を与える

睦月雪花「春を渡る」

大切な/だった人とお揃いで持っていた物に対するその後の思いは人それぞれだと思うけど、「お揃い」というモードからそうでないモードへの移行の瞬間があって、そのことに気づかせてくれることがまずすごく好き。
その上で、下の句の「ひとりで生きる意味を与える」があまりにも涙不可避で良すぎる。
お揃いという目的で買われた(あるいは作られた)物であっても、「ひとりで生きる意味」を持っていい。物に対する優しい目線があって、でも物に対する肯定は主体自身に対する肯定にもつながっているような。
存在への愛というようなものを感じて非常に好き。

10.暗い部屋でさん「祈るかもね」

すごすぎて読んでて一回倒れた。いや、二回以上かも。
水中を高速で潜っていく未知の乗り物に乗せてもらって、宝物はここだよ!ってあっという間に面白い水中洞窟に連れてかれたような感じ。
言葉でこんな形が作れるんだ、という驚き。
内容的にはあくまで僕の感じ方なのだけど、これは他の方の連作とはかなり違った「恋」なのではないかと思った。「あなた」は普段日常的に話すような関係にある人ではないかもしれない。
主体は世界から疎外されているようなもどかしさをずっと抱えていて、描いたり書いたり話したり以外では能動的に動いていないような気がする。
ずっと他者を待っていて、その切実さが祈り、というように読んだ。
読んだことで僕の心の中に新しい部屋を作ってくれたような素敵な作品。

靴は黒 九月のジュンク堂は嘘、止まない拍手もぜんぶ嘘だよ

暗い部屋で「祈るかもね」

主体は九月のジュンク堂でトークショーにでも参加したのか、それとも無関係な並列なのか。
どちらにしても、客観的には存在の疑われない物が全部嘘と言われる。だけれども「靴は黒」に「嘘だよ」はつかない。
客観的事実は選ぶことができないけど、祈りは選ぶことができる。主体の強い祈りが、それ以外を嘘に変えてしまったのかもしれないと思った。
好きです。

・最後に

本当にすべて素敵な作品で、読ませてくれてありがとうの気持ちがスカイツリーを抜きそうです。

個人的な話としては、こんなに素敵of素敵な短歌集に参加できて、とても嬉しいです。いまだに100の嬉しさが持続してます。
主宰の暗い部屋でさん、サブリーダーとして僕を誘ってくださった霧島あきらさん、そして他の執筆者の方々、読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

ところで12日〆切のあたらしい歌集選考会が本当にやばい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?