短歌三十首連作「犯人さがし」
第67回短歌研究新人賞応募作です。
犯人さがし/黒川かおる
先生に挙げろと言われ 挙げた子と挙げてない子のその後が産まれる
チョークには毒が入っていると言う先生、女子を下の名前で
声変わりするより先に死ねという言葉が流行り青すぎる空
キーパーをやりたいと手を挙げたならどんなボールも来るようになる
どの指も触りたがっているような形でボールではなく土を
パンツまで濡れているとき雨粒は皮膚の内側からも育って
ざらついた部室の床に夏がきてそれでもゴール前より冷たい
落ちてくるチームメートの身体ごと砂、増えていき地の底にいた
致死量の天井、そしてそれからはアスファルトの星ばかり見ている
動かせる人形はみな動かせる手がなくなればうなだれていく
ウロボロス 遊び続けるしかなくて男は男を必要とする
自転車が通過していくスカートで鋭い風を生み出しながら
新聞をたとえばめくる音さえも刺すようになり穴、増えていく
泣ける、とは便利な言葉池の水全部抜いても池と呼ばれて
ガラケーのデータ修復この星のどこかで思い出される性器
包丁は切るためにある真夜中の背中に冷蔵庫の高いびき
両腕に手首はあって片方は死ぬまで罪を知らないままで
始発に乗って独りになって秋の日の死だけど自由な死だと思った
ネクタイを締めるとき締められている男の指に触れられている
わかるほどゆるしてしまう天井の電球にさえ届かないのに
手で顔をあるいは世界を隠すとき守られるのはどちらだろうか
誰にでも道を譲ってそのせいでたまに勝者を作ってしまう
和姦とはひとりの言葉靴の中雪で満たされ溶けていくまで
陶器には声がないから真っ白な血を何度でも何度でも吸う
駐車場脇に聳える彼岸花いつかこの手を殺したと思う
こわいとは来るなの言い換えだったかもしれない人工光の十字路
考えを特急列車が横切って まだ考える遮断機の前
やさしさは強さだという 土踏まず 体重計で毛を剃っている
見上げれば雪の故郷が見えていて見えないものがほんものだった
ピーという発信音のあと黙る それでもいつか歌になるから
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